ローマ人の物語(17) の商品レビュー
悪名高き皇帝たち。しかしてその実体は。 アウグストゥスの後を55才で継いだティベリウスの政治は、現代人からして「こんな人が統治してくれたら…」と羨まずにはいられないほどの現実主義者に見える。 建築補修や食糧配給は惜しまず、人気取りのための剣闘興業や新築事業の出費を抑える緊縮財政...
悪名高き皇帝たち。しかしてその実体は。 アウグストゥスの後を55才で継いだティベリウスの政治は、現代人からして「こんな人が統治してくれたら…」と羨まずにはいられないほどの現実主義者に見える。 建築補修や食糧配給は惜しまず、人気取りのための剣闘興業や新築事業の出費を抑える緊縮財政、前線各地での反乱に対して配下に権限を委譲する独裁の否定、人員が増えすぎた元老院の議決速度をあげるための委員会方式の設立、被災地の自立を促す免税援助、政治的に有利な判決を選ばずに法の前の平等を貫いた司法の確立。 そして、特に強調すべきは洪水被害に対して神託を求める要請を却下し、行政による解決をはかった現実主義路線だろう。 もちろんカエサルやアウグストゥスも信仰を理由に行動する人物ではなかったが、人心掌握のために神と儀式を利用することを躊躇わなかった。ただティベリウスは、周囲の理解を得るための妥協よりも、己が信じた道を貫き通すことを選んだ人物だった。 7月はユリウス、8月はアウグストゥスの名が今も残っているが、9月にティベリウスの名を冠しようと提案されたときもまた、皇帝自身がこれに反対した。「『第一人者』が10人を越えたときはどうするのか」と。 しかし、時代のせいか、血のせいか。アウグストゥスが後継者に悩まされたのと同じように、次期皇帝第一候補ゲルマニクス、実の息子でもあった第二候補ドゥルーススが続けて失われる。 それでも新税も課さずに国境の軍事体制を整える辣腕を示す皇帝に対し、それをあがめたたえる仕事すら拒否された元老院議員との距離は、ますます広がる。 人の上に君臨することを拒否したが、周囲のレベルの低さに自らを落とすことも、国を見放すことも出来なかったティベリウスは、政権は捨てないままに、近隣の孤島に越すことを選ぶ。 民心から離れた優秀な皇帝の行く末とは。次巻に続く。
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タイトルほどネガティブな話ではない。改めてだが作者のローマ愛が感じられるので読んでいて嫌な感じはしない。次巻も楽しみ。
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帝政を構築した初代皇帝アウグストゥス。その後に続いた、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロの四皇帝は、庶民からは痛罵を浴び、タキトゥスをはじめとする史家からも手厳しく批判された。しかし彼らの治世下でも帝政は揺らぐことがなく、むしろローマは、秩序ある平和と繁栄を謳歌し続けた...
帝政を構築した初代皇帝アウグストゥス。その後に続いた、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロの四皇帝は、庶民からは痛罵を浴び、タキトゥスをはじめとする史家からも手厳しく批判された。しかし彼らの治世下でも帝政は揺らぐことがなく、むしろローマは、秩序ある平和と繁栄を謳歌し続けた。「悪」と断罪された皇帝たちの政治の実態とは。そしてなぜ「ローマによる平和」は維持され続けたのか。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
副題が「悪名高き皇帝たち」と書かれていたので、エグいことした皇帝が続くのかなと思っていけど違った。個人的に、かなりティベリウス好きかもしれない。周りを気にせず、目的の為に制作を実行する姿がカッコいいし、悪評が立とうが、自分の仕事のし易さを求めてカプリに隠遁するのも素晴らしい。ただ、塩野さんが言うように、民衆と元老院をある程度騙すような行為を全くしなかったのは、ティベリウスの大きな欠点だったとは思う。
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著者も冒頭で本書のタイトルについて『タキトゥスを始めとするローマ時代の有識者と、評価基準ならばその延長線上に位置する近現代の西欧の歴史家たちの「採点」の借用であって、これには必ずしも同意しない』と述べているように、ティベリウスのどこが悪帝なの?というのが率直な感想。 自分の上司に...
著者も冒頭で本書のタイトルについて『タキトゥスを始めとするローマ時代の有識者と、評価基準ならばその延長線上に位置する近現代の西欧の歴史家たちの「採点」の借用であって、これには必ずしも同意しない』と述べているように、ティベリウスのどこが悪帝なの?というのが率直な感想。 自分の上司にいたら相当息苦しいだろうなとは思うが。。 「悪名高きアグリッピーナ」なら納得。
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2代皇帝ティベリウスの物語。アウグストゥスから受け継いだ帝国経営は、皇帝の絶対的な支配権によるものではなく、元老院の承認のもとに支配を委託された矛盾に満ちた形態であった。しかも皇帝ティベリウスはこの元老院階級の名門出身のせいもあってか元老院制下の皇帝というい責務を果たそうと真摯に...
2代皇帝ティベリウスの物語。アウグストゥスから受け継いだ帝国経営は、皇帝の絶対的な支配権によるものではなく、元老院の承認のもとに支配を委託された矛盾に満ちた形態であった。しかも皇帝ティベリウスはこの元老院階級の名門出身のせいもあってか元老院制下の皇帝というい責務を果たそうと真摯に果たしたが、その結果、元老院が責務に及び腰になる。カエサルが描き、アウグストゥスが建てたローマ帝国は、ティベリウスによって仕上げられたのであった。
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悪名高き皇帝たちの1人目である,2代目皇帝ティベリウスが,アウグストゥスから帝位を継いでから,カプリ島に引退するまでの物語です。ティベリウスに厳しい評価を下すタキトゥスでも,まだ肯定的に評価したカプリ島隠遁以前のティベリウス帝が,「カエサルが企画し,アウグストゥスが構築した」帝...
悪名高き皇帝たちの1人目である,2代目皇帝ティベリウスが,アウグストゥスから帝位を継いでから,カプリ島に引退するまでの物語です。ティベリウスに厳しい評価を下すタキトゥスでも,まだ肯定的に評価したカプリ島隠遁以前のティベリウス帝が,「カエサルが企画し,アウグストゥスが構築した」帝政を「盤石にするため」に実施した前半生の施策が中心になっています。 カエサルやアウグストゥスとは違い,敵対者を敗退させた勝利者ではなく帝位を継いだティベリウスは,自らの三番手としての立場と目的を強烈に意識していました。彼が厳しい自己意識から着実に皇帝として実施した職務は,即位直後の軍団蜂起への対応から,防衛体制の再構築,財政健全化,そしてアウグストゥスの血を直接引かないティベリウス帝ゆえに直面することになった家庭の問題へと多岐にわたるものでした。 元老院の現状と家族などの周辺環境に見切りをつけた彼は,沿革からでも帝国を統治できる体制を構築し,カプリ島に隠遁するわけですが…。
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二代目のプリンチェプスであるティベリウスの皇帝としての生涯のほとんどを描いている。 皇帝としての仕事は死後100年はそのままに残ったが、重要だが地味な仕事ばかりをしていたためにローマ市民からも元老院からも疎まれ、家庭内も不幸続きであつたことを考えると、幸福とは何なのか考えざるを得...
二代目のプリンチェプスであるティベリウスの皇帝としての生涯のほとんどを描いている。 皇帝としての仕事は死後100年はそのままに残ったが、重要だが地味な仕事ばかりをしていたためにローマ市民からも元老院からも疎まれ、家庭内も不幸続きであつたことを考えると、幸福とは何なのか考えざるを得ない。
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意外に二代目の皇帝ティベリウスが素晴らしい。カエサルが構想して、アウグストゥスが築いた帝政の基盤を、確実なものに固めていく。人気取りなどは一切しない。必要なことを淡々と進めていく感じ。そして、それがきちんと機能していく。ただ、やっぱりなんとなく暗い感じ。もっとぱ〜としたところがあ...
意外に二代目の皇帝ティベリウスが素晴らしい。カエサルが構想して、アウグストゥスが築いた帝政の基盤を、確実なものに固めていく。人気取りなどは一切しない。必要なことを淡々と進めていく感じ。そして、それがきちんと機能していく。ただ、やっぱりなんとなく暗い感じ。もっとぱ〜としたところがあってもいいのに。 しかし、アウグストゥスの娘の子であって三代目の皇帝を約束されていたゲルマニクスの妻の、アグリッピーナがいろいろな場面でしゃしゃり出てくるのが辟易する。これに関して、女の性質が書かれた箇所があったが、まあ納得してしまうな。 皇帝たるものの考え方の違いが紹介されている箇所も興味深い。
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ちょっと後まで読んでいる身としては、この巻で扱われているティベリウスなんてかわいいもん、というよりも善政だったんじゃないかと思いますね。これで人気がなかったからって悪名高き、なんて名づけられてかわいそうです。緊縮財政にしないといけなかった、嫌になってカプリ島で政務を行ったからとい...
ちょっと後まで読んでいる身としては、この巻で扱われているティベリウスなんてかわいいもん、というよりも善政だったんじゃないかと思いますね。これで人気がなかったからって悪名高き、なんて名づけられてかわいそうです。緊縮財政にしないといけなかった、嫌になってカプリ島で政務を行ったからといっても全うなことをやっていたと思います。
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