商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 新潮社/ |
発売年月日 | 1998/06/30 |
JAN | 9784103413097 |
- 書籍
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死ぬの大好き
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死ぬの大好き
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商品レビュー
4
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正月から何もこんなタイトルの本を読まなくても…と眉を顰められる向きもあるかもしれませんが、これには理由があるのです、聞いてください。 いえね、昨年のいつだったか、友人の女性がFBで「捨てようと思っているけど、いるならどうぞ」なんて投稿していて、捨てるなんてもったいないと頂戴するこ...
正月から何もこんなタイトルの本を読まなくても…と眉を顰められる向きもあるかもしれませんが、これには理由があるのです、聞いてください。 いえね、昨年のいつだったか、友人の女性がFBで「捨てようと思っているけど、いるならどうぞ」なんて投稿していて、捨てるなんてもったいないと頂戴することにしたのです。 で、この際、正月休みに一気に読もうと手に取った次第。 山本夏彦には僕もかつてハマった口で、「夏彦の写真コラム傑作選」なんて書棚から取り出して何度読んだか分かりません。 博覧強記で豊かな知識に裏打ちされた辛口なコラムは中毒すること請け合いです。 本書は週刊新潮に平成8年から10年にかけて連載された「夏彦の写真コラム」を収録したもの。 ですから、所蔵の「傑作選」にも収録されているものもありましたが、ほとんどは未読でした。 毎度のことながら辛口ですが、正鵠を射ているなぁと思わず膝を打つコラムばかり。 たとえば、贈収賄や汚職について「その席にすわれば誰もすることである」と喝破して以下のように述べます。 「明治のむかし荷風散人いわく―吏は役に立たぬものなり。欲に深いものなり。賄賂を取りたがるものなり。責むるは野暮なり。いくら取替えても同じ事なり。」 あるいは、こんな行に痺れました。 「文士はそもそも並のモラルに従わないアウトロー(破落戸=ならずもの)である。実際に人殺しはしないのに人殺しが書けるのは心中ひそかに何人も殺しているからである。」 高齢社会が加速度的に進んでいますが、次の文章は実に示唆に富んでいます。 「孝が絶無になったのは税制と関係がある。戦前は長男ひとりが相続したのに、戦後は妻子がそれぞれ相続するようになった。扶養の義務は長男だけになく各人にあるようになった。各人にあるということは誰にもないということである。結局は国によき老人ホームを造れということになるが、いくら善美をつくしても死んでいく人ばかりのホームはホームではない。老若男女がいてはじめて浮世である。ことに幼な子がいなければ老人は死ねない。」 男女の愛について、私も以下の考えに同意署名します。 「伊藤整は『愛』という言葉が輸入されて以来、日本婦人の不幸のふえることいかばかりかとむかし書いた。卓見である。私たちの父祖は愛という言葉を口にしなかった。愛がなかったはずはないのに、それに当る言葉がないのは不思議なようでそうでない。言わぬは言うにまさったのだろう、目は口ほどにものを言ったのだろう。しのぶれど色に出にけりわが恋はものや思うと人の問うまで。」 軽々しく「愛」を語るなかれ。 吉行淳之介の「なんのせいか」(大光社)を読んで、山本夏彦は引き込まれたそうです。 たとえば、吉行はこんなことを言っています。 「生きていることは汚れることだ、ということは生きているうちにしだいに分ってくる。汚れるのが厭ならば、生きることをやめなければならない。生きているのに、汚れていないつもりならば、それは鈍感である。『牛も豚も魚も野菜も、みんな命あるものだ。それらを食べていいものか』と今も昔も悩む人がある。そういう残酷を犯すこと、そういう汚れかたをすることが生きてゆくことなので、これまで生きていたくせに、何を今さらである。だから、『純粋』とか『純潔』とか『純情』とかいう言葉くらい嫌いなものはない。どれもこれも胡散くさいにおいをぷんぷん放っている」 作家の了見とは、こういうことではないかと思います。 汚職の報道はどうして人心をとらえて離さないか。 「私は汚職の報道は読者の暗い楽しみの一つだと思っている。毎日読んで憤慨したりなげいたりする娯楽だとみている。凡夫凡婦である自分たちはこんな悪事は働かない、ハレンチなことはしないとその時だけでも潔白で正義漢になる快をむさぼる好読物だと思っている。新聞はタダで百万読者を道徳家にしてくれることスポーツ新聞と同じである。」 慧眼ですよねぇ。 援助交際についても 「人みな飾っていう。援助交際と飾っていうから高校生中学生は集まるのだ。女郎、売笑婦、ぢごく、淫売と言ったら集まるまい。」 同感です。 こんなコラム集を読んで、中毒しないわけがありませんね。 でも、私が一番気に入ったのは、「健康な人は本を読まない」という言葉。 なるほど、その通りです。 健康な人はほかにもっとやることがあります。 私には活字中毒という病識が確かにあり、健康な人を不健康な読書の世界に引きずり込んで道連れにしたいがためにこうして本のレビューを書いています。 書を拾え、町へ出るな。
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