ふたりの証拠 の商品レビュー
『悪童日記』の続編です。前作では、双子の少年が常に一心同体だっただけに、離別する最後の一行は衝撃でした。『ふたりの証拠』は、別々になった双子のうち、おばあちゃんの家に戻った「リュカ」の物語です。 前作ではどんな人物も名前がなく、読みながら顔や姿をイメージしてしまう私にとって、の...
『悪童日記』の続編です。前作では、双子の少年が常に一心同体だっただけに、離別する最後の一行は衝撃でした。『ふたりの証拠』は、別々になった双子のうち、おばあちゃんの家に戻った「リュカ」の物語です。 前作ではどんな人物も名前がなく、読みながら顔や姿をイメージしてしまう私にとって、のっぺらぼうの世界でした。それとは対照的に、こちらではすべての人物に名前が与えられ、人物像がリアルに立ち上がってきます。 読みながら、それぞれの人物はリュカにとってどんな存在なのかを、つい考えてしまいました。養うべき人、気にかけてくれる人、不器用にも甘えたい人もいたかも知れません。 例えば、マティアス。彼は近親相姦で生まれたという赤の他人の子ですが、リュカは十代半ばからマティアスの父親役を担います。必要だと思うものは惜しみなく与え、理想だと思う環境も整えます。その一方で、相変わらず夜の町を徘徊するのはやめず、まだまだ未熟な青年らしく、自分を保つ術がないようにも見える。この二人の関係は、あえて言葉にするのはもったいない気もします。 マティアスと同様にどの人物とも濃い関係を築き、リュカは間違いなく存在していたはずなのに、最後の章でその実在はあっさりと疑わしいものになってしまいます。前作のラストシーンでリュカと分かれて国境を超えた「クラウス」も登場しますが、すでにリュカは消息不明になっていて、リュカはリュカであり、クラウスはクラウスだと証明するものは何もない。前作を通して語られたおばあちゃんとの暮らしも、自治体的には「あったかも知れない」という不確かなものになってしまいます。冒頭から不思議に思っていた、「双子の片割れがいなくなったことを、誰も気に止めない違和感」を引きずり続け、物語の設定すらも分からないままにするラストでした。 そんな状態で続く三作目が『第三の嘘』。読者への挑戦状のようなタイトルでわくわくします。 前作から語り手や構成は大きく変わったものの、今回も淡々と続くエピソードから目を離せず一気に読めました。それでいて、何ヵ所か必ず前へ戻って読まされる。登場人物の心境が、一読目とは実はまったく違うものだったと驚きながら読み返すことになります。
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必要以上の状況説明のなさ、感情や思考の移ろいの記述がないところなどは『悪童日記』と同じだが、登場人物に名前が与えられていたり、主人公が物事や人に執着する様などは前作とのスタイルの違いとして感じられた。 それによって、一心同体の二人が別れて一人としてのアイデンティティが立ち上がり、自活して他者と関わる状況において、人としての成長、もしくはフェーズの移り変わりを自然と感じさせられた。 相変わらず、知らない人のプライベートな日記を覗き見ているような後ろめたさと気味の悪い感覚、繰り返し訪れる設定への疑い、大幅な時間の欠落後の、伏線回収の予感など、ミステリーの色合いが増している。 同時に興味深いのが、今回私が2作を通して初めて泣いてしまったことだ。血のつながらない不具の子の喪失に、彼は初めてわかりやすい形で絶望する。また、周囲の人物が、彼を気にかけて、寄り添い、なんとか力になろうとする、大部分において搾取しあうことで成り立っていた幼少期の人間関係とあきらかに違う流れがある。 徹底してリアルを感じるのはなぜか。分析が無意味に思うほど不条理に唐突に物事は起こり、通り過ぎる。時間も人の命も無常に通り過ぎていく。平気だと思っていても、知らぬ間に傷と罰は濃度を少しずつ上げていく。 だけど、どうしてこんなにも愛しさを覚えるのだろう。
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だいぶ前に読んだ。 色んな小説を読んだ今となっては、思いや感想など全然変わるかもしれないが、当時の私にとっては、 最高の1番の一冊になった。 衝撃的で、スラスラ読めて読み終わるまで寝れないほど。 3部作の中では悪童日記が1番最高だった。 2人の成長が書かれているから、次へ読みたく...
だいぶ前に読んだ。 色んな小説を読んだ今となっては、思いや感想など全然変わるかもしれないが、当時の私にとっては、 最高の1番の一冊になった。 衝撃的で、スラスラ読めて読み終わるまで寝れないほど。 3部作の中では悪童日記が1番最高だった。 2人の成長が書かれているから、次へ読みたくなる
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「悪童日記」の続編。 前作「悪童日記」にて、双子は最終的に一人は国境を超え、一人は祖母の家に戻るが、今回の話は祖母の家に戻った方の双子、「リュカ」の話である。 この本で二人に別れてから初めて双子が個別の名前で呼ばれるので、前作の双子は別れるまでずっと二人でひとつだったのだろう。 事実しか書かない決まりは引き継がれているのか、相変わらず淡々と激動の人生が語られ、分量は多くはないのに読み応えがある。 最後の方に、この作品は事実を書いた日記ではなく、リュカが自分の望むように記入した創作であるということが判明し、「書いたこと」と「事実」は異なる、という前回に通じるテーマが存在しているように思う。 個人的に刺さったのは、リュカの話ではなく、リュカに家を売った本屋の話であった。 本屋のおじさんは、前々から小説を書きたいと思っていたが生活に追われていつの間にかその夢を忘れていた。 しかし、姉に会い、不健康を指摘され、姉の家で暮らしながら生活を改善し、小説を書けばいいと勧められたため、リュカに書店と家を売るのである。 しばらくして、リュカは本屋が姉を殺したと伝えられ、姉を殺した後に本屋が書いた文章を読む。 そこには、なぜ姉を殺すに至ったかの顛末が書いてあった。 本屋は、姉が小説の進捗を確認するのがストレスで、小説については既存の文章を書き写すことで誤魔化し(姉は本を読まないためバレなかった)、禁止されていた酒を飲んでいた。それが姉にバレ、詰問されたために我慢ならなくなり殺した。 本屋をクズ扱いするのは簡単である。実際姉は全く悪くないように思うし、本屋は悪い。 しかし、夢があったけど諦めていた、忘れていたという境遇の人が、実際夢だけを追い求めていいという夢のような境遇になったとき、夢のための努力ができない自分と向き合わなくてはならなくなったときの苦痛はさぞかし大きいものではないだろうか。 誰も悪くはなく、自分だけが悪いという状況で、自分は夢を追えなくなった、自分が夢だと思っていたものは夢ではなかった、言い訳だったと直視するのはとてもつらいだろう。だから本屋は酒に逃げ、姉から逃げるために姉を殺した。 さらに怖いのが、リュカに姉について話した時の本屋は姉のことが大好きである、尊敬していると語っていた。そんな姉と暮らすのは心からの望みであると。 しかし、本屋が書いた文章では、実は前から姉が嫌いだったと姉への憎しみが書き込まれていた。 本屋がリュカに嘘をついていたというより、状況の変化によって姉への感情が変化したのだろう。 本屋の中では、姉が大好きだという感情も、姉が憎いという感情も、その時においては事実だった。 感情という曖昧なものは記入しないという前作悪童日記の決まりの正しさを証明するかのように、本屋の姉に対する感情は両極端に描かれている。 肉親に対しても、容易く感情が変化する人間の強さが描かれていると思った。 この話は、最後にクラウスが双子の兄弟を訪ねてきたが、クラウスの入国許可が切れているので送り返される、しかもノートは「クラウス」のもので、全て同じ筆跡で記入された創作のようだ、という事務的な記述で幕を下ろす。 リュカの創作ではなかったのか? この謎は、最後の作品「第三の嘘」で解明されるようだ。
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『悪童日記』の続編。前作では「起こった事実のみを書く」という徹底したルールのもとに双子の「ぼくら」が書いた作文という形式だったが、今作ではその形式は排除され三人称視点で、今作で初めて双子の名前も明かされる。リュカとクラウス。 実父と関係を持って子どもを産み、リュカが母子ともに家...
『悪童日記』の続編。前作では「起こった事実のみを書く」という徹底したルールのもとに双子の「ぼくら」が書いた作文という形式だったが、今作ではその形式は排除され三人称視点で、今作で初めて双子の名前も明かされる。リュカとクラウス。 実父と関係を持って子どもを産み、リュカが母子ともに家に住まわせるヤスミーヌ 夫が処刑されて気が触れた図書館司書のクララ 男色でリュカを誠実に支える共産党幹部のペテールなど、名前や職業を持つ人々が存在感をしめす。前作よりも、血がかよっている。体温を感じる。 前作の主人公たちの冷酷さから一転、今作の主人公・リュカの不安定な人間性・繊細さ・不気味さが色濃く描かれる。リュカとは血の繋がりが無い息子・マティアスの心情もとても生々しく痛々しい。あまりに不安定な親子の悲痛な物語で読んでいて辛かった。しかし前作同様、ラストは衝撃的。
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「悪童日記」よりもこちらの方がまだ、登場人物に感情移入できて一気に読めた。 今回も最後の1ページで、えっどういうこと⁉︎って次を読まずにいられなくなるのは流石だと思った。
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アゴタのフランス語は彼女が後から習得したもので母語ではないから、このような無機的な文体になるのかと。 しかし「ブツ切れ」の記憶、戦争という顔のない恐怖、色彩を欠いた乾いた世界を表すのに、この文体をとる他になにが成功するのだろう。これは『悪童日記』から引き継がれた特徴。 『悪童...
アゴタのフランス語は彼女が後から習得したもので母語ではないから、このような無機的な文体になるのかと。 しかし「ブツ切れ」の記憶、戦争という顔のない恐怖、色彩を欠いた乾いた世界を表すのに、この文体をとる他になにが成功するのだろう。これは『悪童日記』から引き継がれた特徴。 『悪童日記』と違うのは、あれが双頭の一人による、世界についての独白といえるのに対し、『ふたりの証拠』では、二人であろうと一人であろうとだれも存在しておらず、もしくは存在するとしてもある影法師で、それが何人かの登場人物に付き纏って、それぞれの人物の性や苦悩を浮き彫りにするという点。 『悪童日記』の双子、その片割れであるリュカが主人公である『ふたりの証拠』。前者が「実在」、後者が「虚構」をの形をとることにより、戦争のリアリティを突きつける。 「書く」行為についての言及もそこかしこにある。書く=生の痕跡、と。 「何も書かなければ、人は無為に生きたことになる」。
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少なくとも3回目、もしかすると4回目の再読かもしれない。 最後の方の展開はけっこう急だけど、期待を裏切らずとてもいい。
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相変わらず、説明の一切ない無駄のない文章。 人物の心理描写は全くないのに、それぞれがすごく語るから何となく伝わるものがある。 それにしても最終章。謎すぎて一刻も早く続きが読みたい。 第一作を読んだときは、こんな後味の悪い本は他にはないと思ったから、次作までにインターバルをとらない...
相変わらず、説明の一切ない無駄のない文章。 人物の心理描写は全くないのに、それぞれがすごく語るから何となく伝わるものがある。 それにしても最終章。謎すぎて一刻も早く続きが読みたい。 第一作を読んだときは、こんな後味の悪い本は他にはないと思ったから、次作までにインターバルをとらないと立ち直れそうになかったのに。 すごい名作に出会ってしまった。完結まで付き合うしかない。 ほぼ一日で一気読み。こんな本にはなかなかお目にかかれない。
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“「すべての人間は一冊の本を書くために生まれたのであって、ほかにはどんな目的もないんだ。天才的な本であろうと、凡庸な本であろうと、そんなことは大した問題じゃない。けれども、何も書かなければ、人は無為に生きたことになる。地上を通り過ぎただけで痕跡を残さずに終わるのだから。」”(P....
“「すべての人間は一冊の本を書くために生まれたのであって、ほかにはどんな目的もないんだ。天才的な本であろうと、凡庸な本であろうと、そんなことは大した問題じゃない。けれども、何も書かなければ、人は無為に生きたことになる。地上を通り過ぎただけで痕跡を残さずに終わるのだから。」”(P.127) “「ぐっすり眠れ、マティアス。それからね、自分にあまりに辛いこと、あまりに悲しいことがあって、しかもそれを誰にも話したくない時には、書くといい。助けになると思うよ」”(P.158)
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