嘘つきアーニャの真っ赤な真実 の商品レビュー
ロシア語通訳者だった著者が少女時代を過ごしたチェコのソビエト学校での、ルーマニア人、ギリシャ人、ユーゴスラビア人の級友たちの話と31年後の再会を記したノンフィクション。中欧の情勢に詳しくないので、いろいろ勉強になった。 読み終えてから知ったことだが、著者が再会するところはテレビの...
ロシア語通訳者だった著者が少女時代を過ごしたチェコのソビエト学校での、ルーマニア人、ギリシャ人、ユーゴスラビア人の級友たちの話と31年後の再会を記したノンフィクション。中欧の情勢に詳しくないので、いろいろ勉強になった。 読み終えてから知ったことだが、著者が再会するところはテレビのドキュメンタリーになっていたらしく、ユーチューブで本書に出てくる本人たちを見ることが出来た。 チェコという国で、小中学校の級友もみな外国人で、それぞれの祖国への思いを抱えながら、そして自分のアイデンティティを育てながら成長していく。30年後に会う友人の中には、亡命してロシア語を忘れてしまった人もいたが、子供たちの絆は固く結ばれていたようだ。努力して医者になったギリシャ人の友人、特権階級であることを見てみぬふりをするアーニャ、ユーゴスラビア人でボスニア紛争のもとに生きるヤスミンカなど、それぞれの人生模様が非常に興味深い。作者の文章もとてもうまく、最後まで引き込まれた。 オススメの1冊。
Posted by
昔の友達を訪ねる記録。 しかも東欧。時代背景やら、政治情勢やらまったくわかっていなくても、ぐいぐい読めてしまった。それだけで読まずにきたとしたら、ちょっとソンだった。読めてよかった。
Posted by
ユーゴスラビア、クロアチアなど、十数年前の紛争の時にちらと名前を聞いた程度の知識だったが、あらためて地図を見ると、思ったよりずっと西にあって驚く。”西欧”なイメージのギリシャやブルガリア、フィンランドよりもずっと西。イタリア、ドイツなど馴染み深い国のこんな近くで、つい最近まで空爆...
ユーゴスラビア、クロアチアなど、十数年前の紛争の時にちらと名前を聞いた程度の知識だったが、あらためて地図を見ると、思ったよりずっと西にあって驚く。”西欧”なイメージのギリシャやブルガリア、フィンランドよりもずっと西。イタリア、ドイツなど馴染み深い国のこんな近くで、つい最近まで空爆が行われてたといたとは。 そんな日本から見て死角に位置するような東欧諸国の生活を想像できるだろうか。本書はチェコ、ルーマニア、ユーゴスラビア、ギリシャ、そして日本他各国の人々が共産時代のプラハのソビエト学校で過ごす日々と、その後の人生を辿るエッセイ。小説ほどドラマティックな愛と感動の悲喜劇が起こるわけではなく、誰もが淡々と動乱の情勢に飲み込まれ、人生を動かされる。背伸びしたがる噂話好きの耳年増な女の子。正々堂々と嘘をつく目立ちたがりで自信家な女の子。澄まして孤立しても揺るがない毅然とした強い女の子。子供の性格の違いは家庭とその周囲のミクロな環境で決まるのだろうが、例え僅かな距離の差であろうとも、マクロな国家間の思想の違いが個人に与える影響というものを思い知らされる。 日本にいると、自分は強制されない思想を持っていると思いがちだが、そうではなく、ただ思想の違いを実感できない環境に自らを置いているだけなのかもしれない。技術が発展し、世界の物理的距離が縮まっても、地域の背景を理解し、指向性を持って対話を進めない限り、精神的距離が近づくことはないだろう。
Posted by
買いっぱなしでずっと積まれてた一冊。海外旅行に行く時、飛行機の中で読もうと思って本棚から出した。 最近、反韓や反中という言葉を本のタイトルでもよく目にするようになって、民族とか文化について真剣に考えなければいけないな、と思う。 そんな中でこの本を読めて良かった。 民族の対立っ...
買いっぱなしでずっと積まれてた一冊。海外旅行に行く時、飛行機の中で読もうと思って本棚から出した。 最近、反韓や反中という言葉を本のタイトルでもよく目にするようになって、民族とか文化について真剣に考えなければいけないな、と思う。 そんな中でこの本を読めて良かった。 民族の対立ってなんだろうな。 どうしてそんな争うことになるんだろう。それに翻弄される子ども達は、人々は。 祖国から離れている分だけ愛国心が強くなる、という文が印象的だった。 また自分がソ連を知らない時代を生き、資本主義の国に居るからかもしれないが、ロシア、東(中)欧のイメージが今まで思っていたものから少し変わった。 やっぱり思い込みは良くないなあ。自分の目で見たり、色々な事実を認識して、様々な意見を聞いた上で、自分の考えを持つようにしたい。
Posted by
激動の東ヨーロッパを少女の目線から。そして大人になってから知る真実。旧友たちのその後。 共産主義や歴史には詳しくないけれど、ぐいぐいひきこまれた。
Posted by
明るい少女時代の頃のエッセイが、オトナになってから会ったらあの時の事情がわかったり、それぞれの共産圏にいる彼女達を息を飲んで追いかけるところにすべて同じ視点で入り込める作品 読みやすく天真爛漫なのに3本とも胸がキュっとなる 世界の知らない影のところが見えた 少女達もその影を見...
明るい少女時代の頃のエッセイが、オトナになってから会ったらあの時の事情がわかったり、それぞれの共産圏にいる彼女達を息を飲んで追いかけるところにすべて同じ視点で入り込める作品 読みやすく天真爛漫なのに3本とも胸がキュっとなる 世界の知らない影のところが見えた 少女達もその影を見つつ見えない見せないようにしていたことを知る 選ばれて産まれた我が資本主義 幸せに生きていたんだなぁ私
Posted by
嘘つきアーニャの真っ赤な真実。 共産党、社会主義、旧ソビエト、ルーマニア…。平成の日本に生まれた私たち世代にとって馴染みの無さすぎる言葉がポンポン出てくるのに、読みやすい。まさしく引き込まれる。 世界はひとつ、差別もなく、世界中のみんなが平等な世界へ…。そんな価値観がのさばる...
嘘つきアーニャの真っ赤な真実。 共産党、社会主義、旧ソビエト、ルーマニア…。平成の日本に生まれた私たち世代にとって馴染みの無さすぎる言葉がポンポン出てくるのに、読みやすい。まさしく引き込まれる。 世界はひとつ、差別もなく、世界中のみんなが平等な世界へ…。そんな価値観がのさばる今を当たり前で理想的なもののように思ってたけど、人にはバックグラウンドや言語や信条など様々なものが絡んでいて、もっとシビアなものであると言うことが、作者の体験を元に描かれていて、価値観をひっくり返された思いがする。 20世紀の激動の一片を描いたような作品だと思わず、21世紀だからこそ、読みたい。そんな作品である。
Posted by
著者は、共産党員であった父親の仕事の都合により1959年から1964年にかけてチェコのプラハで小中学生時代の約4年間を過ごした。それだけでも特別な体験だ。著者は、そのときに身を付けたロシア語の同時通訳者を職業としている。 本書は、チェコを離れて約30年後、当時の級友たちを探し訪...
著者は、共産党員であった父親の仕事の都合により1959年から1964年にかけてチェコのプラハで小中学生時代の約4年間を過ごした。それだけでも特別な体験だ。著者は、そのときに身を付けたロシア語の同時通訳者を職業としている。 本書は、チェコを離れて約30年後、当時の級友たちを探し訪ね、その話をまとめたノンフィクションである。小中学生時代の友達なので昔懐かしの話なのだが、エッセイというには軽すぎる。彼女らが交流を絶っている間に、プラハの春やソ連邦崩壊を経て、それぞれ重い体験を経ているからだ。 最終的にリッツァ、アーニャ、ヤースナの3人の同級生に会うことができるのだが、アーニャは崩壊した悪名高きチャウシェスク政権内の有力者の娘だし、ヤスミンはユーゴスラビアの集団大統領制のボスニア選出の最後の大統領の娘だ(ということが30年後にわかった!)。リッツァの父は、チェコの共産党編集局の職をソ連に批判的な行動を取ったおかげで解職されてチェコにいられなくなった。 物語はその異なる背景を持つ3人のエピソードから成るが、一つ目にはリッツァ、二つ目にはリッツァとアーニャ、三つめにはリッツァ、アーニャとヤースナが登場するという形式になっている。それぞれの子供時代のエピソードと、会って(もしくは電話越しに)その後の人生を聞き、子供時代の思い出との関係や疑問と知らなかった背景と真実とが結び付けられる。人物の登場に制約を設けながらも、とても自然な語り口になっており、うまいなと思った。エピソードにも重みと深みがある。 彼女らの人生はその時代背景を受けて波乱万丈で濃密だ。そして、そのおかげで彼女らの考え方もまたそれぞれ独自のものになっている。そして、それぞれが自分の人生とその考え方をよくも悪くも自ら選択している。おそらくは、その必要と必然性があったからだろう。その機微をエピソードを通して表現する著者の手つきは鮮やかだ。タイトルで『嘘つきアーニャ』とされているアーニャへの視線も厳しくもあるがまた同時に愛もある。「真っ赤な真実」には「赤」=共産主義という意味が含まれているのだが、当のアーニャはそのことに対してほとんど意識的ではない。 格差をなくすといいながら圧倒的な格差を生んだ共産主義の矛盾。詐称癖のあるアーニャ。どこかでそのことを知りつつ隠しているからなのかもしれない。著者は必ずしも共産主義者を否定しているわけではない。彼女自身の父や、リッツァやヤスミンの父には非常に好意的だ。しかし、共産主義というシステムはそういう人を厚く遇するシステムではなかったということだ。 時代に翻弄されながらも、自らのアイデンティティとして国を思いながらも、国境を越えて強く生き、また生きざるをえなかった女たちの物語。東欧の近現代史の知識がなくても楽しめる。おすすめ。 ------ 著者が3人に会ったのと同じころ、1993年夏に学生だった自分は東欧を一人で巡っていた。 アーニャの故郷で、著者も訪れたルーマニアのブカレストは、文中にもあった、工事中で止まったビルの群れと静寂の中にたたずむ巨大な人民宮殿はこの目で実際に見た。チャウシェスクが捕えられた広場に面した建物にはまだいくつもの銃痕が残っていた。腐敗はまだ続いており、荒んでいる人の心を感じた。自分が行った当時の東欧諸国(ブルガリア、ハンガリー、チェコ、ポーランド、東ベルリン)の中でもルーマニアは最も沈んでいた。 彼女らが通った学校のあるプラハも行った(著者も再訪している)。とても素敵な街だった。ブカレストと比べると為政者により大きな差ができていることを肌に感じた。 ユーゴにも行きたかったが、行けなかった。本書の中でも触れらていたが、ヤスミンとその家族の身を案じたユーゴ紛争のために入国を強く止められていたからだ。他の国がそれぞれソ連邦が解体した冷戦後の世界にまがりなりにも歩み初めていたが、ユーゴだけは別だった。 リッツァの祖国で彼女があこがれたギリシアの青い空もとても懐かしい。東欧旅行の前に一ヶ月半ほど過ごした。 あの頃のことを思いだした。特別な本になった。 3人を訪ねる旅は、NHKの番組として企画製作されたものらしいが、編集された映像を本当に見てみたいものだ(NHKオンデマンドにはなかった)。 ---- 1990年代初め、携帯もインターネットもSNSもない時代だからこうやって人づてに辿っていっていたわけだが、今ならSNSであっという間なんだろう。違う物語になりそうだ。まだたった20年ほど前の話なのにね。
Posted by
角川のプレミアムカバーがかわいくて購入。タイトルは知ってたけど、こういう本だって知らなかったー!! 自分とか友達とか周りのものだけでなく、国や生き方やそういうものにもこの年齢から触れるっていうのは、安易な言葉だけどすごいって思ってしまうなー。表題作がやっぱり印象的でした。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
氏の在プラハソビエト学校時代の三人の友人たちにまつわるエッセイ。当時の東欧社会主義国の暮らし興味深く、その後歴史の中で翻弄される彼女たちの生き様が哀しい。瑞々しい文章で一気に読んだ。
Posted by