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破獄 の商品レビュー

4

148件のお客様レビュー

  1. 5つ

    44

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2011/09/16

故人を偲んで  先日亡くなった作家を偲ぶ。  吉村作品に対するこれまでの私の感想は「あっ、そう」だった。淡々と進む筋を追うんだが、それは記録映画のノリでありそこに取りたてて感動はなかった。  初めて読んだのが「高熱隧道」。それ以外は「あっ、そう」状態だったのだ。  今回の...

故人を偲んで  先日亡くなった作家を偲ぶ。  吉村作品に対するこれまでの私の感想は「あっ、そう」だった。淡々と進む筋を追うんだが、それは記録映画のノリでありそこに取りたてて感動はなかった。  初めて読んだのが「高熱隧道」。それ以外は「あっ、そう」状態だったのだ。  今回の「破獄」は違った。けっこう感動的なストーリーだ。記録と言うよりも小説だ。私にとってはこれまでで最高作かな。  360ページの作品で343ページから後が最高にいいと思う。17ページのためだけに残りの343ページが存在しているんだと思う。  4回の脱獄のやり方はどうでもよい。ミステリーではないのだからそこに興味はない。主人公と言える破獄犯佐久間の心模様が本作の最大のストーリーだろう。  佐久間が4回の脱獄を繰り返す間に日本は戦争に負け、刑務所の統治もアメリカ人となる。佐久間は府中刑務所に送られるが、そこの鈴江所長は佐久間を人情的対応で更生させようとする。  所長が出張しているとき、所から緊急連絡が入る。「佐久間の脱獄か?」というところが343ページとなる。私としては人情的というような甘い処置ではだめだと思うので脱獄したのだと思ったが、実は全く違う用事だった。  佐久間は「もう疲れた」といい脱獄はしないのだという。所長が偉いのは、佐久間の心変わりは、自分の人情的措置のせいではなく、たまたま佐久間が衰えてきた頃に当たったのだと考える。頭がいいというか謙虚というのか。私はその所長の言葉に感銘を受けた。  人は人が簡単に動かせるものではない。それぞれに意志がありそれぞれが個の動きをするんだと思う。個人的には、教育とか更生ってのは宗教的でどうも好きではないな。  さて、物語は刑務所から仮釈放かなにかで世間に出た佐久間が映画館で倒れるところで終わる。2人も人を殺した殺人犯が世間へでるのかという素朴な疑問が残るが、それはそれで戦時中のことだからなぁ。 とにかくいい小説だった

Posted byブクログ

2011/09/12

2〜3メートルの壁は軽々駆け上がり、丸太を引っこ抜いたり、力づくで手錠を壊したりする怪力の持ち主。まるでジャン・バルジャンではないか。手錠なんて朝飯前にちょいっとはずす。お前はルパン3世か?刑務所を脱獄すること4回。マイケル・スコフィールド(プリズン・ブレイク)のつもりか?事実は...

2〜3メートルの壁は軽々駆け上がり、丸太を引っこ抜いたり、力づくで手錠を壊したりする怪力の持ち主。まるでジャン・バルジャンではないか。手錠なんて朝飯前にちょいっとはずす。お前はルパン3世か?刑務所を脱獄すること4回。マイケル・スコフィールド(プリズン・ブレイク)のつもりか?事実は小説より奇なりとはまさにこのこと。恐るべし佐久間清太郎。信じられない話が淡々と綴られています。ただ、ただ、凄い。

Posted byブクログ

2011/09/02

昭和の中で4度の脱獄を実行した無期刑囚の話。 無期刑囚の目線からの小説かと思って読んだので 少し期待外れだったけれど、 戦時中の過酷な労働環境で使命に燃える職員の話も、 今まで考えたことのなかった状況・職業で、とても興味深かった。 戦時中、全国の刑務所で、定員の160パーセント...

昭和の中で4度の脱獄を実行した無期刑囚の話。 無期刑囚の目線からの小説かと思って読んだので 少し期待外れだったけれど、 戦時中の過酷な労働環境で使命に燃える職員の話も、 今まで考えたことのなかった状況・職業で、とても興味深かった。 戦時中、全国の刑務所で、定員の160パーセントを超える収容がなされ、 囚人の不満を煽ってはいけないから、と、いくら食糧不足でも囚人には一定の食料が配給されるにもかかわらず、 看守たちには満足な食事も与えられず、 特に北海道の刑務所では、防寒着の着用も許されていない、 だけど給料は低く、囚人が逃亡すると罰として減給される、 刑務所職員はほんとうに大変な職業だったんだな、と思う。 戦時史にあまり詳しくない私なので、読み進めるのに若干苦労したけれど、 一般人の死亡率と囚人の死亡率が比較されていたりしていて、 作者の取材力に脱帽しました。

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2011/09/18

脱獄を繰り返した男の小説と聞いていた。どうやったら?という興味をもって読み始めたが、この小説はそれだけに留まらず、戦中戦後に刑務所がどのような状態であったのかや、看守や囚人の関係、などとても興味深いことばかりで、読みごたえ十分、おなかの底にずっしり残るような話だった。佐久間清太郎...

脱獄を繰り返した男の小説と聞いていた。どうやったら?という興味をもって読み始めたが、この小説はそれだけに留まらず、戦中戦後に刑務所がどのような状態であったのかや、看守や囚人の関係、などとても興味深いことばかりで、読みごたえ十分、おなかの底にずっしり残るような話だった。佐久間清太郎その人間の不思議さ。人生の悲しさ。終盤、泣けてしまった。思っても見なかったこの小説の深さに、名作と言われる作品をやっぱり読んで良かったと思った。

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2011/06/25

4度の脱獄。もちろん犯罪も脱獄もいけないのは重々わかってはいるのだけれど、つい主人公に肩入れしたくなる。 なぜノンフィクションでなく、「小説」として書いたか。

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2011/05/17

昭和の脱獄王を題材にした小説。小説仕立てながらほぼ実話に即した内容で、ぐいぐい引き込まれます。看守との駆け引きは実にスリリングでした。

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2011/10/20
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

昭和11年から23年にかけて、犯罪史上未曾有の四度の脱獄を実行した無期刑囚、佐久間清太郎。 実際の人物をモデルに描かれた小説。 大胆な行動力と緻密な計画でもって脱獄する佐久間と、必死でそれを防ごうとする看守たちの攻防。 佐久間の超人的な手口に不謹慎ながらもわくわくするのですが、戦中戦後の刑務所の実態についても綿密な調査により詳細に描かれており、昭和の監獄史としてもとても読みごたえがあります。 著者の筆は常に冷静で、緊張感を際立たせています。 とにかく面白かった!

Posted byブクログ

2011/04/20

 第二次世界大戦のどさくさに紛れて4つの刑務所から4回脱獄した佐久間清太郎。記録文学というジャンルになるらしく、三人称の語り口で淡々と緻密に書かれている。  空襲で町が破壊され、食糧不足で混沌としていく中で、一般人の2倍の食料を囚人に確保し、刑務所内の風紀を保つことに全精力を傾...

 第二次世界大戦のどさくさに紛れて4つの刑務所から4回脱獄した佐久間清太郎。記録文学というジャンルになるらしく、三人称の語り口で淡々と緻密に書かれている。  空襲で町が破壊され、食糧不足で混沌としていく中で、一般人の2倍の食料を囚人に確保し、刑務所内の風紀を保つことに全精力を傾ける刑務官。その時代、刑務所は唯一秩序が保たれた空間だったのかもしれない。  国がなくなるかもしれないという時にあってなお、職務を全うしようとする日本人に、米軍は尊敬の念を抱いたという。

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2011/01/07

昭和11年から22年にかけて、計4度の脱獄を成功させた佐久間清太郎の人生を描くノンフィクション。 4度とも異なる脱獄方法もさることながら、看守を心理的に追い込むプロセスはヘタなミステリーよりも緊張感がある。こんな超人が戦時中にいたのか。 そして、この小説の最大の見せ場は彼の脱...

昭和11年から22年にかけて、計4度の脱獄を成功させた佐久間清太郎の人生を描くノンフィクション。 4度とも異なる脱獄方法もさることながら、看守を心理的に追い込むプロセスはヘタなミステリーよりも緊張感がある。こんな超人が戦時中にいたのか。 そして、この小説の最大の見せ場は彼の脱獄シーンではなく、なぜ彼が5度目の脱獄をしなかったのか。それに尽きる。

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2010/10/12

体と頭とを徹底的に使って脱獄を繰り返す佐久間と、彼を閉じこめるのに全力を尽くす刑務官たちの記録です。拘束され、常に監視の目に晒され、それでも逃亡しようとする佐久間の意図はどこにあったのか。きっと、目的があったのではないと思います。ただ自由でありたいという根源的な欲求。それが彼の場...

体と頭とを徹底的に使って脱獄を繰り返す佐久間と、彼を閉じこめるのに全力を尽くす刑務官たちの記録です。拘束され、常に監視の目に晒され、それでも逃亡しようとする佐久間の意図はどこにあったのか。きっと、目的があったのではないと思います。ただ自由でありたいという根源的な欲求。それが彼の場合強すぎたのでしょう。脱獄を繰り返す姿は、子供が何が何でもほしいものを手に入れようとしているようで、鬼気迫る手法はともかくとしてだんだん微笑ましく感じられてきます。出所した後も保護会ではなく、しがらみのない日雇い労働者としての道を選んだ佐久間。ここまで徹底されると、感服です。

Posted byブクログ