最後の猿まわし

馬宏傑(著者), 永野智子(訳者)

• 販売会社／発売会社: みすず書房
• 発売年月日: 2023/02/03
• JAN: 9784622095873

商品レビュー

2023/02/15

テーマが最高。中国の遅れた田舎のエッセンスを詰め込んだ、いわゆる落后习俗である猿まわし師に密着しようと思ったセンスに脱帽。
批判も糾弾も美化も擁護もせず見たことを淡々と書くジャーナリスティックさを持ちながら、一緒に全国を飛び回り電車の不法乗車や野宿をやってのけるバリバリのフィールドワーカー、私もまじでこれになりたい。ああ私が本当にしたい仕事はこういうのなんだなと、改めて思わされた。

動物虐待って批判されることもあるけど彼らは猿がいないと稼げない以上めちゃくちゃ猿を大事にしていること、猿まわしの芸術性は現在では低下してしまい伝統芸能と言える水準にはなくなってしまったこと、そんな高尚とは言い難い芸を売る放浪の民が中国で受ける視線などよくわかり大変興味深い。

そして中でも興味深いのは、彼ら中国社会の底辺の人々に密着していると、中国では圧倒的に民が官に虐げられているという側面が浮かび上がるという点。
特に謎に罪に問われて裁判にかけられるくだりなど理不尽以外の何者でもなく、ああ中国って本当にこういうとこあるよなと。
私が中国でそこまで嫌な思いをしたことがないのは、自分は外国人という保障された身分だからなのだと改めて思わされた。
これは地方政府の特徴で共産党こそこういうのをなくそうと頑張っているのか、共産党が本質的にこういう組織なのか、多分どちらとも言えると思うので、そこはこれからの研究課題としたい。