行動情報学

森田純哉(編著), 永吉実武(編著), 金鎭赫(編著)

• 販売会社／発売会社: 共立出版
• 発売年月日: 2025/04/03
• JAN: 9784320125834

商品レビュー

2025/05/13

1. 行動情報学とは何か
行動情報学は、人間の行動に関する情報とデータを分析・活用することで、個人や組織、社会の行動を変容させるための学問分野です。
情報システム、データサイエンス、マネジメントの3分野を統合することで、人間行動の理解から、その理解に基づいたシステム開発、そして社会への応用までを包含します。
2. 人間と機械の情報処理
人間の情報処理は、認識（記号化）と運動（アナログ化）の相互作用によって物理世界を理解し、行動を生み出します（図1-4）。
認知科学では、人間の頭の中でおこる情報処理の流れを対象にモデルを作り、コンピュータによるシミュレーションを通じて人間行動を理解しようとします。
モデルの作り方には、知識から現実を理解する「トップダウン」と、現実のデータからモデルを構築する「ボトムアップ」があります。
人間は限定された情報処理の産物として「認知バイアス」を持つと考えられており、これが判断や行動の偏りを生じさせます。
3. アルゴリズムとしての人間行動
アルゴリズムは、特定の問題を解決するために定められた明確な手続きです。コンピュータにアルゴリズムを与えることで、コンピュータは特定の問題を解決できますが、問題解決の意図は持ちません。
人間行動もまた、特定のアルゴリズムに従って行われる場合があり、無意識のうちに意図しない結果を生み出すことがあります。
社会には、個々人の行動が組み合わさることで意図せずに発生する「メカニズム」が存在します（例：「合成の誤謬」）。これは「アルゴリズム」のようなものとして捉えることができます。
社会にあるメカニズムを理解し、望ましい結果を生み出すためには、人間の行動に関する知識（モデル）に基づいた予測と制度設計が必要です。
4. 行動情報のシステムとデータサイエンス
情報システムは、組織体（または社会）の活動に必要な情報の収集・処理・伝達・利用に関わる仕組みです（図10-3）。
データサイエンスは、収集されたデータを分析し、そこから知見を導き出す技術です。
モデルとデータは双方向的な影響関係にあり、モデルはデータの探索を導き、データはモデルの構築を促進します。
行動データは、その収集・分析において、バイアス（偏り）や不確実性、データ過剰といった問題が生じ得ます。
行動データ分析の手法として、パターン抽出（図7-1）、分類・予測、ネットワーク分析、回帰分析などがあります。
データ分析を通じて得られた知見は、情報システムに組み込まれることで、人間行動の変容を促すことができます。
「ナッジ」は、人間の行動特性に基づくちょっとしたきっかけを与えることで、行動変容を促すコミュニケーション手法です。
生成AIは、テキストやコードの生成、多言語対応など、人間行動のモデリングに応用されています。
5. 行動情報学とマネジメント
マネジメントは、計画、組織化、命令、調整、統制というプロセスを通じて、組織や社会を運営する営みです（図10-1）。
行動情報学は、マネジメントの各プロセスをより効果的に行うためのツールとして活用できます。
データ分析によって得られた人間行動に関する知見は、マネジメントの意思決定に役立ちます。
「感性品質」は、顧客が商品やサービスに対して持つ主観的な評価であり、データ分析を通じてこれを理解することは、商品開発やマーケティングにおいて重要です。
ネットワーク分析は、組織内のコミュニケーション構造を可視化し、組織のパフォーマンスや人間関係の改善に役立ちます（図12-2）。
プラットフォーム事業者は、多数の利用者の行動データを収集・分析することで、新たな価値創造やイノベーションを追求しています（図13-1）。