商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 光文社 |
発売年月日 | 2022/06/14 |
JAN | 9784334754600 |
- 書籍
- 文庫
街と犬たち
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街と犬たち
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商品レビュー
4
3件のお客様レビュー
ラテアメ文学ブームの幕開けを告げた『都会と犬ども』(新潮社)。 文庫本ないかなと思ってたら光文社で発刊されていた。タイトルがなんだかマイルドになっていて気づかなかったよぉ。 当時、『街と犬たち』は公序良俗にもとる描写、軍部の価値観と相反するということで、出版不可になったらしい。...
ラテアメ文学ブームの幕開けを告げた『都会と犬ども』(新潮社)。 文庫本ないかなと思ってたら光文社で発刊されていた。タイトルがなんだかマイルドになっていて気づかなかったよぉ。 当時、『街と犬たち』は公序良俗にもとる描写、軍部の価値観と相反するということで、出版不可になったらしい。たしかにね、600ページ越えのボリュームと、表現に辟易してなかなか読み進められなったけど、第一部の終わりのところから一気に面白くなってきた。 ペルーの軍人学校で放たれた1発の銃弾。少年たちが維持してきた牙城が密告によって崩れていくという、少年期から青年期くらいの危うさが描かれている。数人の視点での話が入れ替わり立ち替わり進んでいくけど、その中に「僕」がいて、「僕」とは一体誰なのか…。私はどこかでミスリードされてたようで、最後の最後でそうだったのか!となった。 全体的に粗野な雰囲気が流れていて、カオスな感じで終わるのかなと思ったら、意外にも静かで後味も悪くはない終わり方だった。 ちなみに本文中の差別的表現については、「これを避けることが暗黙の差別となる場合もあることを考慮して、そのまま用いている。」とあとがきにあって、今までで1番納得できる説明だった。
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原題は「LA CIUDAD Y LOS PERROS」by MARIO VARGAS LLOSA 1963年発表。作者27歳。 杉山晃の訳……新潮社の単行本………「都会と犬ども」1987 寺尾隆吉の訳…光文社古典新訳文庫…「街と犬たち」…2022 新潮社版の訳者解説には重大なネタバレがあるらしいが、新訳のほうは配慮あり。 実際巧みな仕掛けに驚かされた。 解説から読むクチなので、新訳で読めてよかった。 視点人物が変わる小説には慣れっこだが、本作は単にカメラ位置がAさんなのかBさんなのかに留まらず、視点人物にカメラが寄り添うか少し上方から描写するか、という点から違う。結果一人称と三人称が入れ替わる。 それはまだわかるが、仕掛けがその中に紛れ込んでいるものだから、まんまと。 いわゆるラテンアメリカ文学のブームがドカンと来たガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」1967の数年前。 バルガス=リョサでいえば「子犬たち」1959、「緑の家」1966に挟まれた、本作1963。 マジックリアリズムとは関係ないが、視点の切り替えなどは後の作品を準備したものだろう。 個人的な感想としては、「緑の家」「ラ・カテドラルでの対話」「密林の語り部」などよりも文脈依存度が低いぶん、親しみやすい、はっきりと青春小説ともいえる、入門書に合っていると思う。 いわゆる南米土着性が濃くないぶん、現代小説としても読み深められそう。 頭のいい白人のアルベルト(文屋=ブンヤというニュアンスだろう)、気弱な黄色人種リカルド(奴隷=ドレイくらいのニュアンス)、黒人のボアの馬鹿な感じ、ジャガーの悪ガキ、四角四面なガンボア、などキャラクター性が強いのもいいし、アルベルトがリカルドと話していて「こいつ友達になりたいんだろうな」と気づくあたりはBL風味も。 人物構図としては意外と、夏目漱石「こころ」の先生とKに似ているようにも思う。 ホモソーシャルな社会、女性を間に挟んだ(贈与対象とする)ホモセクシュアル、については石原千秋「謎とき村上春樹」で読んだ。 漱石ーリョサー春樹と横滑りに連想するのも面白い。 またテレサという少女が重要人物なのに、視点人物が96%、男性。 約80の断片のうち、テレサが視点人物になるのは、わずか3場面に過ぎない。 ここから読み換えていく……妄想を膨らませるのも面白そう。 おそらくラテンアメリカ文学の一部はもともとマチズモ批判でできていると思うが、さらにホモソーシャル批判という視点で読み直すのも、今ならできるのかも。
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南米ペルー・リマの全寮制軍人学校を舞台にした小説。著者の体験をもとにしているらしく、時代は1950年代前半と思われる。主な登場人物は最上級生にあたる16~17歳の少年たちと、教師である軍士官など。本文は620ページほどあり、全二部とエピローグからなる。 主人公はレオンシオ・ブラ...
南米ペルー・リマの全寮制軍人学校を舞台にした小説。著者の体験をもとにしているらしく、時代は1950年代前半と思われる。主な登場人物は最上級生にあたる16~17歳の少年たちと、教師である軍士官など。本文は620ページほどあり、全二部とエピローグからなる。 主人公はレオンシオ・ブラド軍人学校の最上級である5年生のアルベルト・フェルナンデス。普段は軍人学校の宿舎で生活しており、週末ごとに母の待つ自宅へと帰り、街の生活を満喫する。アルベルトは文筆を得意としており、同級生たちからはエロ小説やラブレターの代筆をせがまれ、小遣い稼ぎのネタにしている。アルベルトは低所得者層出身の生徒が多い軍人学校にあっては珍しい白人であり、生まれも名門の上流だが、後述のような荒れた学校生活にも馴染んでいる。軍人学校進学の経緯としては、浮気を繰り返す父親の意向によるところが大きい。 兵士たちによって管理されるレオンシオ・ブラド軍人学校は規則が厳しい全寮制学校だが、その反動もあって生徒たちの生活は荒れている。具体的には、煙草や酒の闇取引、盗み、試験問題の不法取得とその売買、校外への脱走、自慰コンクール、賭博、鶏相手の獣姦や苛烈ないじめなど、宿舎内で可能と思われるあらゆる非行がなされている。それらを主導しているのは、最上級生のうちの4人からなる「円陣」と呼ばれるグループである。 「円陣」の始まりは、現在の最上級生たちが入学当初の3年生だった時点で(3年生が最下級生にあたる)上級の4年生からなされた「洗礼」と呼ばれる恒例の下級生いじめが発端となっている。当時の主人公たちの学年である最下級生たちはこの「洗礼」に反発し、上級生に対抗する目的で「円陣」を結成した。その後は断続的に学年間の抗争が繰り広げられたことが回想にて語られる。「円陣」はその後解散したのだが、名前だけを残して、喧嘩が滅法強く動物的な勘をもつジャガー率いる4人の不良グループとして再生し、現在に至る。 最も重要な人物として挙げられるのは主人公のアルベルトのほか、ジャガー、一人だけ非行を拒否し皆からいじめられている「奴隷」と呼ばれる少年、そして教官にあたり生徒からも信頼されているガンボア中尉を挙げることができる。この4人を含む主要登場人物については、光文社文庫のしおりに11人が掲載されており、読書中の確認にも便宜が図られている。しおりに掲載される以外では、奴隷が想いを寄せるテレサの存在も物語の大きなポイントになっている。 小説の舞台は学校内だけではなく、週末の自由な校外の生活も描かれる。校外の生活の一貫として、時間軸を前後して綴られる回想の多さも本作の大きな特徴であり、特に過去のガールフレンドとのやりとりや駆け引き、そして少年の暮らす家庭内の不和などが取り上げられる。回想描写の注意としては、序盤はおそらくアルベルトによる回想のみなのだが、終盤を中心に途中からはアルベルト以外の回想も増えていく。この点が明示されないことも多いため、読書中に混乱するところがあった。並びに本作は、現在の時間軸においても主人公のアルベルトだけでなく、複数の登場人物による多視点で描かれる。 物語の起点としては、最序盤で円陣の一人が化学のテスト問題を盗もうとしたことが発端となる。盗難に気付いた士官たちが犯人が見つかるまでのあいだ全生徒を外出禁止と定め、これがある理由から外出を強く希望する一人の生徒の焦りを誘い、取り返しのつかない大きな事件へと至る。この事件の発生が第一部の終わり、全体の半分にあたる。 作品の雰囲気として、荒れた学校生活や家庭内の不和などに印象づけられる第一部の時点と、終局のエピローグでの乖離が大きい。アルベルトの行動をきっかけに、主要な登場人物の一人の胸中と背景が明かされたことが、その大きな要因だろう。序盤では予想しなかった、青春小説とも言い表せる意外にも爽やかな読後感と、士官学校の大人たちの腐敗とのギャップが印象的だった。回想部を中心に冗長に感じる嫌いも残る。
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