商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 岩波書店 |
発売年月日 | 2020/02/16 |
JAN | 9784006004170 |
- 書籍
- 文庫
貨幣システムの世界史
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貨幣システムの世界史
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序章貨幣の非対称性 零細額面通貨(銅貨、貝貨)は農村部、高額通貨は都市部で主に流通する。零細額面通貨は地域内で還流し上位へは還流しにくい。零細通貨と高額通貨の交換レートは需給によって各地域で変動しうる 1章越境する回路 アフリカアラビアにおけるマリア・テレジア銀貨は、両替相場や法定相場を超えて諸地域を結ぶ上位層通貨として選好され続けた 2章貨幣システムの世界史 世界史上、制度的な通貨供給が麻痺しても、取引されるべき財が集積していれば、それに変わる地域通貨が自然と(民間で)出来上がる。通貨が貨幣として受領される根拠は、通貨自体ではなく貨幣に媒介される財(商品)の側にある。 地中海・西欧では高額貨幣の金銀貨(農村部はバーター取引)の地域間決済通貨、中国では零細貨幣の銅貨の現地通貨が主流。13世紀のモンゴル帝国により、地域間決済通貨として銀使用が西から東へ流出する。地域間兌換性の極地国際金本位制は現地通貨の自律性を削ぎ、連鎖的に世界恐慌を引き起こしうる 3章競存する貨幣たち 中国インドでは各地域各商品で異なる貨幣が用いられた。中央政府の指定する高品位銀、民間の使用する低品位銀 4章中国貨幣の世界 歴代中国王朝は画一的な通貨(銅銭)を供給するが、各地域の独自相場は容認した。銅銭は歴代王朝通じて重量・品質が一定していた(前諸王朝発行銭が民間に大量に存するためそれに合わせざるを得ない)(鋳造原価が額面より高くても発行せざるを得ない) 銅銭は零細額面で輸送費もかかるため、紙製通貨(政府の会子・交子・交鈔、民間の銭票・銀票・市票)が発生。唐の租庸調制から宋の両税法は、財政のフロー管理からストック管理への変調、そして銀は政府ストックと銅銭の民間ストックとの分離を目的として受容された 5章海を越えた銅銭 大量の良貨である銅銭は東アジア各地で基準銭として流通した。後期倭寇の終息とスペイン銀貨の流入により、日本ー福建の密貿易が後退し、中国銭の輸入が減った結果、戦国時代日本の貨幣基準が銭から米に変化する(不動産や債権債務の建値は中長期的に安定している必要がある) 6章社会制度、市場、そして貨幣 伝統中国では小農も商人も自由に定期市や鎮で商売をし、商店発行の銭票が地域内で流通。絶対王政以前西欧では債権債務の他律的信用取引で通貨使用機会を節約。銀貨は領主と商人が領域間のやり取りに使用され各領域内の貨幣に改鋳が必要。インドは中間的、小農は零細額面の貝貨を使い、銀貨は各地で改鋳が必要で送金は専ら為替で行う。日本では村内温情関係によって金銭を介せず労働力を交換 7章本位性の勝利 国際貿易の発達と共に基準貨幣との兌換が保証された紙幣の発行が世界各地で進み現地通貨が退場していく。市場並びに通貨の重層性を越えて経済の一体化が進んだ結果、信用連鎖が伸びきり農村経済での季節調整の弾力的運用が難しくなり世界恐慌へ繋がった 終章市場の非対称性 農業社会において貨幣需要の大きな季節較差がある。手交貨幣は取引需要に合わせて還流するわけではない、ことに小農の需要に合った零細額面の通貨ほど還流しにくい。貨幣は、演繹的に論じれば違う種類のものを交換する媒介として考えられるが、歴史上では同じものを要求するタイミングの差の媒介として考えられる
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もともとは世界歴史選書の一冊として2003年に刊行。2014年には増補新版が出て、本書はそれを底本とした現代文庫版となる。世界歴史叢書のほうもだいぶ以前に読んだが、今回、あらためて増補新版を読んだのは、先に『銀の流通と中国・東南アジア』を読んだからである。あらためて読んでみて、ま...
もともとは世界歴史選書の一冊として2003年に刊行。2014年には増補新版が出て、本書はそれを底本とした現代文庫版となる。世界歴史叢書のほうもだいぶ以前に読んだが、今回、あらためて増補新版を読んだのは、先に『銀の流通と中国・東南アジア』を読んだからである。あらためて読んでみて、また非常に勉強になった。 本書は、「あとがき」(p.293)にもあるように「歴史的経験より貨幣の何たるかを帰納する試みである」である。世界史的に広がる貨幣の様々な態様を描きつつ、貨幣理論では常識とされているものが成り立たない世界の方が歴史的には常態であること浮かび上がらせている。現代の我々が当然のように想定している世界が歴史的にみてかなり特殊なケースなのだということだ。たとえば貨幣数量説の「常識」にしたがえば、貨幣数量が増加すれば(他の条件が等しければ)物価は上昇する。逆はその逆。しかし、実際の歴史のなかでは非常にしばしば理論的想定を裏切ることが起こっている。これはなぜか。あるいは「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムの法則。実際には良貨であるがゆえに交換手段として機能するケースも多い。なぜか。 本位貨幣制度が世界を席巻する19世紀の末から20世紀にかけて、本書が考察の対象としている多元的で多様な貨幣が相互に補完し合いながら空間的・時間的広がりをもつ世界は失われつつあったが、それでも第1章で取り上げられているマリア・テレジア銀貨などを見ていくとその不思議な世界がほんのつい最近まであったことがよくわかる。「あとがき」によれば、第1章の元になっている論文は欧米圏の研究者にもピンときやすい事例として、中国史が専門の著者があえて選んだ事例ということだが、その効果は非常によく出ているように思う。つかみはOKというやつである。 それを踏まえて第2章では貨幣が本源的に空間的をともなうものであるが、「狭い空間の内側で平衡しようとする動機と、不安定さをともないながら広義の兌換性を築き上げようとする動機がせめぎあってきた過程であり、その衝突はさまざまな社会システムの興亡と結びついていた」(p.83)と貨幣の世界史全体の見通しが述べられている。 以下、第3章では貨幣の競存性が18世紀末のベンガルと中国を事例に論じられ、第4章では貨幣の画一性と多様性について中国貨幣の事例から考察されている。第5章は海を越えた銭貨流通を支えた共同体の構造とその解体についてで、日本の中世における銭貨流通も取り上げられる(この部分は補論「東アジア貨幣史の中の中世後期日本」でも詳しく論じられている)。第6章では社会制度、市場と貨幣の関係がさまざまな歴史事例に照らしながら類型化されていく。第7章は本位制の勝利と名づけられてはいるが、本当にめでたい勝利なのか……。第7章最後の節は「脱現地通貨化と恐慌」である。 そして終章は、全体のまとめとしての「貨幣の非対称性」となっているが、「あとがき」を読むと筆者の見解は「非対称性」よりも「貨幣の補完性」にその強調したい点が移ってきているようなので、そのように読んだ方がわかりやすいかもしれない。
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