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冬の犬 の商品レビュー

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35件のお客様レビュー

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2024/01/06

冬の季節に、もう一度読もうと決めていた。凛としたマクラウドの文章に相応しい気がして。 もちろん穏やかな関東の冬晴れは、カナダの凍える寒さとは比ぶべくもないのだけれども。 “当時のことについては、はまるで昨日のことのように懐かしく思い出される。それでも自分がどのくらい当時のままの...

冬の季節に、もう一度読もうと決めていた。凛としたマクラウドの文章に相応しい気がして。 もちろん穏やかな関東の冬晴れは、カナダの凍える寒さとは比ぶべくもないのだけれども。 “当時のことについては、はまるで昨日のことのように懐かしく思い出される。それでも自分がどのくらい当時のままの声で話し、どれくらいそれ以降の大人になった声で話すのか、よくわからない。クリスマスは過去と現在の両方が混在する時間であり、この二つはだいたい不完全に混じりあっているからだ。その時点での「現在」に足を踏み入れながら、大抵の場合、後ろを振りかえっているのである。” 『すべのものに季節がある』の冒頭に記されたこの言葉は、クリスマスに限らずマクラウドの短編のすべてに当てはまるだろう。 子供時代の思い出が、祖父母が暮らし父母が受け継いだ土地のにおいと景色が、ゲール語の歌に残る大西洋を隔てた遠いスコットランドハイランドの記憶が、そのすべてがありありと目に浮かび、季節と共に繰り返し繰り返し続いていくように思えながらも、時代は移ろいそのときには二度と戻ることは叶わないことが同時にわかっているー深い喪失の痛みが胸に沁みてくる。 ケープ・ブレトン島を舞台に描かれるのは牧歌的な理想郷ではない。貧しく、過酷な労働の日々を誠実に生きる家族の暮らしだ。 マクラウドは最後の語り部として、遠く離れた愛する故郷と、そこに生きる人々を書き記しておきたかったのだろう。 『クリアランス』で、変わりゆく時代に抗うではなくとも“俺たちは、こんなことになるために生まれてきたんじゃない”と呟き、遠きスコットランドの地で出会った友の言葉を胸に決然と一歩を踏み出す老人に湧き上がる誇り。 『完璧なる調和』で、金のために伝統を曲げた歌でコンサートステージに出ようとする若い荒くれ者たちと向き合い、彼らの中にこそハイランダーの勇猛果敢な祖先の血が流れていると感じる、最後の歌い手の胸に浮かぶ思い。 そして不意に放たれる“あのさ、俺たち、わかってるから。わかってる。みんなちゃんとわかってるから”という、言葉。 一つの時代は幕を下ろすとも、つながっていくものも確かにあるのだ。

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2023/01/03

カナダ東部のケープブレント島を舞台にした8編からなる短編集。またすごい本を読んでしまった。今より不便で、伝統や神話がもう少し身近だった時代のお話。動物はペットではなく、仲間であり食料でもあった。「完璧なる調和」の最後の場面でなぜか泣きそうになってしまう。「俺たち、わかってるから。...

カナダ東部のケープブレント島を舞台にした8編からなる短編集。またすごい本を読んでしまった。今より不便で、伝統や神話がもう少し身近だった時代のお話。動物はペットではなく、仲間であり食料でもあった。「完璧なる調和」の最後の場面でなぜか泣きそうになってしまう。「俺たち、わかってるから。わかってる。みんなちゃんとわかってるから」生活のために伝統が薄れていってしまうことがあっても、誇りはそこで輝き続けるのだ。

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2022/02/03

カバーの絵が私を惹きつけて離さない。読む前も、読んだ後も。 雪の林の中にたたずむヒトと大きな犬 カナダ、北米大陸の北東のスミのスミのスミッコの島の物語 登場するのは、ヒト、犬、牛、馬、羊、林、島、波、雪、流氷、歌……。 収録された短編八話は独立しており連作ではない。 なのに、...

カバーの絵が私を惹きつけて離さない。読む前も、読んだ後も。 雪の林の中にたたずむヒトと大きな犬 カナダ、北米大陸の北東のスミのスミのスミッコの島の物語 登場するのは、ヒト、犬、牛、馬、羊、林、島、波、雪、流氷、歌……。 収録された短編八話は独立しており連作ではない。 なのに、どれも同じものを感じ、なぜかどれも不思議な魅力でひきこまれてしまう。 スコットランドとの歴史的民族的背景が、この物語たちの性格付けに影響している……と何だか偉そうな私は、読み終わって調べてからの「後付け」。 読んでいる最中より読み終わった後に漂う余韻、これは何だろう。 書かれたことば一つ一つが「強い」から? ……じゃなくて「生きている」? うーん、違うなぁ……そこに「ある」ということ? ただものではない感じは伝わったけど……。 たぶん、再読する。それも頭からではなく、突然に、気に入った個所からの……。

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2022/01/05

多くは語らない。しんと静かに染み渡るような、寡黙な文章。だけどそこには、喜びも悲しみも、生命の営み全てがある。本当に良い本。 白い雪が舞う、静かな夜更けの冷たい空気に包まれて、去りゆくものは、良いものを残していく。 そんな本。 胸にじーんと来る。ほうとため息が漏れる、読後感。

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2020/06/20

スコットランド(高地)系カナダ人の日常を描いた短篇集。16篇収録のオリジナルを、2分冊としたものの後半らしい。前半は未読である。時代設定が古いこともあるが、書かれている内容は厳しい自然や、動物との繋がりを絡めたものが多く、特に冬期の描写は過酷を極める。どれも味わい深いが、表題作の...

スコットランド(高地)系カナダ人の日常を描いた短篇集。16篇収録のオリジナルを、2分冊としたものの後半らしい。前半は未読である。時代設定が古いこともあるが、書かれている内容は厳しい自然や、動物との繋がりを絡めたものが多く、特に冬期の描写は過酷を極める。どれも味わい深いが、表題作の「冬の犬」、ゲール語の歌を扱った「完璧なる調和」がよかった。

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2019/12/30

北アメリカの5大湖の東オンタリオ州から東に位置する半島の先、左には「アン」のプリンスエドワード島が見える。 そこにケープブレトン島ある。ガボット海峡を越えるとニューファンドランド島。 イギリスから渡ってきた最初の人々が住み着きそこで根を張って、子孫を増やしてきた。言葉はいまだに古...

北アメリカの5大湖の東オンタリオ州から東に位置する半島の先、左には「アン」のプリンスエドワード島が見える。 そこにケープブレトン島ある。ガボット海峡を越えるとニューファンドランド島。 イギリスから渡ってきた最初の人々が住み着きそこで根を張って、子孫を増やしてきた。言葉はいまだに古い人たちはイギリス、スコットランド地方の、ローランドまたはハイランドなまりを聞くことが出来る。 その島で育った、アリステア・マクラウドの珠玉の短編集。 彼は31年間に16編の短編を書いた。この「冬の犬」は後半の8編を納めている。 何代にもわたる家系を引き継ぎながら、狭い島で農業と牧畜で暮らす人たち。四季を通じて周りの海は姿を変え色を変え、日に染まった夕暮れ、霧の深い朝。四季それぞれの移り変わりの中で暮らす子沢山の一家の一日であったり、兄弟の絆や、父親が息子に伝える、牧畜の智恵だったり。忘れていた遠い暮らしの懐かしい風景が繰り広げられる。 今は移住者も分化して血のつながりも曖昧になったがやはり名前を聞くと遠い遠い血のつながりがあるような人たちや、よそからきて住み着いた人たちとの交流、牛の種付け、馬の交配。生まれる子どもの世話。春から始まる牧草集め。暮らしは営々と続いている。 四季折々のささやかな心浮き立つ行事の様子など、すべてが命を繋いでいくという終わりのない生活の中で、悲しみや喜びを載せて鮮烈にまた刺激的な出来事もこめて、濃く暖かく暮らしを描きだす。 時には厳しい雪との戦い、馬で走ると巻き上がる光の粉の様な雪のかけら、馬の白い息。都気に襲う猛吹雪。冬の描写は美しく厳しい。 春一面の芽を吹く一面の緑。そのなかでで生きている人と家畜の愛情深い交わりが今では遠くなった暮らしをしみじみと見せてくれる。 「幻影」 船の舳先からカンナ島の湾曲した先が見える。小さな半島だったが当時は船で行くのが近かった。やっと許されて双子がそこに行き、不思議な盲目の老婆に会う。その先に2人の曽祖父と曾祖母が住んでいた、雨を避けて駆け込んだ盲目の老婆の荒れた家の中は、犬と猫がすみつき、寒い日は壁板をはずして燃やしているようだった。 ある日遠く黒いけむりがたち昇るのが見え老女の家が焼けたのを知った。盲目の父はその半島の昔のことを知っていた。 今では車で海伝いに池が近い距離だが、子ども時代には遠く離れた不思議な島だと思っていた。陸地では酪農、海では兄弟は父とともに海老もとっている。なんだか「フォレスガンプ/一期一会」を思い出した。、子犬を拾って育て、その犬の子どもたちに殺された話。それは今でも死を前にした人の前に灰色の大きな犬が幻のように現れるという、その言い伝えは心の奥深くひそかに受け継がれていた。父の臨終で犬の気配はないか、父は何かを怖がってはいないか。子どもたちは息をつめて見守っている。 冬の犬 12歳のとき子犬が箱に入れられてやってきた。犬は大きくなるにつれ足は毛で覆われ、コリー特有の金色の毛に変わった。しかし訓練しても役には立たなかった。犬はますます大きくなり、羊は追い払う役立たずの乱暴犬になった。 力があるのでそりをひかせて流氷を見に行った。アザラシが流れているのを見つけたが重くて海岸まで運ぶのに骨が折れた。氷の割れ目に半分浸かりながらもがいていると、流れていく流氷を飛び越えて犬は案内をするように走り陸にあがった。そしてなぜか安全な氷を渡ってまた戻ってきた。 風の強い日だったので私の声が聞こえたのか知る由もなかった。 うちのそっと帰り誰にも気づかれず服を着替えて居間に戻った。犬はそのまま寝そべっていて「どこへ行ってきの。こんなにびしょびしょで」わたしは犬の周りを何気なくモップで拭き取り。犬に助けられてことは誰にも言わなかった。それから二度目の春。こんもりした丘の上に座ったいた犬が撃たれた。弾は肩を射抜き犬は宙に跳び上がった。そして1キロも歩いて家に帰ろうとしたのだ。 犬は私たちと暮らしたのは短い年月で、犬はいわば自業自得で自分で運命を変えたのだが、それでもまだあの犬は生き続けている。私の記憶に中に、私の人生の中に生き続けている。 「完璧なる調和」 父、アーチボルトはみんなでゲール語の歌を歌ってほしいと言うリクエストが来た。ちょっとした紹介番組だったが、歌を途中で切られるのが気に食わなかった。でもアーチボルト一族の歌のうまい人たちが集まった。 最後まで読んで、長い長い涙まじりの溜息が出た。 たまにこうした「完璧な宝石のような文章」といわれている本を読むのも読書の楽しみかもしれない。何を読んでもすぐに忘れるのに、これは何かいつか見たことや感じたことが思い出されるようだった。長く記憶できそうな作品だった。

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2019/11/05

たまたま軽い気持ちで手にとったけれど、読んだ後に心にじんと響いて忘れられない一冊となる本があります。 アリステア・マクラウドは、これまで耳にしたことのなかった作家でしたが、シンプルな装丁と「冬の犬」という表題に惹かれて読み始めました。 舞台はカナダ北東部のケープ・ブレトン島。...

たまたま軽い気持ちで手にとったけれど、読んだ後に心にじんと響いて忘れられない一冊となる本があります。 アリステア・マクラウドは、これまで耳にしたことのなかった作家でしたが、シンプルな装丁と「冬の犬」という表題に惹かれて読み始めました。 舞台はカナダ北東部のケープ・ブレトン島。赤毛のアンの舞台プリンス・エドワード島の、さらに東に位置する最果ての地です。自然と格闘し生きる人たちの姿が描かれています。 彼らはイングランドでの圧政を避け移住したスコットランド高地人(ハイランダー)の末裔。ゲール語という祖先の言葉を大切にしつつロブスター漁を生業とする人、痩せた土地でじゃがいもを栽培して家族を養う者、あるいは木こりとして生きる者がいます。 カナダ北東部ノバスコシア地方の厳しい自然と、牛や羊、犬など人間とともにある生き物の姿が、彼らの汗と息づかいとともに生き生きと描かれています。 これは作者マクラウド自身が、ケープ・ブレトンで育ちゲール語と英語の二つの言語に通じているからこそ作り出せた小説世界でしょう。なかでも、表題作の「冬の犬」がいい。少年の頃のちょっとした冒険が、端正な言葉で綴られていて、久しぶりに物語を読む楽しさを体験できました。

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2018/12/03

前作「彼方なる歌に耳を澄ませよ」がもうたまらなく好きで、著者の訃報を新聞で見た時、そうだ、ほかの作品も読まなくちゃ~と思って・・・それで思い出して読んだはずなのですが、訃報もすでに4年前の話なのね。自分にびっくり。目を開けたまま冬眠してんじゃないかしら、私ったら・・・ さて、「...

前作「彼方なる歌に耳を澄ませよ」がもうたまらなく好きで、著者の訃報を新聞で見た時、そうだ、ほかの作品も読まなくちゃ~と思って・・・それで思い出して読んだはずなのですが、訃報もすでに4年前の話なのね。自分にびっくり。目を開けたまま冬眠してんじゃないかしら、私ったら・・・ さて、「彼方なる~」は、ある家族の記憶と現実との間を波のようにいったりきたりする、詩のような歌のような作品だったとおぼろに記憶していますが、この短編集は動物がかなり重要な役を演じているものが多く、そのせいか寓話や神話のような雰囲気があって、前作とはまたちょっと違う印象でした。 ただ、動物と言っても、描かれているのは、愛玩用のペットではなく、生きるための資源、サバイバル・ツールとしての家畜たち。 だから、彼らを描くことで必然的に自然の厳しさと人間のちっぽけさも描かれることになり、ひ弱な私はすっかり恐れ入ってしまった。 干し草の出来具合が家畜たちの運命を決めるところや、濡れた服が瞬間的に凍るシーンなど、とにかく極寒の地の暮らしは知らないことだらけ。やたら心臓をどきどきさせながら読みました。 それだけでも、そこらへんの冒険ものなんて目じゃないくらいに興味深くおもしろかったのですが、そこで終わらないのがこの著者の素晴らしいところ。 前作同様、血に刻みこまれているかのような一族の記憶や、登場人物たちの生き方のくせみたいなものが、長い時間の経過によって、ゆっくりと変化し昇華されたりしていく様子も描かれている。 時間、が動物同様、すごく重要なファクターで。 人がとにかく生きて年を取るという、ただそれだけのことがこんなにも美しいことなのか、と、読んでいて時々愕然としました。 収録作品は全部好きだけれど、特に「完璧なる調和」が良かった。たまらず涙がこぼれ、二回も読んでしまいました。映画一本見たみたいな読後感。 オンダーチェ、アリス・マンローに、この著者、と、どうも私はカナダ人作家が好きみたい。ド田舎で育った幼少期の記憶が体中にしみ込んでいて、カナダの大自然の描写を読むとそれがざわざわしてしまうのかな~。 あるいは、オンダーチェ、ジュンパ・ラヒリ、この著者、のように、二つの言語、二つのアイデンティティに揺れる人々を描く作家も好きみたい。 自分の嗜好にそういう偏りがあると気づいた今日この頃です。

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2018/03/04

これはすごい。豊饒なイメージ喚起力。人間や人生に対する深いまなざし。良い文学作品だと思います。いずれ再読したい。(2018年2月24日読了)

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2019/03/15

アリステア・マクラウドとウィリアム・トレヴァーの小説はとてもよく似ている。一編一編に書かれているものに込められた思いや情感が深く、ずっしりと重たいので、軽く読み飛ばすことができないからだ。書かれているのは過ぎ去った年月、祖先から脈々と受け継がれてきた血と自然、動物たち。私はこの本...

アリステア・マクラウドとウィリアム・トレヴァーの小説はとてもよく似ている。一編一編に書かれているものに込められた思いや情感が深く、ずっしりと重たいので、軽く読み飛ばすことができないからだ。書かれているのは過ぎ去った年月、祖先から脈々と受け継がれてきた血と自然、動物たち。私はこの本を深夜から夜更けにひとり裸電球を灯し、何ヶ月も時間をかけて一編ごとにじっくり味わうようにして読んだ。そして最後のクリアランスを読み終えて静かにページを閉じた時、私はたしかに遥か彼方、ケープブレトンの海から吹きすさぶ風をこの身に感じた。この本を読み終えたあなたもきっと感じるはずだ。

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