商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 新泉社 |
発売年月日 | 2020/07/18 |
JAN | 9784787720139 |
- 書籍
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エリートたちの反撃
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エリートたちの反撃
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商品レビュー
4.5
3件のお客様レビュー
いまだにドイツやヨーロッパに流れるナチズムの怨霊が漂っているなと思う昨今、世界的に拡がる保守化、右傾化をドイツを例にしてわかりやすく理解させる良本。「ドイツの新右翼」もそうだけど、面白い。
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ドイツでは2010年に「ザラツィン論争」と呼ばれる論争が起こった。古参の社会民主党(SPD)党員で、ブンデスバンクの現役理事であるティロ・ザラツィンは、2010年に「ドイツは自滅する」を出版した。その内容は、イスラム教徒移民たちの高い出生率と「支出の担い手」であるドイツ人の低い出...
ドイツでは2010年に「ザラツィン論争」と呼ばれる論争が起こった。古参の社会民主党(SPD)党員で、ブンデスバンクの現役理事であるティロ・ザラツィンは、2010年に「ドイツは自滅する」を出版した。その内容は、イスラム教徒移民たちの高い出生率と「支出の担い手」であるドイツ人の低い出生率のために、ドイツは経済的に急速な下降線を辿り、また文化的にも没落していくというものだった。「ドイツは自滅する」は、ドイツのエリート中のエリートでSPDの幹部であったザラツィンが出版し、百万部以上売れたことでちょっとしたスキャンダルであったという。 筆者のフォルカー・ヴァイスによれば、ザラツィンの主張は突如として現代のドイツに出現したのではなく、戦前のドイツから脈絡と受け継がれている「没落文学」の系譜であるという。没落文学とは、「ドイツ社会における非エリート的要素の拡大によって没落しつつある」と危機を煽る一方、没落を阻止する唯一の方策としてエリート指導者層の再生を主張する一連の著作物である。没落文学は、現状の文化を没落。崩壊、変質の過程にあるものとして批判する「文化批判(あるいは文化ペシミズム)」といった特徴がある。 本書は、オスヴァルト・シュペングラーの「西洋の没落」を嚆矢とした、ドイツにおける「没落文学」の系譜を丁寧に辿っている。「没落文学」は、シュペングラー、エドガー・ユリウス・ユング、オルテガ・ィ・ガセット、フリードリヒ・ジーブルク、アルノルト・ゲーレンなどによって語り継がれてきた。近年において、あのペーラー・スローターダイクまでもが「没落文学」の系譜に位置する。ポスト・モダンの左旋回ならぬ右旋回といったところか。 個人的に面白く読んだのは、オルテガ批判と現代ドイツ右翼におけるカール・シュミットの影響が書かれた章だ。オルテガは「大衆の反逆」において、ファシズムは大衆による民主主義の終着点に過ぎないとみなしているが、実際には、ファシズム運動は常に保守エリートと同盟を結んで権力に至ったのであり、ファシズムの権力構造は厳格な階級構造であった。「ファシズムの身分構成は、政治的主体としての大衆ではなく、支配する対象として大衆を必要としていた」という指摘は目から鱗であった。日本でも保守派知識人たちに大人気のオルテガ「大衆の反逆」、実は大した内容ではなく、単に鼻持ちならないエリート支配を肯定しているだけの書物だと個人的には思えてきた。 ドイツの新右翼は、カール・シュミットのパルチザン概念を援用して、自らが「占領国により創られた戦後ドイツの体制の犠牲者である」と自己演出することで、道徳的な価値を高めているという。また、彼らは、グローバリズムへの抵抗運動をグローバリズムという「正規軍」に対して「非正規闘争」を行うパルチザンとして正当化を行っているようだ。60年代には新左翼に影響を与えて、現代においては新右翼に影響を与え続けるカール・シュミットという亡霊はやっかいである。 巻末についている『現代ドイツ政治と「新右翼」』と題された訳者による詳細な解説はとても読み応えがあり勉強になった。訳者の鑑といえよう。戦前から脈絡と続いているドイツの保守主義者、右翼の系譜を知るにはもってこいの本である。是非とも読むべし。
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