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天使の蝶 光文社古典新訳文庫
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天使の蝶 光文社古典新訳文庫

プリーモレーヴィ【著】, 関口英子【訳】

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天使の蝶 光文社古典新訳文庫

968

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 光文社
発売年月日 2008/09/20
JAN 9784334751661

天使の蝶

¥968

商品レビュー

4.2

16件のお客様レビュー

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2025/11/27

人類は天使になる途中のネオテニーである、という仮説のもと行われた残酷な人体実験をめぐる表題作ほか、ブラックユーモアに満ちた幻想SF短篇集。 今の気分に合っていて一気に読んだ。シンプソン氏という営業マンが登場するシリーズが楽しい。藤子AでもFでもあるような、アシモフやフレドリッ...

人類は天使になる途中のネオテニーである、という仮説のもと行われた残酷な人体実験をめぐる表題作ほか、ブラックユーモアに満ちた幻想SF短篇集。 今の気分に合っていて一気に読んだ。シンプソン氏という営業マンが登場するシリーズが楽しい。藤子AでもFでもあるような、アシモフやフレドリック・ブラウンを思いだすような、漫画的でライトな読み味が懐かしい。 シンプソン氏が売りつけてくる機械は、2025年から見るとハッとするほど正確に未来を予見している。ChatGPTそのものみたいな〈詩歌作成機〉、原子レベルから複製できる3Dコピー機〈ミメーシス〉、他人の思考と感情まで体感させてくれるVR装置〈トレック〉などなどをサラッと開発、商品化しているシンプソン氏の勤め先については、アメリカの企業であること以外謎のまま。作者のレーヴィは化学者でもあったらしいけど、シンプソン氏はあくまで科学をビジネス視点で評価する。 例えば顔の美醜を測る装置がでてくる話では、絶対基準の美とは何たるかを語る野暮は冒さず、基準を客に委ねることで購買意欲が上がるんだ、と意気揚々と語る。コント的なオチだけど、美の基準はわが社にあるなんてことは言いださないところがしたたかだ。 最後にシンプソン氏はVRにハマり、語り手にも売り込んでくる。これが体験提供者の視界だけでなく、感覚とか感情とか思考まで全部記録して追体験できるというシロモノなんだけど、面白かったのが、説明を聞いた語り手が「提供者側は全部記録されていることを意識しているだろうし、その意識すらもVR体験者は追体験することになりますよね」と疑問を投げかける。するとシンプソンは「そうです。でも記録されているという意識を脳の片隅に置きながら目の前のことをやるっていうのは、VR体験者が自分はVR装置をつけていると意識しながらVRを味わうのと同じようなものだから違和感もじきに慣れますよ」みたいなことを言う。このやりとりが今っぽいなぁと思った。 シンプソンもの以外では、車同士で感染する病から与太話が繰り広げられる「猛盛苔」、サナダムシの細胞からジョン・ダンみたいな詩を読み取る「人間の友」が〈異常論文〉系のSFで面白かった。「ケンタウロス論」ではノアの箱舟を降りた後の生き物たちはこぞって異種交接をした、その結果が現在の地上の豊かな生態系であって、ケンタウロスもそこで生まれたのだと、まことしやかにケンタウロス視点の創世神話が語られるのも楽しい。 表題作「天使の蝶」は、レーブ教授という名前からプラハのゴーレム伝説のラビを連想した。もしそこから名前を引いているとしたら、ユダヤ人救済のシンボルを作った人がナチを思わせる人体実験をした研究者のモデルになっているという、キツい皮肉だけど。 今読んでも新しいとか、珍しいモチーフがあるというわけではないけれど、古典的なネタを上手に料理して、科学によって人類が陥る袋小路を描きながら、あくまで軽い作品に仕上げているところに凄味がある。だいたい同世代の同国人であるカルヴィーノが、小説の「軽さ」を重要視していたことを思いだす。

Posted by ブクログ

2023/10/29

 原著1955年刊。  ユダヤ系イタリア人で、戦時中アウシュヴィッツに収容されたが、大学で化学を学んだことが幸いし、奇跡の生還。その後出版したアウシュヴィッツについての証言『これが人間か』(旧邦題『アウシュヴィッツは終わらない』)を出版し、これがじわじわと評判を呼ぶ。  そんな特...

 原著1955年刊。  ユダヤ系イタリア人で、戦時中アウシュヴィッツに収容されたが、大学で化学を学んだことが幸いし、奇跡の生還。その後出版したアウシュヴィッツについての証言『これが人間か』(旧邦題『アウシュヴィッツは終わらない』)を出版し、これがじわじわと評判を呼ぶ。  そんな特異な経歴を持つ作家レーヴィはどんな小説を書いたのだろう、と素直な興味を持った。しかし実際に読んでみると、ソフトなSFといった趣の軽いエンタメ物語で、ここには「異常な体験」も「人間存在の深淵についての意識」も認めることはできない。  まあ、暇つぶしに読むような、軽いエンターテイメントという感じがした。あのアウシュヴィッツ生還者のレーヴィの、と思って手に取るのでなければ埋もれてしまいそうな小説集である。  この短編集の中では「天使の蝶」「ケンタウロス論」辺りはわりあい面白かったか。

Posted by ブクログ

2016/11/24

SFでありながら非常に詩的で神話的で終始背中にぞくぞく来るものがあった。もうどこまでも私好み。以下激しくネタバレ。///シンプソン氏のNATCA社シリーズは、3DプリンターやVRの超すごい奴が出てきたりして、思わず私たちの「これから」に思いを馳せずにはいられない。にしても「検閲は...

SFでありながら非常に詩的で神話的で終始背中にぞくぞく来るものがあった。もうどこまでも私好み。以下激しくネタバレ。///シンプソン氏のNATCA社シリーズは、3DプリンターやVRの超すごい奴が出てきたりして、思わず私たちの「これから」に思いを馳せずにはいられない。にしても「検閲は鶏に」とか「測定される数値こそが美」とか痛快なまでの皮肉と「痛みこそ生の番人」というような真理が同居してるし、トレックで女優さんのハプニングとか細部に至るまでもう本当すごい。蜂の話とかも面白かったのに…辛いなぁ。何度でも読む。

Posted by ブクログ