商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | クオン |
発売年月日 | 2022/04/30 |
JAN | 9784910214368 |
- 書籍
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モーメント・アーケード
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モーメント・アーケード
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商品レビュー
4.5
4件のお客様レビュー
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他者の記憶を、その時の感覚や情動、こころのあり方までまるごと追体験できるシステムが普及している世界で、まるでInstagramやTik Tokのストーリーのように世に溢れる様々な記憶の中から、己を心から癒してくれた記憶に愛着を持ち、それに現実でも関わりを持ちたいと願う女性のたどる再生の物語 短編ながら、この話はどう着地するのだろうと、二転三転する展開に緊張しながら読みました 人の記憶をその感覚と共に追体験できる、という設定そのものは、シンプルだし分かりやすいし似た設定の話はあります、しかしそこに語られる語り手の“わたし”の悲痛な叫びは、酷く突き刺さるものでした “わたし”がどれほど苦痛の中で生きていたか、誰にも手を差し伸べて貰えなかった、誰に助けを求めたら良いか分からなかった、家族の存在は何の頼みにもならない、むしろ苦痛を与えるそのものだった、その苛酷さに打たれます でも彼女は、そんな家族のひとりの“モーメント”を体験することで、自分には差し伸べられていた手があったことを、それを気付かずに憎んでしまっていたことに気が付けた そんな彼女の心の変遷と再生を、まさに擬似体験するかのごとく読む作品だったので、だから、ひょっとしたら 作中の“わたし”もまた、傷付いた誰かの心を癒すためのモーメンターとなれたのかも知れない そしてその記憶を買ったのが、読み手である自分であり、この作品は彼女のモーメントだったと読める まるで胡蝶の夢のよう 読了の直後は、“わたし”の再生の物語に心から感情移入し、その結末に良かったなあって感じ取れた しかし、人の記憶を追体験できるとして、自分はそれを買うだろうか そして自分の記憶をシェアしたいと思えるだろうか 同じ場面を体験した別の誰かの心を知りたいだろうか、そして自分の心を預ける側になれるだろうか それはいずれも、やりたくないし出来ない! という結論になるので、本を閉じれば我に帰るように、彼女の心から離れていった その離れてく感覚そのものが、このモーメントのシステムを体験しているようで、また良い感覚だった ところで、この作品は姉妹愛の物語でもあったのですが、家族の介護が必要でも何の助けもしてくれないきょうだいが出てくる作品を別でも読んでいて、そちらとはだいぶ展開が違ったので、比較する作品ではないはずなのに、ちょっとリンクしたように感じられ、それもまた良かったです
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※このレビューにはネタバレを含みます
誰かの目と感覚を通じて、その人の「瞬間(モーメント)」を疑似体験できる、そんな技術が普遍的に使われるようになった少し先の未来。主人公はあるモーメントと出会う。 語り手である「私」は一貫して少し堅い言葉遣いをしている。それは彼女がこれまでの人生において誰かと心を通じ合わせ、心の安らぎを得た経験が無いからなのかもしれない。一人称で自分の人生を語っているにもかかわらず、常に冷めた感覚を与えるこの「です・ます」調の語り口は、小説を読み始めたばかりの読者に「距離感」のようなものを与えてしまう気がする。 これは訳者の問題なのだろうか。それとも元々の著者の文体に問題があるのだろうか。 そうではない。 この文体にはふたつの役割がある。ひとつは主人公である「私」のパーソナリティを表す役割。もうひとつは読者である「あなた」との"交信"の役割だ。 12年間にわたる母親の介護生活の末、心がズタズタになった「私」が出会ったモーメント。それはどこかの誰かが持つ「恋人との記憶」だった。「私」はその記憶に触れることで少しずつ心の傷を回復させてゆく。 この時点では「自分が経験し得なかった経験を知ることが出来るのは素晴らしい!=読書って素晴らしい」ってことがテーマなのかと思っていた。それは最終的にあながち間違っていなかったのだが、ラストシーンに至るまでに、本短編小説はいくつかの展開を用意し、そのテーマを読者にとってより身近で、より切実なものとする。 つまりこの短編は、読書をすることで誰かの人生を、誰かの記憶を、誰かの感情を疑似体験させる試みなのだ。無論、それだけならば、どんな小説でも当てはまることだ。小説を読むことはイコール仮想の人生を生きることに他ならない。 しかしこの小説はそこで終わらない。主人公である「私」のすぐそばに「あなた」という人物を用意することで、まるで読者は「私」と交信している感覚になる。その交信を経て、「私」が見えていなかった誰かの人生を知ったとき、「あなた(=読者)」は「私」を救う手助けをすることとなる。主人公の心が移り変わる様子には、若干物分かりが良すぎるように感じる部分があるものの、この、「読む」ことで「私」を手助けするという感覚は本作の白眉だろう。 本を読むという行為は通常一方通行な行為だ。読者は作者が書いた言葉を受動することしか出来ない。しかし本作は、「私」と「あなた」という人物を、強く結びついた関係性にすることで、苦しみと悲しみと後悔の中で生きてきた「私(=本)」に、「あなた(読者)」が介入しているという奇蹟を用意する。それは、メタフィクショナルでビビットな体験だ。 まるで私が登場人物を救ったかのような、いや、そこまで驕った言葉を使わないまでも、瞬間的にであれ、彼女の人生に”関われた”のだというような、そんな感覚を読みながらにして得る。 読書という行為の一方通行性を打ち壊し、私とあなた、本と読者の関係が”相互作用”によって成り立っているのだと、この短編は謳う。 あなたのおかげで私はこの世界に帰って来られたのだと。だから私は生きているのだと。
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ファン・モガ「モーメント・アーケード」読了。素晴らしかった。バーチャル空間で、切り売りされた人の記憶を感情も含め追体験できるシステム、モーメント・アーケード。何気ない無機質な近未来の一場面から始まり終わってみれば、主人公カリンの情動から訴え掛けられる怒涛の展開に終始圧倒された。
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