異人たちとの夏 の商品レビュー
映画「異人たち」が公開されるので、原作本を手に取ってみた。 「ひとりで暗闇の中空にぽつんといるような気がする。静かすぎる… 」 妻と大学二年の息子と離別した47歳のシナリオライター。男のとった行動を読みながら、故山田太一さん脚本の数々のドラマを思い出した。 環八近くの騒音が途切...
映画「異人たち」が公開されるので、原作本を手に取ってみた。 「ひとりで暗闇の中空にぽつんといるような気がする。静かすぎる… 」 妻と大学二年の息子と離別した47歳のシナリオライター。男のとった行動を読みながら、故山田太一さん脚本の数々のドラマを思い出した。 環八近くの騒音が途切れないマンションは殆どが事務所として使われ、夜になると人の気配が消えて行く。無機質なビルの7階に住む男(私)と3階に住む女ケイとの出会い、その先のストーリーに興味が湧いた。 別れた妻と仕事仲間だった間宮に怒り嫉妬する私。離婚で四十男の人生が広がるはずもなく「人に贈る」と言い誕生日に自分のネクタイを選んでいる。やりきれない惨めさが漂ってきた。 「浅草」という文字に懐かしさを覚え、私は生まれ育ったアパートに向かう。 そこには12歳の時、交通事故で亡くなったはずの父母がいた。これは幻覚だろうか? 思いを残し旅立った両親に再び出逢い甘い時間を共に過ごす場面がとても良かった。 「曖昧なもの不透明なもの闇に関わるようなものから遠ざかり、明るく清潔で焦点のはっきりした世界にいたい」と思うが、心地良い感覚にいつまでも浸っていたい!父母が優しく慰撫してくれる時間と、ケイとの濃密な時間を揺れ動く男の心理が見事に描写されていた。 異界とのはざまを抜け現実に引き戻される終盤は私の想像と違ったが、映画ではどのような結末なのか気になってしまう。
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冒頭のひと段落で心が掴まれた。「妻子と別れたので、仕事場に使っていたマンションの一室が私の住居になった。テレビドラマの脚本を書くのが職業である。多くの時間、一人で部屋にいる。少し前には、やって来る女がいたが、妻と別れ話をしているうちに離れて行き、それはそれでよかった。離婚で多量の...
冒頭のひと段落で心が掴まれた。「妻子と別れたので、仕事場に使っていたマンションの一室が私の住居になった。テレビドラマの脚本を書くのが職業である。多くの時間、一人で部屋にいる。少し前には、やって来る女がいたが、妻と別れ話をしているうちに離れて行き、それはそれでよかった。離婚で多量の感情を費やし、人間との接触は、快楽を含めて、しばらくは沢山だった。」
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すごく良かった。 異人たちと過ごすという幻想のようなできごとと、私が頭の中で誰かを動かして空想妄想すること、何も違わないような気がして自分がこわくなってくるね。現実でうまくいかないから、夢の中に逃げて一瞬の幸福感をなんとか味わおうとするのって確かに究極的に怠惰な自慰行為だな。およそ健康な精神じゃないし、本当にどうかしているよね。突拍子もない状況や場面、いろんなところ、いろんな時間、とにかく自分勝手に理想の相手を模って虚構に向かって話しかけて自分で思い通りに返事をさせて。 ネクタイのシーンは愛が足りないゆえの自己肯定感の低さや理想やプライドの高さが見え隠れしていた。他人に甘えられない不器用さと育ちのいい人の器用さ。素直に甘え頼ることで愛される存在になるというか、愛が分け与えられるというか。 幻想を持たないでほしい、"実体"はつまらない男だ、と生身の身体でケイに言う英雄。この"実体"表記が良い。肉体を持った魂相手にもかたちの見えない幻想を抱いたり、その実を空虚だと感じたりすることが往々にしてある、特に自分自身には。まるで自分が生きているのではなく死んでいる、息絶えた物体に近い状態に思えてくるとき、そして幽体離脱したかのような離人感が出てくるとき。何も成しえず、惰性で生命維持をして、死んでいないだけで生きてはいないと寝そべっているあの時間。 ケイのいい女に努めようとした言葉、駄目な自分をそのまま全部受け入れてほしいって相手に求めるなんて虫が良すぎるよな。それを抱えてそこから少しでも脱却していかねば。その反面で好きな人にはいいところばかり見せたいし、格好つけたいというジレンマ。心の開示によってぎこちなくなったり関係が壊れてしまったりする脆さ。 どうかしてるって他人に言われたり自分に言い聞かせたりしていても、本当の心はいつだって真剣で正気で、どうもしてないって無意識に思っている。もう決して縋ることのできない、無形の、自分とは交わることのできない異なる存在に対しどこかで区切りや折り合いをつけること。執着ではなく、普遍的な愛を抱えて生きていく。一切の繋がりを絶ち決別せずとも、確かにあった過去を心の奥底にひそめて。
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大好きなアンドリューヘイ監督が映画化したと知り、原作を読んだ。長くはない作品だが、中年の家庭を顧みず働いてきた男性が欲する愛情の儚い表れが消えるとともに、少し前に進もうと思える美しい話だった。
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離婚し、事務所として借りていた幹線道路沿いの都心の商業ビルに、ひとり住むことになる。 うるさいはずの都心の商業ビルの一室を、静かすぎるとまで精神的に追い詰められたある日、死別した両親とそっくりな人に出会う。 ありえない事だが、死別した時のまま、48歳の自分より若い35歳の両親であ...
離婚し、事務所として借りていた幹線道路沿いの都心の商業ビルに、ひとり住むことになる。 うるさいはずの都心の商業ビルの一室を、静かすぎるとまで精神的に追い詰められたある日、死別した両親とそっくりな人に出会う。 ありえない事だが、死別した時のまま、48歳の自分より若い35歳の両親であった。 両親は何を伝えたかったのか。心を病んでいた彼は確かに、両親の暖かさで、救われたのである。
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こんな傑作幽霊譚をなぜ読んでなかったのかというと、装画に惹かれなかったのかな。ほっこりでもあり残酷でもあり悲しくもあり。
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薄気味悪い話ではあったけど、幼い頃に生き別れた両親に再会できたのはよかったし、お別れするときは、涙が出そうになった。不思議な読後感、夏の終わりに読めて涼しくなった。
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離婚したばかりのシナリオライター。浅草をぶらついていると12歳の時に亡くなった両親と会う。しかし、彼らと会うたびに痩せていき…同じマンションの新しい恋人は引き留めようとするが。 真夏の怪談、とも言える傑作。すごく日本風で、懐かしくもあり、心地よくもある。ラストのどんでんも無理が...
離婚したばかりのシナリオライター。浅草をぶらついていると12歳の時に亡くなった両親と会う。しかし、彼らと会うたびに痩せていき…同じマンションの新しい恋人は引き留めようとするが。 真夏の怪談、とも言える傑作。すごく日本風で、懐かしくもあり、心地よくもある。ラストのどんでんも無理がなく、さもありなんという感じ。 ホラーでもあり、ラブストーリーでもあり、親子愛の話でもある本作。映像化もされているので、そちらも楽しみ。
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映画化されたのをテレビで観て、原作を読んでみたかった。 映像が浮かぶような描写がとても良かった。 あのすき焼きの場面はやはり切なくていいですね。
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大人になって、今日明日ばかりを見ながら一日一日を送り、家庭を持ち、子供たちも大きくなると、色褪せたはずの過去が懐かしく思い起こされる。 一言で言うなら、子供時分に亡くなった父母たちが現れる怪談話でホラー染みたシーンもあるけど、ランニングシャツ姿で両親に囲まれて卓を囲むほの温かい思...
大人になって、今日明日ばかりを見ながら一日一日を送り、家庭を持ち、子供たちも大きくなると、色褪せたはずの過去が懐かしく思い起こされる。 一言で言うなら、子供時分に亡くなった父母たちが現れる怪談話でホラー染みたシーンもあるけど、ランニングシャツ姿で両親に囲まれて卓を囲むほの温かい思いが全体を包んでいる。 子供時代の何とも言えない温かさに触れたくなった時に再読したい。(o^^o)v
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