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遠い山なみの光 の商品レビュー

3.6

246件のお客様レビュー

  1. 5つ

    34

  2. 4つ

    78

  3. 3つ

    79

  4. 2つ

    17

  5. 1つ

    3

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2026/04/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

どこまでもほの暗い 戦後の長崎で、街や人々を見ると希望に向かっているように思われる(復興、新しいビル、夫や子を亡くして働く女性) 主人公悦子の周りの人々…古い価値観の義父、それを疎ましく思う夫、浮気性のアメリカ人に全てを託したがる佐和子、娘万里子 彼らは希望に向かっているのだろうか? 私にはそうは思えなかった…光を見出すことができなかった 真っ暗な絶望ではないけれど、ほの暗く、手探りで進まなきゃならない人生 過去を振り返ること、あの時の決断がどうだったのか…その結果、幸せだったかどうか… カズオ・イシグロは、静かすぎる文章、静かすぎる物語でとても好きです。 佐和子の娘万里子との関わり、自分の娘、景子やニキとの関わり どれもうまくいってないように思えた 万里子は悦子に心を開きかけたように思えたけど、最後は悦子をうさんくさそうに見つめる ニキとは互いに全く理解し合えていない会話ばかりが続く

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2026/04/10

カズオ・イシグロ著『遠い山なみの光』。 主人公の悦子は、前向きで主体的に生きる女でしょうか。娘ニキからはそのように見られていますが、悦子自ら受け入れていません。読者に対しても、そう読んではいけないと釘を刺していると思います。 悦子は次のような人生を送っています。 ・昔母親が描いた...

カズオ・イシグロ著『遠い山なみの光』。 主人公の悦子は、前向きで主体的に生きる女でしょうか。娘ニキからはそのように見られていますが、悦子自ら受け入れていません。読者に対しても、そう読んではいけないと釘を刺していると思います。 悦子は次のような人生を送っています。 ・昔母親が描いた水彩画の画帖を持っている、昔弾いたヴァイオリンをしまっている→良家の育ちである ・愛していた中村という男を戦争で(もしかしたら原爆で)失った ・立ち上がれないほど悲しみに暮れたが、校長先生の緒方さんに救われ、その息子の二郎と結婚して、長女景子をもうけた ・景子の妊娠中に、佐和子と万里子の母娘に会う。佐和子のことを「アメリカさん」と噂する近所の女たちに対し、「戦争中の悲劇や悪夢を経験した人たちとは思えなかった」と軽蔑し、「わたしはそのとき佐和子に同情に似た気持ちをおぼえて、ややツンとした態度が少し理解できる気がした」と佐和子に近づいた理由を述べている。 ・7歳になった景子を連れて、二郎と別れ、シェリンガムという男と結婚し英国に住んだ。シェリンガムとの間にはニキという娘が生まれた。 ・景子は引きこもりの子に育ち、年頃になって家を出てマンチェスターに移り住み、そこで自殺した。夫も死んだ。ニキはロンドンに移り住んだ。悦子は英国の田舎で独りで住んでいる。 と、こんな感じですが、これらの事実は多くはあっさりとしか語られていなくて、読み拾うのに苦労します。とにかく語り手悦子は、こと自分の過去に関して口が堅い。 景子が自殺して間もないという設定なのに、読み進めていて、この淡々とした語り口はなんなんだろうと思います。再読して気づくのですが、冒頭の辺りで「いまここであまり景子のことを書こうとは思わない。彼女の話を持ち出したのは、佐和子のことを思い出したからである」としっかり前置きしていて、景子を失った悲しみを口にしないと決めている。 長崎時代を見ましょう。悦子は佐和子から「あなた何もわかっていないわね」というような言い方であしらわれる場面が多々ありますが、それには馬耳東風で会話を続けます。上記のように、もしかしたら佐和子などよりもっとつらい目に遭っているかもしれないのに、それを話して共感を得ようともしません。浅い付き合いの佐和子ごときには軽々に口を開かないのです。 ただ、自分の過去を知っている緒方さん、うどん屋の藤原さんには心を許していて、彼らの前ではちらりと過去のことを言葉にします。そこで相当辛い目にあったことが分かるだけです。 佐和子・万里子との交流の最後の場面が象徴的に思えます。悦子は万里子から「うさんくさそうに」見られる。本心ではなく佐和子の言うことを聞くように言ったからですが、自分が心の闇を絶対に表に出さないで、うわべの言葉で話す人間だと見られたのでしょう。 この小説は、戦時中を生きた人の重い悲しみを言外に閉じ込めて描いてみた作品に読めます。とはいえ、娘のニキには正しく伝える必要を感じ始めた場面を、作品の現在に置いた、という設定だと思います。 なぜ悦子は日本を捨てたのか、景子を死なせてしまったか、という話は、この小説では書かれていません。書いていないのは、そんなことはどうでもいいからだ、と強調するメッセージにも思えます。ニキのような視点で読むな、と悦子は言っている。 ところで原題は A Pale View of Hills ですが、いまの日本語訳には不満でして、焼け跡の記憶というニュアンスを入れてほしかったと思いますが、いかがでしょうか。 追記 それにしても、佐和子が子猫を川に沈めて殺す場面は怖かった。

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2026/04/18

一見すると静かな回想の物語だが、読み終えた後に振り返ると語りの不自然さが際立ってくる。 語られている内容がどこか他人事のように感じられる点や、感情の距離の取り方に違和感があり、それらがすべて「語り手が何かを直接語っていない」ことを示しているように思えた。 解説を通してその構造に気...

一見すると静かな回想の物語だが、読み終えた後に振り返ると語りの不自然さが際立ってくる。 語られている内容がどこか他人事のように感じられる点や、感情の距離の取り方に違和感があり、それらがすべて「語り手が何かを直接語っていない」ことを示しているように思えた。 解説を通してその構造に気づいた瞬間、それまでの描写が別の意味を持ち始める点が非常に印象的だった。

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2026/03/20

記憶の歪曲と、不条理に抗う「虚勢」の物語 カズオ・イシグロのデビュー作を、単なる「戦後文学」や「記憶のミステリー」として読むだけではもったいない。本書の真髄は、語り手エツコが自らの精神を守るために無意識に行う「心理的補償作用(記憶のすり替え)」にある。 特に注目すべきは、友人サチ...

記憶の歪曲と、不条理に抗う「虚勢」の物語 カズオ・イシグロのデビュー作を、単なる「戦後文学」や「記憶のミステリー」として読むだけではもったいない。本書の真髄は、語り手エツコが自らの精神を守るために無意識に行う「心理的補償作用(記憶のすり替え)」にある。 特に注目すべきは、友人サチコとの対話に漂う違和感であって、二人が互いの「幸福」を競い合うようなマウンティングは、単なる未熟さではなく、世界との繋がりを失った者が、自らの社会的立脚点を確認するための必死の虚勢にある。 「自由」を求めて娘を異国へ連れ出したエツコの選択は、果たして愛だったのか、それとも利己的な渇望だったのか。スーツケースに荷物を詰め込むニキの姿と、過去に猫を殺めたサチコの姿が重なる時、読者は「何かを犠牲にしなければ前へ進めない」という人生の残酷な等価交換を突きつけられる。 不条理に直面したとき、人は「反抗」し、やがて「諦め」る。しかし、本書が暗示するのは、その先にある「同意(ありのままの自分を受け入れること)」の重要性ではないか。 霧に包まれた長崎の風景のように、読み終えた後も本当のことは闇の中にあるのだが、その曖昧さこそが、私たちが日々自分に嘘をつきながら生きていくための切実なリアリズムであることを教えてくれる一冊。

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2026/03/17

正直、全然わからなかった。 主人公の悦子は娘の死をきっかけに昔出会ったとある母娘のことを思い出すんだけど、その母娘がかなり変わっていて、よくわからない外国人に未来を託そうとしていたりハラハラする。しかし、結局悦子も同じような道を辿ることになってるのか。 カズオ・イシグロの作品...

正直、全然わからなかった。 主人公の悦子は娘の死をきっかけに昔出会ったとある母娘のことを思い出すんだけど、その母娘がかなり変わっていて、よくわからない外国人に未来を託そうとしていたりハラハラする。しかし、結局悦子も同じような道を辿ることになってるのか。 カズオ・イシグロの作品は特に盛り上がるシーンがあるわけではないけど、登場人物が「人間」なんですよね。普通の小説では、「探偵」「医者」「ヒーロー」「悪者」「いい人」「ダメ人間」と言ったようにラベル付けされた登場人物が物語を作っていくんだけど、この著者の作品に出てくる人物は本当にわからない。ただ単に、とことん人間らしい。

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2026/02/16

最終章まで全く内容が読めなかったけど、節々に違和感がずっとあって、途中であれ?ってなった。 そこから違和感の正体と噛み合わない会話の理由が一気に理解できた。悦子は辛い過去を振り返ることで景子に対する贖罪をしているのだと思う。だけど、何年経てもどうしても目を背けずにはいられない真実...

最終章まで全く内容が読めなかったけど、節々に違和感がずっとあって、途中であれ?ってなった。 そこから違和感の正体と噛み合わない会話の理由が一気に理解できた。悦子は辛い過去を振り返ることで景子に対する贖罪をしているのだと思う。だけど、何年経てもどうしても目を背けずにはいられない真実というのがあるんだろうなぁ、誰にでもいえることではあるけど、特に戦前戦後で価値観の変換点に置かれて必死に生きていた時代の人たちには。

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2026/02/08

イメージはずっと灰色 そして微かな違和感と不穏な空気に包まれる 佐知子の痛々しさに身を捩り、二郎の愛想のなさにイライラして、悦子はよくこの2人に付き合うなぁ緒方さんは良い人で良かったなぁと中盤まで呑気に思っていた 緒方さんは今の時代から見れば、旧弊に囚われた頑固なわからず屋老...

イメージはずっと灰色 そして微かな違和感と不穏な空気に包まれる 佐知子の痛々しさに身を捩り、二郎の愛想のなさにイライラして、悦子はよくこの2人に付き合うなぁ緒方さんは良い人で良かったなぁと中盤まで呑気に思っていた 緒方さんは今の時代から見れば、旧弊に囚われた頑固なわからず屋老人になってしまうが、自分の信念が国のためになると思い続けてきた人が簡単に変えられるはずもない 佐知子はアメリカへ渡れば幸せになれると思い、楽観的な考えを口にし続ける 子供が大事と言いながら行動は一致しない 地に足が着いているのは藤原さんだけど、みんながみんな戦後そんな風に生きられたわけではないと、緒方さんと佐知子を見て思う 映画予告から気になって小説を読んだけど映画は未視聴 小説ラストの少しの違和感は映画レビューを読んで納得 長崎の像ってこんなすぐからあったの?とか、猫を流すのを見ていただけの悦子とか、全ては記憶の中で曖昧に、でもその時を生きてきた人たちの中に残り続ける

Posted byブクログ

2026/02/01
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

イギリスに住む悦子が娘景子を自死で亡くした事から始まる。何故そんな事になったのだろう、知りたいと読み始めるが、語られるのは戦後まもなくの長崎での若い頃の出来事。 悦子と佐知子は長崎で出会う。日本人の夫と暮らし妊娠中の悦子。娘万里子を1人で育てる佐知子。2人は徐々に親しくなっていく。 縄が怖い。川、夜、縄、子どもと来ればおのずと想起されるのは死。次の章で万里子が生きている事が分かる度に安堵する事、数回。終盤の猫の場面では、完全に万里子も…と思ってしまった。 悦子と佐知子の会話が上っ面だけのよそ行きの会話ばかりで真意がわからない。ちょっとイライラする。 佐知子は子どもが大事と言うが自分本位で、万里子の心の叫びを全く聞いていない。そして悦子も万里子の理解者のようだったが、本当の所はわからない。 母親に思いを聞いてもらえない万里子が不憫で、万里子はいつか爆発するだろう、と予測していたが、爆発したのは景子だった。 悦子もまた、娘景子の思いを受け止めなかったのだ。 悦子と佐知子の境遇が似てるなぁと思い始めた中でラストの 「景子もしあわせだったのよ。みんなでケーブルカーに乗ったの」の一言に、ひっくり返ってしまった。 えーっ⁈ケーブルカーに乗ったのは万里子でしょ!景子じゃないんですけど。 どういう事?一体、どっちなんだい⁈ そして気づいた。シンクロしている事に。実は佐知子は悦子自身なのかもしれない、と。怖っ。 敗戦後の日本。信じていた事が180度変わってしまった。不条理だ。いろんな価値観が変化していく中で女性の生き方も大きく変わった。懸命に生きてきたが、しあわせだったのだろうかと過去を振り返ってみても記憶は曖昧で、遠い山なみの光を見ているようにただボヤけてしまう。狐につままれたそんな読後感だった。

Posted byブクログ

2026/01/29
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

佐知子=悦子であり、景子=真理子であるというトリックには驚嘆した。そしてそれを知ると、今まで違和感があった様々な事が腑に落ちていく。最後の最後で評価が変わる作品…だと思う。そう思うのだけど、いかんせん何度も同じセリフを繰り返す会話があまりに苦痛でつまらない印象が強かったので☆3とした。この半分くらいのボリュームのテンポのいい作品だったら☆5に出来たかもしれない。

Posted byブクログ

2026/01/27

会話の嚙み合わなさ、不穏でどこか違和感のある描写に心が落ちつかないまま読み進めた。 終わりにつれて、カズオ・イシグロの作風「信頼できない語り手」を思い出し、もしかして…?と物語全体を振り返ってみてゾワッとした。 人が語る過去というものは、幻影や嘘が混じって何が真実か分からなくなる...

会話の嚙み合わなさ、不穏でどこか違和感のある描写に心が落ちつかないまま読み進めた。 終わりにつれて、カズオ・イシグロの作風「信頼できない語り手」を思い出し、もしかして…?と物語全体を振り返ってみてゾワッとした。 人が語る過去というものは、幻影や嘘が混じって何が真実か分からなくなるものなのか… 小説はあらすじ通りに読むだけではもったいない、もっと深く、深く読まなければと思わせてくれた一冊だった。

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