櫂 の商品レビュー
宮尾登美子さんの自伝的小説。 高知県で芸妓紹介業を営む岩伍。その夫の仕事受け入れられない妻喜和。 仕事に打ち込み家庭を顧みない夫、肺病を患う長男と放縦な次男、夫の気ままで雇い入れる人間たちの中で喜和は懸命に生きる。 そんな中、岩伍が娘義太夫に産ませた赤ん坊の綾子を引き取ることに...
宮尾登美子さんの自伝的小説。 高知県で芸妓紹介業を営む岩伍。その夫の仕事受け入れられない妻喜和。 仕事に打ち込み家庭を顧みない夫、肺病を患う長男と放縦な次男、夫の気ままで雇い入れる人間たちの中で喜和は懸命に生きる。 そんな中、岩伍が娘義太夫に産ませた赤ん坊の綾子を引き取ることになる。 いつの間にか綾子に深い愛情を注いで育てるようになり、綾子こそが自分を支える全てとも感じるようになる喜和。 大正の暮らしと高知のひとびとの生き様が宮尾登美子さんらしい美しい言葉で綴られる。 言葉ひとつひとつが現在では用いられないものも多く、こういった表現が段々と薄れていっていることを感じさせ、時代の流れをさみしくも思う。 宮尾登美子さんや有吉佐和子さんの小説を読むときは、辞書は必須だ。 文章が美しいだけでなく、物語の展開も素晴らしい。 中だるむこともなく、寧ろ加速するかのように読者を引き込んで離さない。 時代が時代なので、女性はとにかく忍耐。 小さい頃は父親に、結婚したら夫に、老いては子に、常に誰かの庇護のもとにあるが逆らうことも出来ない。 本書での岩伍も現代ならとんだDV夫になるところだが、この時代の妻は実に健気だ。耐える、堪える。 夫が浮気して、子供が出来たから妻であるお前が育てろと平気で言えてしまう。 土下座して頼んでくるならまだしも、嫌だと言う喜和を怒鳴り殴り倒す岩伍。 こんな突っ込みどころ満載な、無理を通して道理を力技で押し込めるようなことがまかり通るという。 喜和は、なさぬ仲である綾子を大切に育てる。いつの間にか心の支えとなるほどに。 そして、喜和の人生の波乱はまだまだつづく。 この物語が、実話があってということにも驚かされる。 こういう涙を堪え、ひたすら耐え忍んだ女性がたくさんいたのだろう。 わたしの母親も父親には忍従だったように記憶しているので、少し以前まで女性はそういうものだったのだろう。 日本は変わった。 ナントカハラスメントが溢れて、権利権利、平等平等の世の中になった。余りにも女性の権利意識が強すぎて、少々戸惑ってしまうほど。 こちらの作品は、喜和目線の「櫂」にはじまり、宮尾登美子さん自身でもある綾子目線の「春燈」「朱夏」とつづく。 まさに劇的に物語が展開するため、本屋さんに駆け込むこと必至。そして売っていなくて泣く。 「春燈」を入手したら、直ちに読む。
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年末に作者が亡くなったというニュースを聞いたときに、改めて4部作を読もう、と決意したもの。実は「櫂」は大分昔に一度読んでるけど、まだ若かったからか殆ど理解出来なかった。今回4部作読むにあたって再読。自伝小説というのは書く方も読む方も体力使う、日本が戦争に向かって転がってゆく最中に...
年末に作者が亡くなったというニュースを聞いたときに、改めて4部作を読もう、と決意したもの。実は「櫂」は大分昔に一度読んでるけど、まだ若かったからか殆ど理解出来なかった。今回4部作読むにあたって再読。自伝小説というのは書く方も読む方も体力使う、日本が戦争に向かって転がってゆく最中に、こう言う世界が連綿と続いていたというのは僕らは知る由も無く。これが今度どうなっていくのか、4部作読み切って感想文書きます。(しかしなぜか「朱夏」が手に入らない…)
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この前読んだ『仁淀川』はシリーズだったので、その一番最初の作品を読みました。 15歳で結婚した旦那が芸妓さんとか人買い系の仕事を始めて、すっごく忙しいときにすっごく年下の美人と子供を作っちゃって、その子を実子として籍に入れて育てたのに他にまた別の女性ができちゃって、子宮筋腫の大手術をしたあとで体が弱っているヒロインさんを無理矢理離縁。 継子だけれども心が通じていた娘さんと引き離されるところで終わっていました。 昔の女性は大変だ! でも、一気に読ませる面白さがありました。
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喜和さん、女として尊敬します。 とにかく悲しい話だなと思いました。 昔だからこそ男の人にここまで従順になれたのかなと。現代では考えられない話です。 時々チラッと見える岩伍の優しさにおおっ…!っとなりながらもやはり最後は悲しさだけが残る。
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昔の女性はこんなに耐えて耐えて、主人や家に仕えるのか?ハッピーエンドになると思っていたので、悲しくなってしまった。もう一度読むのはツラいからないかなー。 でも、実際、喜和のような人が多かったんだろうなーと思う。
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旦那さんについていこうとしても、なかなか馴染めず苦労している感じが最初、辛かった。我慢強いだけに、譲れない所は自分の感情をあらわにするのか? 例えば、息子の病気、死、家人の嫁入りなど大きな変化にも思いが伝わらない夫婦。 宮尾作品はまだまだ読みたいです。
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先に喜和の娘の綾子が主役の「春燈」を読んでから こちらに取り掛かったので、この本での 主人公喜和の行く末はわかっていたけれど どのようにそこへ辿りつくのかとても興味深く読んだ。 耐えて耐えて夫に仕える、言いたいことがあっても それを口にすることは出来ない、夫婦間は 現代では考えら...
先に喜和の娘の綾子が主役の「春燈」を読んでから こちらに取り掛かったので、この本での 主人公喜和の行く末はわかっていたけれど どのようにそこへ辿りつくのかとても興味深く読んだ。 耐えて耐えて夫に仕える、言いたいことがあっても それを口にすることは出来ない、夫婦間は 現代では考えられない。今を生きられて本当に有難いと思った。 春燈では綾子のわがままぶり、身勝手さ、高飛車な態度に 少し腹をたてながら読み進めたが、こちらでの母親の喜和を かばっての身勝手な父親岩悟との一歩も譲らないやり取りに 胸がすかーっとする思いだった。 母親を思えばこそ、出てくる身勝手さや態度もあると思え こちらを読んで再び春燈を読み返すとまた綾子への 見方がかわってきて面白い。 娘からの目線が「春燈」、母からの目線が「櫂」と物事の 裏と表を垣間見ることが出来て、とても面白い自伝的小説である。 たぶんまた読み返すと思うので、大切にとっておこう。
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メチャ悲しい物語だった。 一人の女性の物語ですが、いつも思い悩んでいる人生を描いています。それでも最後には光が射すのかと、射して欲しいと読み進んだ結果が、これだったとは悲し過ぎました。 その中でも、この女性の娘が、母親のために立ち向かって行く姿には、救われ、涙が出ました。 人生と...
メチャ悲しい物語だった。 一人の女性の物語ですが、いつも思い悩んでいる人生を描いています。それでも最後には光が射すのかと、射して欲しいと読み進んだ結果が、これだったとは悲し過ぎました。 その中でも、この女性の娘が、母親のために立ち向かって行く姿には、救われ、涙が出ました。 人生とは、ふつふつと思い悩みながら生きていくものだと思うけれども、ここまで心穏やかに生きていけないと、心が病んでしまいそう。昔の女性は、何とも悲しいものだなぁ~と感じました。
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この方の著作を読んだ初めての作品は蔵でした。 新聞の朝刊に連載されていて毎日毎日新聞を開いてどうなったんだろう?とはらはらしながら読んだものです。その後機会があってきのねを読み、上下巻一気に読みふけったのを覚えています。 著者の生家をモデルに書かれた、とあり興味を引かれて読んでみました。どこまでフィクションでどこからが実際のことなのかは私にはわかりませんが非常に重いお話でした。 あの当時、家を切り盛りすることが女性の才覚と言うのであれば確かに主人公は少し人より鈍いのかも知れません。が、長男は肺病にかかり、次男は放蕩の限りを尽くし、そこに旦那が外の女との間に出来た子供を引き取るという。その後長男には先立たれ命も危ないという大病をし、旦那は他に女を作り出て行ってしまう。次男坊は自分の味方にはなってくれず意見を言えば旦那は彼女を疎んじて離縁を切り出す。ただひとつの望みであり、慕ってくれている末の娘を最終的に上の学校に入れるために男親に任せるよりなくなってしまう。彼女が一体何をしたのでしょう?と言うほどの過酷な運命です。彼女の煩悶と希望、そして過去の想いが見事に描写されていて胸を打ちます。この作者の状況描写は真に巧みで、読み終わった後大分へこみました。あの当時、女性一人で自立するということは非常に大変なことだったんだなあ。考えてみれば巴吉も哀しい運命の女性なのですよね… あとがきによると作者は4部作で彼女のバックグラウンドを背景にした作品を作られているらしくこの作品が第一作だとか。…喜和さんのその後が気になるので次も読むか…でも哀しいと嫌だなあ…と悩み中です。
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すごい本だなぁとため息がでます。私は、「櫂」よりも時代が進んだ部隊の作品を先に読んだので、その後の喜和の離婚などが頭にあり、余計に切ない気持ちで読み進めました。喜和の、要領がわるいけれど実直な性格が、繊細に描写されています。登場人物が皆複雑な、奥深い性格を持っていて、リアルです。
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