この人の閾 の商品レビュー
芥川賞受賞の短編集。…
芥川賞受賞の短編集。人間の核心をついているところが凄い!!
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芥川受賞の表題作含めた短編4作。 家庭を持った女友達との会話劇、東京の下町の移りゆく様をつらつら描写したもの、女友達と林道を散歩する話、友人達と江ノ島沿線を練り歩く話。どれも言語化が難しいが、独特のデフォルメされた文体が時折強い共感を生む。 何も残らない削ぎ落としと反復は、音楽...
芥川受賞の表題作含めた短編4作。 家庭を持った女友達との会話劇、東京の下町の移りゆく様をつらつら描写したもの、女友達と林道を散歩する話、友人達と江ノ島沿線を練り歩く話。どれも言語化が難しいが、独特のデフォルメされた文体が時折強い共感を生む。 何も残らない削ぎ落としと反復は、音楽で言うとクラウトロックの様で、不思議な中毒性がある。
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芥川賞を受賞した表題作のほか、3作を収録した短編集。 どの話もほとんど場面が変わらず2人程度の登場人物の会話を楽しむ物語。 漫才のようにゲラゲラ笑う会話ではないが、共感したり、深い内容だったりで、ずっと読んでいたくなる本。
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閾とは、刺激の強さを連続的に変化させたときの、生体に反応をひき起こすか起こさないかの限界。生理学・心理学の用語。(webからの引用)らしい。読んだ感想とはだいぶ違います(笑) 少し時代が古いので、女性へのある種の偏見も含まれます。が、割と現代的で知的内容だとおも思います。 こ...
閾とは、刺激の強さを連続的に変化させたときの、生体に反応をひき起こすか起こさないかの限界。生理学・心理学の用語。(webからの引用)らしい。読んだ感想とはだいぶ違います(笑) 少し時代が古いので、女性へのある種の偏見も含まれます。が、割と現代的で知的内容だとおも思います。 この中で気になった点は、主婦には主婦を中心とした時間軸が無いという点。主婦は主導権を握っている様でその実、家族の予定に合わせて動いてる事がほとんどで、自分の時間はある様で無い。 昼寝する時間はあるが、それが自由時間かと言われると、ちょっと違う。相手に合わせるが故に起きる、自分で立てた予定ではない空き時間の様なもので、その間も食事の献立や明日の家族の予定などで頭は基本いっぱいなのだ。 そこをサラリとなんて事ない感じで描いてる点が面白いと思う。この淡々とした感じがないと主婦はやっていられない笑。女性は柔軟でないと辛くなるのです。
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出来事は何も起きない、淡々と風景を描写し内省的な会話がなされる、安定の保坂和志。癒されるー。普通に生きてたら死とか恋とかそれなりのドラマが展開されてしまうのが自然なので、ここまで何も起こさずに話を読ませるのって逆に不自然で、とてもすごいことだと思う。 特に印象的だったのがかつて住...
出来事は何も起きない、淡々と風景を描写し内省的な会話がなされる、安定の保坂和志。癒されるー。普通に生きてたら死とか恋とかそれなりのドラマが展開されてしまうのが自然なので、ここまで何も起こさずに話を読ませるのって逆に不自然で、とてもすごいことだと思う。 特に印象的だったのがかつて住んだ世田谷区の外れの街の話と鎌倉を歩く話。 前者はバブル末期の変化に取り残されながらも変化を強いられる街並みを主人公に据えて、ごく短い時の経過の中で失われてゆくものを描く。たまたま住んだだけで大して思い入れもない街なので、失われるのを眺めながら悲しむでもなく傷つくでもなく、街を眺める人間の方は一切変化をしないことで街の動きを際立たせる。 後者は子供時代を振り返りながら鎌倉をめぐるのだけど、ノスタルジーを拒否する徹底した姿勢が爽やか。最後にごくあっさりとした救いがあるのもよい。 一つだけ引っかかったのは、表題作で仕事人間の男性を完全に対象化していること。通勤の様子とかを述べることで彼にも生活があるんだよーみたいなエクスキューズにしているけど、この人に対してだけATフィールドが展開されてしまう。職場の嫌な奴にはメンチきったりして対等に喧嘩してるのに。仕事人間にも主体的な思考や考えはあるわけで、それを無視してしまうのは不公平にすぎる。視線の向けられ方があまりに意地悪なので、お前自身が高等遊民ぶってるから仕事人間を理解できないんじゃないの?と意地悪を言ってやりたくなる。 とはいえ心地よく耽溺できるほんとによい本でした。
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兎角ものを考え続ける主人公たちの心情を執拗に追い描き、風景や時間経過と共に「生きていく」ことを捉えた作品が並ぶ。表題作は第113回芥川賞受賞作。しかしどの作品にもドラマチックと呼べる劇的な展開は見当たらない、最後に収録の『夢のあと』の結末に幼稚園で出くわす状況や、『東京画』で「煙...
兎角ものを考え続ける主人公たちの心情を執拗に追い描き、風景や時間経過と共に「生きていく」ことを捉えた作品が並ぶ。表題作は第113回芥川賞受賞作。しかしどの作品にもドラマチックと呼べる劇的な展開は見当たらない、最後に収録の『夢のあと』の結末に幼稚園で出くわす状況や、『東京画』で「煙草屋の二階の物干しにじいさんとばあさんが椅子か何かに腰掛けて裸でいた」ことくらいか、静かな佳作たちだ。ただ日常というものはそういうことが起きないから「日常」なのだし、その常なる生活状況に豊かさや深みがあることを著者が丁寧に紡ぐ作品は、評するならば尊い。
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この著者の作品は何も起こらないといわれる。何も起こらない分、作中の人物がよく自分の意見を語るのだが、語られる意見にどうしても著者の存在を感じてしまって、小説というスタイルがそれを許容するものなのかどうなのか、小説の閾というものを考えてしまった。
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ほとんどストーリーがないのに面白く読めるように書いてあることがすごい。人間の意識の軌跡を辿ることがこれほど面白いという事実に感動した。
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かつて、何も起こらない小説であることが芥川賞をとる条件だ、という揶揄があった。 一見そのようにみえる小説である。 所収された「夢のあと」の終盤に紋切り型の表現では出来事に対して不誠実だという言葉がある。 小説において何か起きる、ということはこの紋切り型の表現の強度を競っているだけ...
かつて、何も起こらない小説であることが芥川賞をとる条件だ、という揶揄があった。 一見そのようにみえる小説である。 所収された「夢のあと」の終盤に紋切り型の表現では出来事に対して不誠実だという言葉がある。 小説において何か起きる、ということはこの紋切り型の表現の強度を競っているだけのようにも思える。 外部の変化を書くのではなく、自分に向き合い自分の中で何が起きたかを丁寧に書く。 この試みが評価されたのかなと思った。
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一言で言ってしまえば「なんかすごい」(笑) 何も起きない静かな日常を、これ以上ない位平明に 淡々と語る書き口。 其処まで考えて、でもって書き残すんだねーと云う感じ。 情景だけでなく、心象、その他諸々を、風景と登場人物の目を通じて多角的に描く事でその瞬間をあぶりだしていく様な手段、...
一言で言ってしまえば「なんかすごい」(笑) 何も起きない静かな日常を、これ以上ない位平明に 淡々と語る書き口。 其処まで考えて、でもって書き残すんだねーと云う感じ。 情景だけでなく、心象、その他諸々を、風景と登場人物の目を通じて多角的に描く事でその瞬間をあぶりだしていく様な手段、というか。 急に始まり急に終わる感じすらするのですが、 それが何とも心地よく、良い物を読んだな、 と云う感想が残るのも、著者の技術なのか、魔術なのか。
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