キャパになれなかったカメラマン(下) ベトナム戦争の語り部たち

平敷安常【著】

• 販売会社／発売会社: 講談社
• 発売年月日: 2008/09/25
• JAN: 9784062149662

商品レビュー

2017/08/17

珍しく副題に嘘がない。ベトナム戦争を通して、著者が一緒に
仕事をしたり、知り合った放送記者・カメラマン・音声など、
報道に携わった人間群像が描き出されている。

ベトナム戦争に限らず、戦争関係の本は少なくない数を読んで
来たが、本書には戦争物に付きものの政治的思想的解釈が一切
ない。根底に流れているのは人間ドラマであり、それを記す
著者の温かい筆運びだ。

前線取材に向かう途中で行方不明になった仲間の遺体・遺品を、
戦後20年以上経ってから探し出したアメリカ人カメラマンがいる。

シンガポール出身のカメラマンは交替カメラマンに前線の模様を
引き継ぐ為、一緒に出掛けて行き北ベトナム正規軍の待ち伏せに
遭い、命を落とす。彼に前線行きの許可を与えた放送記者は、
戦後も自責の念を抱え生きる。

サイゴン陥落が時間の問題になると、アメリカ本国から報道関
係者や民間人の撤退作戦が始まる。

対象はアメリカ国籍保有者のみ。しかし、報道機関や民間企業は
現地で協力してくれたベトナム人スタッフとその家族すべてが
無事に脱出出来るようあらゆる手を打つ。

著者が所属するABCでも、違法すれすれの書類に頼るところまで
脱出案が練られる。政府が見捨てたベトナムを、民間が、報道
機関が救おうとする。

本書にはピューリッツア賞を受賞した「よりよき頃の夢」や
「安全への逃避」といった傑作写真も収録されている。

尚、著者は9.11のツイン・タワー崩壊の際、埃と瓦礫のなかを
走り回った最年長のカメラマンである。

橋田信介がイラク戦争時に殺害され、ベトナム戦争の生き残りも
少なくなった。スチールカメラの石川文洋は健在。湾岸戦争で
陥落したバグダッドから最後まで中継を続けたピーター・アー
ネットもベトナム経験者だったか。

駆け出し編集者だった頃、ベテラン・カメラマンが言っていたっけ。

「俺たちの世代はベトナム戦争に刺激されて、報道カメラマンに
憧れた奴がほとんどだよ」。

戦争物としては異色の本書だが、◎な良書だ。

2013/11/18

著者がベテランの域に達してからの戦争リポート。写真は生の現実を伝えるので、ある意味一番のコメンテーターである。

九州大学：たけ

2008/11/22

読売新聞、産経新聞、週刊文春の書評にも出ていた本。
ベトナム戦争を取材した、テレビカメラマンの回顧録。
上下巻あり、ページ数に腰が引けてしまうかも知れないが、
読みやすい文体で書かれている。