すべての美しい馬 の商品レビュー
ブラッドメリディアンに続き、コーマックマッカーシー作品は2作目。ブラッドメリディアンはひたすら荒野が続き、人間がその背後に引っ込んでいるような世界観で読むのに難儀した記憶があったが、本作はジョン・グレイディ・コールという人間が全面に出ていて読みやすかった。 冒頭のろうそくの炎が...
ブラッドメリディアンに続き、コーマックマッカーシー作品は2作目。ブラッドメリディアンはひたすら荒野が続き、人間がその背後に引っ込んでいるような世界観で読むのに難儀した記憶があったが、本作はジョン・グレイディ・コールという人間が全面に出ていて読みやすかった。 冒頭のろうそくの炎が揺れて戻る描写など、物事の詳細を書きまくる文章は、時間をかけて脳内に映像として再生させる事を強いてくる。また、それは主人公が出会う自然やゆきずりの人々を前景化させる。主人公だけを特別視しないというようにも言えるし、主人公に極めて近い位置にいるカメラから見ている超高精細な物語と考えると、ジョン・グレイディ・コールに寄り添った文章とも思う。 ジョン・グレイディ・コールの純粋さが際立つ。馬に対する愛情、ロリンズやプレビィンズに対する友情、アレハンドラへの恋心、誰に何を言われても筋を通そうとする考え方。終盤で判事に打ち明ける逡巡。全てが純粋で、ある意味完璧な人間性とも言えるのに、だからこそ理想郷を求めて彷徨い続け、居場所が見つからずでいる様は、世の中の矛盾を感じさせる。でもそれは、判事や牧師の語った使命感に出会うまでの旅路なのかも知れない。こう書くとベタな話に思えるけど、でも良いんです。 西部劇要素が強く極めて男性的な物語なはずだが、女性がお飾りになっているようには感じなかった。後半の大叔母の独白は圧倒的で、世を動かしている男性の暴力性についての語りであり、ジョン・グレイディ・コールにも備わってしまっているものだ。判事に告白したように。 越境三部作という事なので残り二作も楽しみ。
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白黒映画のようだ。 荒涼たる砂漠。 理不尽や不公平が覆う世界。 血は赤では生々し過ぎる。 黒がいい。 太陽の光と、ドス黒い血。 強烈なコントラストの中で、馬だけが美しい。 マッカーシーのカギ括弧が無い文体が、心の叫びのように聞こえてくる。 救いがない、理不尽の世界でも、大地は変...
白黒映画のようだ。 荒涼たる砂漠。 理不尽や不公平が覆う世界。 血は赤では生々し過ぎる。 黒がいい。 太陽の光と、ドス黒い血。 強烈なコントラストの中で、馬だけが美しい。 マッカーシーのカギ括弧が無い文体が、心の叫びのように聞こえてくる。 救いがない、理不尽の世界でも、大地は変わらない。 人はここで生きていくしかない。 必要なのは勇気なのか。 いや、そんなことを考えるのは人だけで、大地は今日も日に照らされ、生き物を育み、死をのみ込む。 それでも生きることには意味がある。 と、マッカーシーは言っている、と思いたい。
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少年たちの旅の中で、美しい馬が旅に寄り添い慰め、より美しく輝いている。 全米図書賞。 全米書評家協会賞受賞作。 コーマック・マッカーシーの世界はグロテスクで残酷だ。が、国境三部作といわれる第一作のこれは、ストーリー性が豊かでエンタメ小説の趣もあり読みやすかった。 故郷のテキサスからメキシコに不法入国するいきさつや、つねに寄り添っている馬、行動を共にする友人も、少年というより未成年、未成熟な年頃の、精いっぱい運命に向かう姿が痛々しくもありどことなく危うい。 16歳の少年の(アメリカだからもう充分大人だけれど)青春、成長譚だ。 コーマックのドライで区切りの少ない独特の筆は、ユニークではあるが読みなれると違和感がなくなり不思議なリズムに乗ることができる。 コーマック・マッカーシーを読むのは、その風景描写が美しい、だがただそんな風景を写し取るだけでなく、風や雨や、砂漠に舞う土埃、枯れた川の荒々しさなど、読んでいる周りにその気配が立ち込めてくるような文章が素晴らしい。言葉はそっけないほど細かな説明がない分、情感は直接的だけれど詩的で快い。 こういった表現が 先に読んだ 「チャイルド・オブ・ゴッド」や 「ザ・ロード」 のような心にのこる作品になっていったのだろうか。悲哀、哀歓、人間の持つ究極の孤独を書くにふさわしい。 この国境シリーズ(と呼ばれている)の残る二冊も楽しみだ。 テキサス生まれの少年の名はジョン、グレイディという。彼は、戦後無気力になった父親と、彼が生まれてから唯一の慰めであった牧場を売って出て行きたいと叫ぶ母、そんな両親の元を去る決心をする。 馬と過ごす牧場の生活を求めて、親友のレーシー・ロリンズと二人、リオ・グランデを渡る。 途中でひ弱で年下に見えるがやはり一人旅のジミー・ブレヴィンズが加わる。彼は過去に雷に打たれ身内が何人も死んだこともあり極度に雷を怖がっていて、広い草原や砂地で雷雲を見ると怯え、手を焼かせる。 そして彼のこの恐怖が、ふたりを苦境に陥らせる。 雷におびえている間にブレヴィンズの鹿毛が逃げてしまう。 彼はそれを探し当て取り返すのに三人の人間を殺してしまう。 メキシコの牧場に雇われた二人は生きがいを感じて充分によく働き重宝される。しかし、グレイディは帰省していた牧場主の娘に恋をして、二人は心のまま突っ走ってしまう。しかし将来はなく、牧場から出て行かなくてはならなくなる。この牧場の実権を握る大叔母の説教は、彼女の生き方の長い歴史であり、若い二人に理解を示しながらもやはり大人の分別を超えることがない。この長い話を聞かせた叔母の心がよく分からないまま二人は牧場を放り出される。 ブレヴィンズの起こした殺人事件で二人は共犯になり刑務所に入れられる。そこで、捕まっていたブレヴィンズに出会うが、彼は警官に連れ出されて射殺される。このあたり暴力が蔓延する刑務所の中、マッカーシーの描写の面目躍如といったところで迫力がある。牧場の大叔母の手引きだろうか、二人は奇跡的に救い出されるが、帰省する前にちょっと警官を探して気合の入った復讐に向かう、ここにきてまさに西部劇の世界。クレイディの若さと血の熱さ、無鉄砲なところ読んでいても力が入っていい。 旅の途中二人の若者がぽつぽつと語彙の少ない会話を交わす、それは深い意味を持つ言葉だったが、答えはいつも、わからないな、知らないな、で納得する。このあたりの会話も生き生きとして、このわからない世界の深みを少しずつ知っていくのだろうと何か愛おしくなるところが微笑ましくてうまい。 題名にある「美しい馬」がいる風景。 命がけで行方のわからなくなった馬を探したいブレヴィンズ、いつも腕を伸ばして首をなでて話しかけ、孤独を癒しているグレイディ。町に入ると横を車が走り抜けていく。そんな時代に野生馬を集め馴らして繁殖させる牧場の生活がグレイディの生き甲斐だった。 日が落ち無数の星が中空に向かってせりあがってくる。百合や野の花が咲く松林の下で焚火を熾し、ノウサギを狩る。突然の豪雨や雨上がりの霧に閉ざされたメキシコの草原、草丈に埋もれそうな盆地、小高い丘から見下ろす風景などが、くっきりと描き出されている。
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朝日新聞で馬について描かれた本の紹介であった。馬の競技ではなく、馬を移動させていた男がある町で殺し屋に狙われるが大怪我をしながら殺し屋を逆に殺す。傷が治って署長を人質にして逃げるが足を撃たれる。その後に署長が捕まって自分は馬とともに戻っていく。 米国のその当時の状況がわからない...
朝日新聞で馬について描かれた本の紹介であった。馬の競技ではなく、馬を移動させていた男がある町で殺し屋に狙われるが大怪我をしながら殺し屋を逆に殺す。傷が治って署長を人質にして逃げるが足を撃たれる。その後に署長が捕まって自分は馬とともに戻っていく。 米国のその当時の状況がわからないのでなんともいえない。
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とても美しい小説だと聞いて、手に取った。 ここのところ、アメリカ文学を読んでいる。 「ジェームズ」「ハックルベリー・フィンの冒険」は南西部ミシシッピ河流域の小説、「エデンの東」は、カルフォルニアの小説、そしてこの小説はテキサスから国境を超えてメキシコへ渡る小説だった。アメリカは広いなあ。小説によって舞台になる土地の雰囲気が全然違うから脳内旅行が楽しい。 テキサスでカウボーイをしていた十六歳の少年ジョン・グレイディがお祖父さんの遺産の牧場が売られてしまうことを知り、アメリカに自分の居場所がないと思い、愛馬に乗って、親友ロリンズと途中で出会った十四才くらいの少年プレヴィンスと共に国境を超え、メキシコへ渡る。 パスポートも税関も無しでハイウェイを横切り、河を渡ってメキシコに入国出来てしまったので、一世紀以上前が舞台かと思ったが、舞台は1950年代。現代アメリカで居場所を無くした少年たちが居場所を求めて国境を超えてしまうという、アメリカの青春を描いた小説。 道中で雷に会い、愛馬をつないでおくことも忘れ、裸になって丸まっておびえていたプレヴィンスの馬が盗まれ、取り返したプレヴィンスは逆に泥棒として逮捕され、牢獄で虐待され、銃殺されてしまう。 プレヴィンスと逸れていたジョン・グレイディとロリンズはとある大牧場で馬の調教師として雇われる。その馬の調教シーンが秀逸。一見手荒なことをするのだが、馬に身体を密着させて信頼させて、しっかりした主従関係を築く。弱冠16歳でも本当にプロの仕事人で、誰よりも馬への愛の大きさを感じる。 その大牧場のお嬢さんアレハンドラと恋に落ちるのだが、お嬢さんの超エリートの大叔母様に反対され、結ばれない。その大叔母様は自分の生い立ちをジョン・グレイディに語るのだが、フランシスコ・マデロという大統領だった人の弟のグスターボ・マデロと昔恋中だったが結ばれなかった話をする。調べてみたら、フランシスコ・マデロもその弟、グスターボ・マデロも実在の人物だったのでびっくり。アレハンドラの父である牧場主はジェントルマンだと思っていたが、ジョン・グレイディとの関係を知って、ジョン・グレイディとロリンズを警察に引き渡してしまった。 牢獄では中の囚人仲間は殺人鬼のようで、監守たちも人殺しと紙一重のよう。メキシコ怖い。 メキシコから国境を超えてアメリカへ逃亡する小説「夕日に向かって北へ行け」を読んだことがあるが、メキシコは警察とマフィアが繋がっていたりして本当に怖い国だと思った。アレハンドラの大叔母様が話していたようにメキシコという国の歴史は大変だったようだ。 アメリカ小説というより、アメリカから見たメキシコ小説という感じだった。 命を失いかけたところでアレハンドラの大叔母様の差し金で助けられた、ジョン・グレイディとロリンズだったが、助けられた交換条件は「アレハンドラとはもう会ってはいけない」ということだった。 「死ねば良かった」と思うくらい絶望したジョン・グレイディ。だけど、彼は本当に本当に自分にとって一番大切だった馬を友人の分も取り戻して命がけでアメリカに帰るのだ。 一文一文が読点の殆どない長い長い文で、セリフにかぎ括弧もないという独特の文体で読みにくいが、自然描写や恋愛シーンの描写がとても美しい。 弱冠十六歳で「自分には馬しかない」と心を決め、本当に生きたい生き方を求めるだけで、こんなに命がけなのかと思った。アメリカ厳しい!青春厳しい!
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イアン・マキューアンを読んで以来、現代海外文学の面白さに気づき、いろいろ読んでみたくなった。で、コーマック・マッカーシーを手に取ってみた。 本作はメキシコが舞台の辺境3部作の一冊。 いや〜面白かった。なんだろう。久しぶりの感覚。起承転結ありの正統派小説。血生臭くてグロくてあまり...
イアン・マキューアンを読んで以来、現代海外文学の面白さに気づき、いろいろ読んでみたくなった。で、コーマック・マッカーシーを手に取ってみた。 本作はメキシコが舞台の辺境3部作の一冊。 いや〜面白かった。なんだろう。久しぶりの感覚。起承転結ありの正統派小説。血生臭くてグロくてあまりにも残酷な成長物語。 馬と暮らしたい、牧場で働きたいとの漠然とした気持ちからグレイディは友達のロリンズと馬に乗り、テキサス州からメキシコへ国境を越えて行く。野宿をし銃で狩った兎をバラして食べ、川の水を飲み行く宛を探しながら旅をする。命の危険と隣合わせの旅。途中で見ず知らずの少年に会う。この少年も銃と立派な馬を持っているが、得体が知れずでまかせばかりを話す。厄介な事が起こりそうなそんな矢先…。 メキシコの自然の描写が素晴らしい。会話文が文章の中に入り込んでいて、ややこしいんだけど慣れてくると自然に感じる。朴訥とした会話の中に人生観や哲学がある。成り行き任せ。老成した感もあるけど、しかし、彼らはまだ17歳。そこが味噌。若いからこそ怖い物知らずなんだよね。 主人公のグレイディがいいんだなぁ。寡黙で朴訥、強くて正直者で馬を愛する男。真っ直ぐなのよ。 周りに翻弄されながらも苦難に立ち向かう姿に感動させられる。 この時代のメキシコ情勢や国柄、人々の暮らしぶりが興味深い。闇も伺い知れる。 馬の調教シーンが印象的。グレイディにとって馬は家族であり、乗り物であり、財産であり、生きる目的なのだ。馬が居ればそれでいい。 不条理な目に合いながらも、自分の行いが正しかったのかどうかを自問自答するグレイディ。歩みを進める孤独な彼が行き着く場所はどこなのだろうか。
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米国文学の巨匠コーマック・マッカーシーの国境三部作の第一作目。テキサス州からメキシコに至る道はさながら青春ロードムービーのようであり、美しい情景が目に浮かぶような自然描写。牧歌的な叙事のあとに訪れる理不尽で強烈な暴力の数々。原初的な人々が織り成す激情の衝突は、近代アメリカが封殺し...
米国文学の巨匠コーマック・マッカーシーの国境三部作の第一作目。テキサス州からメキシコに至る道はさながら青春ロードムービーのようであり、美しい情景が目に浮かぶような自然描写。牧歌的な叙事のあとに訪れる理不尽で強烈な暴力の数々。原初的な人々が織り成す激情の衝突は、近代アメリカが封殺した善悪を増幅したような沸騰する生命力を感じさせる。一番の驚きは物語終盤に完璧なタフガイに成長した主人公が16歳ということか。荒野に佇む余韻の味わえる良質な小説。
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やはり特徴的なのはこの一文が長い文章だろう。しかもほぼ句読点もなし。あえてのこの書き方なのはわかるが、それでも読みずらい。平易な文章で書かれているが、この書かれ方にする必要性を感じなかった。 ストーリーはサクサクと進むが、これといって起承転結に感情が揺さぶられることはなかった。
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テキサスからメキシコへ友人と家出同然で飛び出し、働き口も見つけ上々の新生活スタートとも見えたが··· とにかく真っ直ぐなジョンのセリフが印象的 殺るか殺られるかだ中間はない 等。 少し読解力が追いつかなくて 追手は何故最後馬を連れて行かなかったのか等気になる点も· とにかく友人と旅をしている描写が面白く、後半からはジョンの行動に目が離せない。 彼女が残ってくれたら恐らくあの行動にはでていない。
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全米図書賞と全米批評家協会賞受賞。映画化されている本作は、後の『越境』と『平原の町』を合わせて〈国境三部作〉と呼ばれる一作目。過酷な運命に翻弄される少年の成長を描く、ロードムービー的冒険譚の名作だと思います。 あらすじ: 16歳のジョン・グレイディ・コールは、祖父の死とともに牧...
全米図書賞と全米批評家協会賞受賞。映画化されている本作は、後の『越境』と『平原の町』を合わせて〈国境三部作〉と呼ばれる一作目。過酷な運命に翻弄される少年の成長を描く、ロードムービー的冒険譚の名作だと思います。 あらすじ: 16歳のジョン・グレイディ・コールは、祖父の死とともに牧場を失うと、一つ上の親友レイシー・ロリンズを誘って旅にでます。それは、高速道路に車が走る時代に、愛馬に乗って自らの居場所を求める越境の旅でした。途中、荒涼とした大地を旅するうちに、後に彼らの運命を翻弄することになる年下の少年と出会い、連れ立って旅を続けた一向に待ち受けていたものとは……。 翻訳がいいのか、クセのある濃厚な文体ですがスグに慣れます。そんなことより、目に浮かぶような風景描写の妙味や、友情ありロマンスありヴァイオレンスありと、少年たちに突きつけられる理不尽で過酷な運命や、所々に表される箴言めいた哲学的な言葉の数々、そしてなにより読み進むほど先が気になる展開に夢中になってしまいました。また、ヴァイオレンスと言っても同著者の『ブラッド・メリディアン』のような残酷な描写はないし、同じくSF要素のあるロードムービー的な『ザ・ロード』にも引けを取らない名作だと思います(本作は『ザ・ロード』とともに、刑務所内での読書会を描いたアン・ウォームズリー『プリズン・ブック・クラブ』の作中で褒められていましたね)。また、馬に関する描写がたくさんあるので、馬を愛して止まない人にはおすすめです。 あと余談ですが、やたら”煙草”のワードが出てくるので気になって数えたら154回……。ただし、情景描写や動作の一環や道具立てとして書かれている場面が多く、アルカジイ&ボリス・ストルガツキー兄弟のSF小説『ストーカー』(こちらは60回)のように、必ずしも喫煙者なら”ここで火をつける”だろうなという場面ばかりではないです。そのため、登場人物たちの内面があまり垣間見えないどことなくドライなタッチの文章が、より強調されてる気がしましたね。 正誤(5刷) P497の12行目 全米書評家協会賞→全米批評家協会賞
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