〈よい再エネ〉を拡大する 地域に資するための社会的仕組み

丸山康司(編著), 本巣芽美(編著)

• 販売会社／発売会社: 法政大学出版局
• 発売年月日: 2024/12/23
• JAN: 9784588625527

商品レビュー

2025/06/14

脱炭素化に向け、太陽光や風力などの再生可能エネルギー(再エネ)の導入が進展し、更なる期待も高まる一方で、再エネに対する懸念も増えており、立地地域でのトラブルや規制に向けた動きもみられる。このような現状の中、本書は、トレードオフが少なく相乗効果の多い、多様な人々に積極的に受け入れられる〈よい再エネ〉の具体的な条件を明らかにし、それを実現するための社会的な仕組みを多角的に論じている。
立地地域と共生する〈よい再エネ〉の普及に向けて、地域経済効果向上のためには域内出資率・域内調達率を上げることが基本との指摘、また、中間支援組織やメディエーター(あらかじめ価値・利害の対立を予測することに注意を払った上で、いかにして進行中のプロセスのなかで潜在的な摩擦のシグナルを察知し、そこからの洞察に基づいて有効と思われる媒介を柔軟かつ戦略的に講じることができるか考えることを専門的に行う人材)の重要性の指摘など、とても示唆深い内容だった。また、第９章で取り上げられている、再エネの社会的受容性に関する研究成果が反映されているという｢長野県地域と調和した太陽光発電事業の推進に関する条例｣の事例も興味深かった。
ただ、論じられている仕組み等は理想的だとは思ったが、金銭的あるいは労力的なコスト負担を誰がどう担うかが大きな課題かなと感じた。

2025/02/07

1. 地域経済効果の重要性
再生可能エネルギーの導入は地域に経済的な好影響をもたらすことが重要であり、地域経済効果の理論的考察や計測が求められている。

1.1 理論的考察
- 地域経済効果は、事業者の利益や従業員の雇用など、直接的かつ金銭的に現れる。
- これにより、再生可能エネルギーの地場産業化が進む。

1.2 計測方法
- 売電収入は経済効果を測る便利な指標であり、例えば、風力発電による収入を計算する際の基準として用いられる。

2. 風力発電事業の経済効果
風力発電の具体例を通じて、地域経済効果の計算とその影響を示す。

2.1 発電量と収入の具体例
- 例えば、設備利用率が25%の2メガワット風車は、年間4380メガワット時を発電し、年間6570万円の売上を得る。
- 20年稼働すれば、合計で2億1400万円の売電収入となる。

2.2 経済的価値の算出
- 売上から必要経費（利息、減価償却、維持管理費など）を差し引いた結果として、年間640万円の純利益が生まれる。
- 20年間のトータルで2億1750万円の利益が事業者に帰属する。

3. 地域経済効果を高める条件
地域経済効果を最大化するために必要な条件について考察。

3.1 利益の適切な分配
- 地域住民への利益分配が重要で、これにより地域の理解と協力が得やすくなる。

3.2 ステークホルダー間のコミュニケーション
- プロジェクトの計画内容や意思決定に地域住民が関与することが、良好な社会的受容性を導く。

4. 地域主導型再生可能エネルギーの事例
五島市を例に、地域主体の再生可能エネルギー推進の取り組みを紹介。

4.1 五島市の取り組み
- 2014年に「五島市再生可能エネルギー推進協議会」を設立し、地域のニーズに応じた再エネ導入を進めている。

4.2 漁業との協調
- 浮体式洋上風力発電を通じて、漁業との共生モデルを確立し、地域経済への影響を評価している。

5. 社会的受容性と再生可能エネルギー
地域の社会的受容性を高めるためには、適切な条例や手続きの整備が必要。

5.1 地域との調和
- 地域の気候や生態系に配慮した再エネ導入が求められる。

5.2 政府の支援と制度
- 地方自治体や環境省の支援制度が再生可能エネルギーの普及を促進する。

6. 結論
再生可能エネルギーの導入は地域経済に対する明確な影響を持ち、その効果を最大限に引き出すためには、地域住民との協力やステークホルダー間の良好なコミュニケーションが不可欠である。また、地域の特性に合った政策や制度の整備が求められる。