亡命旅行者は叫び呟く 福武文庫

島田雅彦(著者)

• 販売会社／発売会社: ベネッセコーポレーション
• 発売年月日: 1986/01/01
• JAN: 9784828830001

商品レビュー

2024/11/22

「亡命旅行者は叫び呟く」とその続編である「大道天使、声を限りに」の二作品を収録しています。

ソヴィエト連邦で二か月間をすごすことになった公務員のキトーヤマヒコは、セイコーの腕時計とアメリカ・ドルの力を利用して、ロシア女の白い肌をあじわい、帰国後は婚約者のミチコとの家庭生活をきずくという、日本の現実に根を下ろした人生をあゆんでいきます。

一方、彼とともにソ連にわたったワタシ（渡志）という青年は、「ヒコクミン」となることを夢見るものの、レーニン広場で叫んで逮捕され、日本人として帰国させられることになります。帰国後、彼は大阪のコリアン・タウンでカナエというウェイトレスの女と知りあい、恋に落ちますが、彼の戦うべき相手の日本という現実はその本質をつかむことができず、彼はいつまでも空回りを演じつづけます。

デヴュー作の「優しいサヨクのための嬉遊曲」で採用されたパロディの手法に注目された著者ですが、本書でも巻末の「読者の皆さんへ」という文章のなかで、著者は「僕は当面、パロディを武器にするでしょう。本音はパロディの中に含まれています。パロディによって世界を反転させ、隠されていた現実を体験すること―これが僕の書き方であり、生き方にしたいと思っている方法なのです」と語っています。ただこの方法は、どうしても著者の批判的意識や作品のメッセージ性があからさまに現われ出てしまいます。個人的には、動揺の「現実」を主題としつつも、寓話的な手法でそれをあつかっている村上龍の『海の向こうで戦争が始まる』のほうが、文学という方法によってなしうる可能性を切り開くことに成功しているように感じます。

2023/08/16

戯曲の様な不思議な話運び。
作者の思想が少し入った青年二人の滑稽な脱・社会モラトリアムが描かれているが、深く考えず言葉や文学表現を楽しむのが正しい作品かもしれない。
物語構成にもう少し意味や納得が欲しい。

2012/02/19

キトーとワタシの対照的だが似通った主人公たちが紡ぐ、ドンファンや青年小説の素晴らしいパロディ作品。ビアス的な皮肉視点で物事を捉えるのが見事。