ペドロ・パラモ の商品レビュー
初読は高校の課題図書。 メキシコの片田舎、父を探して主人公がたどり着いたのは死者の町だった・・・といった話なのだがストーリーは当時全く意味不明。ただ、砂ぼこり舞う真っ白な道、陽炎に揺れる怪しげな街、という描写は異様に頭に刷り込まれている。 「燃える平原」にひっくり返り再読。 ...
初読は高校の課題図書。 メキシコの片田舎、父を探して主人公がたどり着いたのは死者の町だった・・・といった話なのだがストーリーは当時全く意味不明。ただ、砂ぼこり舞う真っ白な道、陽炎に揺れる怪しげな街、という描写は異様に頭に刷り込まれている。 「燃える平原」にひっくり返り再読。 2017年12月14日付The Economistによると、魔術的リアリズムの元祖でもあるルルフォは、実はフォークナーの影響を受けているらしい。あれだけ土俗的なラテン・アメリカ文学が北米の作家の系譜に連なるのも意外と言えば意外。 “The reader gradually realises that all the novel’s characters are dead. It is modern because it frames a reality rather than merely describing it, and because time in it is simultaneous, not sequential, as Carlos Fuentes, a later Mexican writer, noted.”(記事より引用)。 物語の中で時間は順を追っては流れない、同時に生起する。まさに最も”modern”なことをこの作家はやっていたということだ。
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2008年11月27日~28日。 結構な数の登場人物。男も女もいる。ほとんどは死者。そんな死者が時空をあっちこっちヒョイヒョイと駆け巡る。語り口も一人称からいきなり三人称に変わったりする。最初は面喰う。 それぞれの断片が大きな流れになって物語を織りなす。そして最初に戻る。...
2008年11月27日~28日。 結構な数の登場人物。男も女もいる。ほとんどは死者。そんな死者が時空をあっちこっちヒョイヒョイと駆け巡る。語り口も一人称からいきなり三人称に変わったりする。最初は面喰う。 それぞれの断片が大きな流れになって物語を織りなす。そして最初に戻る。終わらない。ウロボロス。 ちょっと気を抜くと振り落とされるか迷子になるかおいてけぼりを食らう。でも心配はない。一度はまってしまえば気を抜くことも許されない。 間違いなくもう一度読み返すだろう。久しぶりに心底面白い作品に出会えた。
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「たくさん悪いことをしたこの地上からあの男を連れていってくださった神様に感謝しよう。いま天国にいるかもしれないが、ま、そんなことは問題じゃない。」
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生と死の境目が取り払われた迷路のような世界。死の床で母親が言い残した通り、父の村へ行った。そこで出会った相手は、じつは死者だった。死者に気づかわれたり、気づかったり。当の語り手も途中で死んでしまい、隣の墓の住人を相手に話していたりもする。人物にスポットがあたって展開していくという...
生と死の境目が取り払われた迷路のような世界。死の床で母親が言い残した通り、父の村へ行った。そこで出会った相手は、じつは死者だった。死者に気づかわれたり、気づかったり。当の語り手も途中で死んでしまい、隣の墓の住人を相手に話していたりもする。人物にスポットがあたって展開していくというよりは、土地の記憶のような話。そう思えば、生者も死者も区別なく行き交っている感じもよくわかる。 岩波文庫の解説によると、ファン・ルルフォ(1918-86)はメキシコ、ハリスコ州アプルコという小さな町に生まれて、1920年代に暮らしたこの町が原風景になっているそうだ。当時はまだメキシコ革命の混乱が続いていた時期で、政府と教会が激しく対立し、暴力と破壊がこの時代の特徴らしい。 寡作な作家で短編集『燃える平原』(杉山晃訳 書肆風の薔薇 1990)と二冊しか作品がない。短編集を先に読み、世界になじんでから『ペドロ・パラモ』の世界に入るというのも手かもしれない。短編も独特の世界が描かれている。
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きっと、登場人物の相関図みたいなものを作って読めば、その面白さを味わうことができるのかもしれないが、わざわざそういうことまでして小説を読もうとは思わない。
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死人たちが会話し、現在未来が出てこない過去だけのお話。舞台はメキシコに革命が起きるあたりかな。なんとも不思議な話だが、面白くて一気に読んでしまった。神父の描かれ方を見ていると、教会あるいはカトリックに対する批判なども含まれているのかも。
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死者の町コマラ。ペドロ・パラモはとにかく女好きで強欲でけちで、嘘つき。子供も何人くらいいるのか分からない。生者と思ってたひとが死者だったり、前の章で脇役やったりしたひとが次の章で語り手になったりどんどん人が入り交じる感じが面白い。
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すごく不可思議な小説で、構成が最初良くわからず、物語世界に入っていくまでに時間がかかりました。 解説を先に読めばよかったかも知れない。 途中からどんどん惹きこまれていって、死者が語るのも気にならず、登場人物それぞれの話しぶりや人柄もわかってきて、勢いがつきました。 土地勘がな...
すごく不可思議な小説で、構成が最初良くわからず、物語世界に入っていくまでに時間がかかりました。 解説を先に読めばよかったかも知れない。 途中からどんどん惹きこまれていって、死者が語るのも気にならず、登場人物それぞれの話しぶりや人柄もわかってきて、勢いがつきました。 土地勘がないので、そのあたりの自然、たとえば蒸し暑さや風の音を想像するのも難しいのだけれど、映像が目に浮かぶような感じで、なんだか違う世界に連れて行ってもらえたような。 描写が詳しいわけでもないのに、映画的な作品に思えました。 ラテンアメリカ文学の多くは、独自のカトリック信仰が底辺に流れているので、その部分を理解できないと物語の表層だけをなぞることになりそう。 人と人との問題以前に、神と人との問題があって、神父さんが出てくるからとかそういうことじゃなく、聖書はもちろん、「告解」とか、カトリック的考え方を知らずに深い理解はできない感じ。
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ささ‐めき【私=語】 ささめくこと。ひそひそ話。ささやき。また、男女のむつごと。 「貴妃の―、再び唐帝の思ひにかへる」〈海道記〉 初めてこんな言葉を知ったが、これほど的確にこの小説を表す一言はない。 ささやく。ひそめく。 まずは翻訳の文体の素晴らしさ、語のセレクトの素晴らしさ。 少ない文字数から滾々と湧く抒情。 次に構成のしかけ。 ただシャッフルしているのではない、ひとつの言説が連想を呼び過去を掘り起し広がり深くなる。 最後に語られる内容。 極悪な奴なのにスサナへの思いが、たまらなく切ない。 すべてを手に入れようとしてそれだけ手に入らず。 これだけの男の行き詰まりは街の行き詰まりを呼び廃墟へ。 cf 中上の浜村龍造
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奥深い、底知れぬ物語。 死んだ男をめぐる噂話が、死んだ人間たちの間で語られ、死んだペドロ・パラモの人物像がうすぼんやりと形作られていく。伝え聞きの集合体として物語が建設されており、それらを細胞に、町の盛衰が語られる。鮮やかな小説。 ガルシア=マルケスに「百年の孤独」を書かせた小説という、ある意味で究極の評価を得ているようだが、そういう文学史的注釈を抜きにして面白い。
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