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贖罪 の商品レビュー

4.3

28件のお客様レビュー

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    12

  2. 4つ

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2013/03/06
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

読みながら、いつものマキューアンらしくない語り口に不思議な懐かしさを感じていた。まるで、一昔前のイギリス女流文学でも読んでいるような気がしてくるのだ。時は1935年の夏、舞台はロンドン郊外に建つネオゴシック風の屋敷。 不在がちの夫に代わり一家を守るのは妻エミリ。それとケンブリッジ帰りのセシーリアと13歳になるブライオニーの姉妹。今日はロンドンで銀 行に勤めている兄のリーオンが友人を連れて帰省する日。ブライオニーは兄に見せようと叔母の離婚が原因で家に来ている従姉弟たちを使って自分の戯曲『アラ ベラの試練』を上演しようとするのだったが…。 セシーリアと庭職人の子のロビーは幼馴染み。二人は互いに惹かれ合っていることにこの日まで気づかなかった。花瓶に水を汲もうとして取り合 ううち、誤って割ってしまうという行為を通して、二人はそのことに気づくが、妹がそれを盗み見ていたことから話がややこしくなる。作家を夢みる少女は、出 来事に別の意味を見出したのだ。姉を毒牙から守ろうと暗闇で従姉を襲った人影をロビーだと証言するブライオニー。 「人間を不幸にするのは邪悪さや陰謀だけではなく、錯誤や誤解が不幸を生むこともあり、そして何よりも、他人も自分と同じくリアルであると いう単純な事実を理解しそこねるからこそ人間の不幸は生まれるのだ」というブライオニーの言葉通り、祝祭的な真夏の噴水の前での愛の情景から始まった物語 は、錯誤が誤解を生み、その連鎖が一つの家族を崩壊させ、恋人たちを引き裂くという悲劇的な結末を迎える。 五年後、兵士となったロビーはダンケルクにいた。恋人の待つ故国に帰るためドイツ軍の爆撃の中を逃げ続けるロビーの視点で描かれる第 二部は極めてリアルな戦争小説になっている。第三部はブライオニーの視点で描かれる。かつての自分の行為を後悔し、戦下のロンドンで見習い看護婦として働 くブライオニー。ゆるしを求め、姉のもとに向かうのだが、果たして贖罪は果たされるのか。 純粋な愛の物語としても、作家志望の少女が犯した罪の物語とも、或いは一人の作家が自分が作家として立つきっかけを作った事件を、一生懸け て書き直し続けた未完の小説とも読める。果たして少女を陵辱した真の犯人は誰だったのかというミステリーとして読むことも可能だろう。作者はその手がかり をはっきり残している。 それだけではない。小説形式に意識的なマキューアンらしく、この作品、特に第一部はヴァージニア・ウルフへのオマージュとも思える仄めかし に満ちている。ケンブリッジで学位まで取りながらも、まともな学位授与式も女性にはないとセシーリアが不満をもらすところなど、いかにもと思わせるし、晩 餐の支度に花を探しに行くのは『ダロウェイ夫人』冒頭の引用だろう。食事の支度における使用人との確執、ロビーを襲うシェルショックもそうだ。 これまで、巧いなあとは思いながら、読後に何か苦味のようなものを感じていたマキューアンの小説だが、その正体は自分の創り出す世界に対す る作家のアイロニカルな視線にある。確かに現代において小説の中で衒いなく「愛」を描くことはマキューアンならずとも難しいにちがいない。舞台を大戦前に 置いたことで、それが緩和され、居心地のいいものになっている。末尾に、「ロンドン、一九九九年」という一章が来る。それまでの安定した小説世界をひっく り返してしまうような仕掛けで、このあたり、やはりアイロニカルなのだが後味は悪くない。小説の名手イアン・マキューアンの代表作と言うべき作品である。

Posted byブクログ

2012/11/26

ショッキングで悲しく、心に響く内容。誰にでもある、ちょっとした間違いが引き起こす大きな結果。彼女の場合、それが取り返しのつかない事態を招いてしまう。悪気はなかったが間違えてしまった人、それに便乗した悪意ある悪賢い人、被害者、その恋人。 それぞれの気持ちが理解できるだけに、結果が...

ショッキングで悲しく、心に響く内容。誰にでもある、ちょっとした間違いが引き起こす大きな結果。彼女の場合、それが取り返しのつかない事態を招いてしまう。悪気はなかったが間違えてしまった人、それに便乗した悪意ある悪賢い人、被害者、その恋人。 それぞれの気持ちが理解できるだけに、結果が心に迫る。戦争のシーンなど、非常にリアルで心が痛む。 細かなディテールのせいで最初は読みづらいと感じたが、途中からずんずん引き込まれて作者の世界に連れ込まれる。 最後に、ほんの少しの希望。作者が村上春樹と仲がよいと聞いて、なんとなく納得。

Posted byブクログ

2012/06/12

大好きなマキューアンの中でも本当に大好きで大切な一冊。 読んだ直後の感想を発見したので貼っておく。 これ、すごい。これこそ文学。 まだ3月だけど、今年一番印象に残る本になりそう。 これ読んでまた初めての読書体験してしまいました。上巻読んでいるとき、あまりの怒りで電車の中の見ず知...

大好きなマキューアンの中でも本当に大好きで大切な一冊。 読んだ直後の感想を発見したので貼っておく。 これ、すごい。これこそ文学。 まだ3月だけど、今年一番印象に残る本になりそう。 これ読んでまた初めての読書体験してしまいました。上巻読んでいるとき、あまりの怒りで電車の中の見ず知らずの人にいきなり殴りかかりそうになり。(本そのものや作者への怒りは白石一文で経験済みですが)本の内容というか出来事にこんなに怒りを掻き立てられるなんて驚きだよ。あまりに頭に血が上ったので、電車の中で日能研の問題を解いてみたりもした。その勢いで下巻も一気に読んじゃった。1時30分に帰ってきてすぐ読み出して3時30分まで一気読み。 わたしは小説を書こうと試みたことはないけれど、小説を書きたいと思う人はこういうのが書きたいのではないかしら?文学を志しているなら読んだほうがいいと思う。

Posted byブクログ

2012/04/27

 田園の屋敷の心温まる光景がじわじわと破局に向けて進んでいく展開が心苦しい。幸福を目の前にして引き裂かれる恋人たちのその後には第二部と第三部で2度胸を打たれた。小説家が登場人物を物語の中で幸福にするのは、それしか方法がないからだ、というのがとても切ない。〈神が贖罪することがありえ...

 田園の屋敷の心温まる光景がじわじわと破局に向けて進んでいく展開が心苦しい。幸福を目の前にして引き裂かれる恋人たちのその後には第二部と第三部で2度胸を打たれた。小説家が登場人物を物語の中で幸福にするのは、それしか方法がないからだ、というのがとても切ない。〈神が贖罪することがありえないのと同様、小説家にも贖罪はありえない――たとえ無神論者の小説家であっても〉という一節が読み終わったあとにじんと来る。

Posted byブクログ

2012/05/25
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

登録していなかったので、ブクログを始める前に読んだと思われる。 新聞の書評を見て興味を持ったと記憶しているが、緻密な人物描写に圧倒された。

Posted byブクログ

2012/06/07

艶かしい文章と緊迫した苦しみそして傷みを伴う物語。 この本の著者イアン・マキューアンはイギリスのブッカー賞を受賞した作家。 同じく私の好きな作家カズオ・イシグロもこの賞を受賞していて、その繋がりでこの作家を知りこの「贖罪」を読んでみることにしました。 (実際の受賞作は「アムステ...

艶かしい文章と緊迫した苦しみそして傷みを伴う物語。 この本の著者イアン・マキューアンはイギリスのブッカー賞を受賞した作家。 同じく私の好きな作家カズオ・イシグロもこの賞を受賞していて、その繋がりでこの作家を知りこの「贖罪」を読んでみることにしました。 (実際の受賞作は「アムステルダム」だが、それよりも受賞を逃した「贖罪」の方が評価は高い。) 物語は夢見がちな1人の少女がついた嘘(間違い)と、その嘘に人生が大きく変わってしまった人達の物語を描いている。 こうやって私の言葉で説明をするとなんて軽い物語に見えてしまうんだろうと反省する。 この物語は凄く重厚に作られていて愛や罪をテーマに深く…時々傷みを伴うぐらいに煮詰めて描かれている。一方的な愛と一方的な誤解、そして自分が正しいと優越に浸る自己愛。 ただ…深すぎて私が持つ言葉では表現出来ない。 物語は第一部と第二部にわかれていて、あまり重要じゃない登場人物が多すぎるという印象を持ったが、これが実は伏線で第二部で巧妙な役回りを果たしている。 そしてそれがより物語の内容を深く重厚にして、この嘘をついた少女を追い詰め、彼女の罪が絡めた糸のように離さず許されない。 凄く繊細で抽象的な人物たちの心が…なんというか、言葉に出来ない。 独特な世界観を醸し出す物語だと言うしか私には言えない。 この登場人物たちのように苦く痛みを伴わせ、そして読み手に同じ感覚を味遇わせるのが作家の思惑なら…私はこの作家の思惑通りになってしまったのだと思う。 私の好きな本に入るかといったら凄く難しい。 理由は最初の100ページ程が読むのに辛く、読み終えて全体を把握するとこの100ページ程は本当に必要だったのかと疑問に残ってしまうからです…。

Posted byブクログ

2011/06/24

 第一部は姉・妹・母親など視点がどんどん替わって、読んでいてやや疲れました。でもそこを越えるとロビーの第二部、ブライオニーの第三部、そして1999年。いきおいで読み切りました。長い、重い。でもこの作者の別の作品を読んでみたいという気になります。  ところで『贖罪』で検索すると湊か...

 第一部は姉・妹・母親など視点がどんどん替わって、読んでいてやや疲れました。でもそこを越えるとロビーの第二部、ブライオニーの第三部、そして1999年。いきおいで読み切りました。長い、重い。でもこの作者の別の作品を読んでみたいという気になります。  ところで『贖罪』で検索すると湊かなえさんの方が先に出てくるんですね。 ※文庫あり (図書館で借りた本)

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2019/01/16

第一部の少々鼻に付く自意識ぶり、第二部の戦場の描写の生々しさ、そして第三部でそれぞれ別の視点から描かれた物語が収斂し…と思っていたら、何か白昼夢のような印象。3度繰り返され、上書きされる「贖罪」の意味。そして、最終章。 何をもって罪となし、何によってそれは購い得るのか。 罪を購...

第一部の少々鼻に付く自意識ぶり、第二部の戦場の描写の生々しさ、そして第三部でそれぞれ別の視点から描かれた物語が収斂し…と思っていたら、何か白昼夢のような印象。3度繰り返され、上書きされる「贖罪」の意味。そして、最終章。 何をもって罪となし、何によってそれは購い得るのか。 罪を購うとは何なのか。 登場人物たちの人生を囲っている二度の大戦は、このタイトルとテーマを包括するものとして配置されているように思えた。 個々の登場人物の罪や後悔や自己欺瞞。それら無数の思惑や祈りが太く紡がれ、戦争という大きな罪として結実し、個々の傷みや罪として再び個に還っていく。 マキューアンは、その「贖罪」を1つの回答として示してはいない。 読後、重い何かが手渡されたような感触を持ったのは、その問いがマキューアンによって手渡されたからなのかもしれない、と思う。

Posted byブクログ

2011/09/06

久々にずっしりくる読後感。しばらくその世界から離れられなかった。物語をめぐる物語であり、その意味ではっきりと現代文学でありながら圧倒的なリーダビリティがある。恋愛ものであり、戦争物であり、成長物語でありながら、そんな枠にはおさまっていない。構えの大きな小説だ。

Posted byブクログ

2009/12/17

「つぐない」という映画の原作で、イギリスでは2001年の発表、日本では2003年発行。 13歳の少女の誤解から姉と幼馴染みの恋が無惨に壊されてしまう。 空想的で感性はあるが思いこみの激しい少女と、周りの人間の抱えている性格的な弱さや置かれた立場による苦しみがどう作用したか。 真実...

「つぐない」という映画の原作で、イギリスでは2001年の発表、日本では2003年発行。 13歳の少女の誤解から姉と幼馴染みの恋が無惨に壊されてしまう。 空想的で感性はあるが思いこみの激しい少女と、周りの人間の抱えている性格的な弱さや置かれた立場による苦しみがどう作用したか。 真実に迫ろうとする筆致は迫力に満ちています。 大戦によってまた人は翻弄され…一生をかけた償いという意味は次第にわかってきます。 作者は76年作家デビュー、98年の作品「アムステルダム」でブッカー賞を受賞してます。

Posted byブクログ