忘れられた日本人 の商品レビュー
幕末から明治にかけての古老のお話し。貨幣経済が浸透したなかにも、村落共同体のしきたりや明らかな身分差など中世的、封建的な匂いを感じる話しが多い。文明開化を中心とした教科書的な歴史との同時代に、パラレルに存在した民俗学的な景色である。 近代の価値観では会議は結論が大事であり、性は秘...
幕末から明治にかけての古老のお話し。貨幣経済が浸透したなかにも、村落共同体のしきたりや明らかな身分差など中世的、封建的な匂いを感じる話しが多い。文明開化を中心とした教科書的な歴史との同時代に、パラレルに存在した民俗学的な景色である。 近代の価値観では会議は結論が大事であり、性は秘匿し慎むものと相場が決まっている。しかし、対馬の会議はプロセスに重きを置くため結論がでるまで何日も続き、土佐における性の交わりは単調な暮らしにおける最も身近な娯楽である。 私が手にとったのは61刷である。岩波文庫のなかでも人気の一冊であることがわかるが、その理由は近現代に欠けたものに想いをはせるノスタルジックな感覚だけでないと思う。冷静になって自省したとき、曽祖父母の時代にまであった感性がどこか自分のなかにも息づいている直感を残すからであろう。
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明治~昭和前半期を生きた、主に四国・中国地方の老人の話をまとめた書です。分類的にいえば民俗学です。 みなが納得するまで2日も3日も話し合う“寄り合い”とか、声のいいのがモテる“盆踊り”、情報ネットワークでありガス抜きでもある女たちの会話、犯罪や病気でドロップアウトしても用意され...
明治~昭和前半期を生きた、主に四国・中国地方の老人の話をまとめた書です。分類的にいえば民俗学です。 みなが納得するまで2日も3日も話し合う“寄り合い”とか、声のいいのがモテる“盆踊り”、情報ネットワークでありガス抜きでもある女たちの会話、犯罪や病気でドロップアウトしても用意されているセーフティネット、おおらかな夜這い習慣(楽しそうだなぁ(笑))…タイトル通りの、今は無き日本の良風が、古老の声を通してつづられています。 貧しかったかもしれないが、必ずしも暗く狭い時代ではなかったのだ…それを教えてくれる良書ですね。 日本人は物質的な豊かさを(一応)手に入れた一方、なにかを置き去りにしているのではないか? それがいま、さまざまな社会悪として露見しているのではないか? というのがソボクな感懐であるのですが、こういう本を読むと、やっぱそうだよねぇ、と思いますね。
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けっこう気楽に読める。 今の感覚ではびっくりするほど非効率だけど、人の入れ替わりのほとんど無い狭い共同体をうまく回す工夫の結果だとわかったり。 夜這いがあったり、やしない子があったり、旅の人を気安く泊めたり、余所の者がそのまま居着くようなことがあったり、おおらかなのかわからないけ...
けっこう気楽に読める。 今の感覚ではびっくりするほど非効率だけど、人の入れ替わりのほとんど無い狭い共同体をうまく回す工夫の結果だとわかったり。 夜這いがあったり、やしない子があったり、旅の人を気安く泊めたり、余所の者がそのまま居着くようなことがあったり、おおらかなのかわからないけど。 昔の農村、漁村というとなにかと不便で抑圧されていたと思いがちだし、現代の価値観からは豊かで幸福とは言いがたいが、それでもだいぶイメージは崩れた。
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面白かった。 民俗学とかあまりわからんのですが、フィールドワークの大切さは良くわかるし、伝わって来る。 後で自分のサイトにちゃんと書こう。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
おそらく戦中から戦後間もなくの頃にこれだけの聴き取りをするのは相当な労力がかかっている。当時、テレビはなくラジオも普及していない地域のそのままの習俗が残っている様が感慨深い。テクノロジーが発達し、どこの町に行っても同じようなチェーン店があり、またそれに期待してしまう今、地域ごとに習俗を記録することの意義はこの先も色あせないのだろうか。
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対馬にある村の寄り合いで、著者が文書を一時貸出してくれるように頼むシーンから始まる。ああでもない、こうでもないと、関係あるようなないような取り留めのない話が何日も続いて(一つの議題だけを話している訳ではない)から、やおら結論が出る。会社の打合せの場でも、こうした由緒正しき合意形成...
対馬にある村の寄り合いで、著者が文書を一時貸出してくれるように頼むシーンから始まる。ああでもない、こうでもないと、関係あるようなないような取り留めのない話が何日も続いて(一つの議題だけを話している訳ではない)から、やおら結論が出る。会社の打合せの場でも、こうした由緒正しき合意形成のスタイルを継承している人が多くいるような。 昭和10年代から20年代にかけての西日本を中心とした聞き取り調査。著者による分析、まとめも少々交えるが、ほとんどが古老たちの語るライフヒストリーや伝承を記録したもの。 まず序章の対馬での調査旅行の様子が、著者のスタイルを伝えていて面白い。寄り合いに付き合い、騎行の一団に小走りでついていき、着いた村で歌垣の名残に出会う。なんと自由で刺激的な旅であることか。 2章目では村落の社会構造についての東西比較。 ・年齢階梯制が色濃く、村内の非血縁的な横のつながりが強い西日本。伝承を伝えるのは男が多く、早く村の公役から身を引くために隠居するのが早い。 ・家父長的な同族結合の東日本。伝承を伝えるのは女が多くなる。 第3章は愛知県設楽町(旧名倉村)での座談会。夜おそくまで田で仕事をする隣人のために、戸を開けて明かりをつけていた家。働いていた方は数十年後まで、夜のおそいうちだと思い込んでいた。それに著者は感動する。細やかな話である。 その他にも、エロ話、村を出て方々を渡り歩いた世間師、レプラ患者の旅する裏の細道、対馬の漁村の開拓談、ピシッと背筋の伸びた著者の祖父、文字記録を残した村の文化人など内容は盛りだくさん。 土佐源氏は、創作と疑われたというのも納得の数奇な人生。
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やっと注目していたこの本を読みました。生きるということ、いや、生きてきたということの重みが誇張のない淡々とした語りからかえってずっしりと感じられる語り。登場する人たちは大変な辛苦を経てきたはずなのに、現代のほうが進んでいると単純に言い切れなくなってしまう切なさ。実際に読んだのは「...
やっと注目していたこの本を読みました。生きるということ、いや、生きてきたということの重みが誇張のない淡々とした語りからかえってずっしりと感じられる語り。登場する人たちは大変な辛苦を経てきたはずなのに、現代のほうが進んでいると単純に言い切れなくなってしまう切なさ。実際に読んだのは「未来社」1975版:ISBN不明
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久しぶりの再読。 以前読んだときは土佐源氏や梶田富五郎翁、もしくは宮本常一の祖父のような個々の人物の語りに興味を持ったのだが、今回は「文字をもつ伝承者」に興味を持った。 その地域の人文・自然について調べる、書き記すというレベルを超えて、それがその地域社会において何らかの意味がある...
久しぶりの再読。 以前読んだときは土佐源氏や梶田富五郎翁、もしくは宮本常一の祖父のような個々の人物の語りに興味を持ったのだが、今回は「文字をもつ伝承者」に興味を持った。 その地域の人文・自然について調べる、書き記すというレベルを超えて、それがその地域社会において何らかの意味がある行為(社会改良とでもいうべきか)を目指しているメタレベルがあること。それにふかく共鳴する。 処分日2014/09/20
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ここのところ宮本常一ばかり読んでいる。 なんか、こういう日本人がもうほとんど居なくなっちゃったんだなぁと思う。
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普通に暮らす人々に焦点を当ててつづった本書。ミクロ視点から見えてくるものは一般論としてくくることができないかもしれないけれど、そこにあったという事実を浮かび上がらせてくれると思う。
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