外科室・海城発電 他五篇 の商品レビュー
あなたは、私を知りますまい。 とても好きな作品です。 玉三郎の映画も、私は好きですよ。 最後の「これは必要なくないか?」というおいちゃん二人の語りが削られていたので(笑)
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泉鏡花の「外科室」という短編小説を読んだ。 こんな「美しくはかなき愛」があるのかしら、と不思議な感動を受けた小説だ。 主人公の高峰は優秀な外科医である。 9年前、彼がまだ医学生だった頃、植物園ですれ違った高貴な女性がいた。 彼はその女性のことが忘れられず、それ以後いっそう身を慎ん...
泉鏡花の「外科室」という短編小説を読んだ。 こんな「美しくはかなき愛」があるのかしら、と不思議な感動を受けた小説だ。 主人公の高峰は優秀な外科医である。 9年前、彼がまだ医学生だった頃、植物園ですれ違った高貴な女性がいた。 彼はその女性のことが忘れられず、それ以後いっそう身を慎んで、結婚することもなかった。 彼が外科科長をつとめる病院に、美しい伯爵夫人が深刻な手術のために訪れる。 胸を切開する大手術だが、夫人は麻酔を拒否する。 その理由は、眠ってしまうと、うわごとで秘密を口にしてしまうかもしれないからというものであった。 夫や周囲の者は、何とか麻酔をさせようとするが、夫人は頑として受け付けない。 やがて夫人は、執刀医が高峰であることを確かめた上で、みずから衣服の胸を広げて決然と言う。 「さ、殺されても痛かあない。ちっとも動きやしないから、だいじょうぶだよ。切ってもいい」 それを聞いた高峰は、メスを執って、ついに夫人の胸を切り裂き、メスは骨にも達そうとする。 「あ」と深刻なる声を絞りて、……夫人は俄然器械のごとく、その半身を跳ね起きつつ、刀取れる高峰が右手の腕に両手をしかと取り縋りぬ。 「痛みますか」 「いいえ、あなただから、あなただから」 かく言い懸けて伯爵夫人は、がっくりと仰向きつつ、凄冷極まりなき最後の眼に、国手をじっと瞻りて、 「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」 謂うとき晩し、高峰が手にせるメスに片手を添えて、乳の下深く掻き切りぬ。医学士は真蒼になりて戦きつつ、 「忘れません」 その声、その呼吸、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人はうれしげに、いとあどけなき微笑を含みて高峰の手より手をはなし、ばったり、枕に伏すとぞ見えし、脣の色変わりたり。 そのときの二人が状、あたかも二人の身辺には、天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし。 夫人ははかなく死んでしまうのだが、この時の二人のやりとりは、二人にしかわからない世界であった。 二人だけにわかる会話で、はじめて愛を確かめる二人。 男はメスを通じて肌に触れただけ、女は男の手をとっただけ。 そして「死」が二人を分かつ。 しかし、この小説の最後は次のように締めくくられる。 青山の墓地と、谷中の墓地と所こそは変わりたれ、同一日に前後して相逝けり。 語を寄す、天下の宗教家、渠ら二人は罪悪ありて、天に行くことを得ざるべきか。 高峰は夫人の後を追って、自殺したのである。 美しくはかない愛。 短い小説ではあるけれど、不思議な感動が残りました。
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鏡花の文章を一度声に出してみると、驚きますね。恐ろしいくらい調律された美しさがあります。琵琶伝、化銀杏、外科室、義血侠血…現代の手軽な悲恋モノよりずっと過激で耽美で、しかも現代に通じる女性の自立や視点が描かれていて読み応えがあります。文語体に親しむにもなかなか良い一冊かと。
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現代の幻想文学の確立に、間違いなく一役かった泉鏡花の短編集。美しい文語体で味わうのが、鏡花の醍醐味。人間の生死に関わるオペが、官能的に描かれます。惚れた男に命を託す。エロスとタナトス
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相思相愛の男女が 外科室という密室で麻酔無しの外科手術を行うという なんだか荒唐無稽と見える愛の世界。。 修辞に富む鏡花の本の中でも比較的読みやすいのは、 短さと、恋愛というモチーフゆえ? 「文学史の定型に収まらぬ存在」といわれる泉鏡花。 デビュー当時のペンネームは「畠芋之助(は...
相思相愛の男女が 外科室という密室で麻酔無しの外科手術を行うという なんだか荒唐無稽と見える愛の世界。。 修辞に富む鏡花の本の中でも比較的読みやすいのは、 短さと、恋愛というモチーフゆえ? 「文学史の定型に収まらぬ存在」といわれる泉鏡花。 デビュー当時のペンネームは「畠芋之助(はたけいものすけ)」なんていう田舎っぽい名前だったというエピソードがあやしくなるほど 怪奇趣味と独特のロマンチズム滲む文章です。
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『義血侠血』と『外科室』が好きです。『義血〜』の出会いの所なんて、「少女マンガかよっ」といいたくなるようなステキな演出。
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美しい日本語が鮮やかで幻想的な情景を次から次へと脳裏に描かせます。 読み終わった後の余韻がどれもこれも…堪りません。
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美しい言葉。 美しい描写。 美しくも哀しい愛。 そして鮮やかな色彩。 高峰と貴船伯爵夫人の九年越しの想いは、小石川植物園の躑躅の赤のように、手術台の上で夫人が流した血の真紅のように、深く、重く、激しいものだったのだろう。 自らの命に代えても、夫人は自分の恋心を伝えよ...
美しい言葉。 美しい描写。 美しくも哀しい愛。 そして鮮やかな色彩。 高峰と貴船伯爵夫人の九年越しの想いは、小石川植物園の躑躅の赤のように、手術台の上で夫人が流した血の真紅のように、深く、重く、激しいものだったのだろう。 自らの命に代えても、夫人は自分の恋心を伝えようとする。決してしてはいけない恋。叶えることが許されない想い。 「忘れません。」 高峰が言ったこの言葉。貴船伯爵夫人の耳には届いただろうか。 短編小説でありながら、「外科室」は究極の愛を描いている。そしてその愛には、「狂」が感じられた。 映画版の映像もとても素晴らしいものでした。そちらも是非。
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鏡花の観念小説、外科室。確かにご都合主義なところもあるが、虚構という、言葉の芸術の力を味わわせてくれます。
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泉鏡花の日本語の美しさに、惚れ惚れしてしまう。どれも単純で設定としてはよく見られる恋愛物語かもしれないが、言葉や表現が素晴らしいため奥ゆかしく深く素晴らしい作品となっている。06-02
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