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受け手のいない祈り
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受け手のいない祈り

朝比奈秋(著者)

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 新潮社
発売年月日 2025/03/26
JAN 9784103557326

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商品レビュー

3.6

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2026/05/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

20260513読了。 初出は2023年12月号の文學界。 翌春に号令が出た「医師の働き方改革」の前に出た呻きのように思えるけれど、おそらくA水準連携B水準云々関係なく、現状これと変わらない病院はきっとどこかに存在する。そう思って読んだ。 冒頭、外科医の公河は医大時代の同期ヤナザキの訃報を聞く。 会話から始まり、空腹を満たすことで思考が塗られていて感傷に浸れない、やや不謹慎な印象を抱かせる。 すぐに広がるのは殺伐とした医局風景だ。 公河は、同期の岡田には「おれ」上級医の前では「僕」そして地の文では「私」と自分を指している。 まるで公人、はじめはそんな印象だった。 同僚の医師はみな苗字だけが出てくるが、上下関係はすぐに分かる。 医長の遠山と敷島(ふたりいるのは診療領域の違い?)、浜中、同期の奥山。 専攻医や研修医と思しき若手の姿はない。 公河たちは、冒頭から寝ないで仕事をしている。 宿直のことを「寝当直」なんて呼ぶところもあったが、彼らは呼び出しばかりの寝ずの当直から開けて外来、病棟への回診、別の日はオペに救急当番、と仕事を無限に回していく。 既に気が狂いそうな状況で働いている。 同期ヤギサキの告別式では、まだ死への手触りがはっきりとはしない。 公河が「ほんまち」で女の子たちと喋っているとき、ようやく彼が人間らしく生きている気がする。 救急センターが崩壊し、自院に患者が集中しさらに浜中が去ってしまう。 増員のない医局の環境が悪化する。 月残業が三百時間を超えた、という表現は、だから三百時間分の残業を報告して手当をもらいました、ということではない、と理解している。 (ここは私の妄想) 実際はそんな勤怠の管理なんてする余裕もなく、馬鹿正直に申請なんてしたら事務方に「80時間を超える前に帰ってください」なんて言われる。 なんなら、「先生だってわかってるんだろうから数の調整してよ」なんて悪態までつかれる。 彼らの超過時間は〝なかったことにされている〟。 これが現状だと思う。 メジャーな症例のオペだけではなく、癌患者のオペ、十二時間の長丁場のオペもどんどんやってくる。 「来なくても腹開けて待ってる」という脅しが重く刺さる。 奥山とふたり、看取り専門の療養病院をふたりで開院しようか、と夢想を語るところでやや安心するが、最後は奥山と公河も壊れていくのが悲しくてやるせない。 奥山は心の拠り所にしていた重症患者が死に、先の見えない闇の中に向かっていってしまう。 彼の体も何度も限界を超えている。 それを見守る公河はまだ、と思ってはいけない。 彼は立って動いていられるだけで、幻覚を見、血尿を出し、食べたものを嘔吐する。 病理の部屋に行く場面はどちらも彼の夢の世界かと思えたが、あれも現実だったのか。 彼らの状況の対極にあるのが、じつは同じ病院にいる他科の同期、という残酷がある。 皮膚科の友香はいつも定時に退勤、宿直もなく、SNSの活動も盛んで美容クリニックの外勤にも行っている。 こんどはテレビ出演まであるらしい。 なぜ、と思うが、領域が違うと医師は助っ人総動員というわけにはいかない。 整形外科のドクターもそう。 領域外だと手が出せなくてコンサル出してくるのは、悪態つきたくはなるが仕方のないこと。たぶんこの病院には脳外と心外がない。 周産期医療も撤退している。 外科の先生たちは一般外科、この病院も患者の主訴の多くが消化器だった。 本当は、ミイラになってしまった交通事故患者の中学生は、専門医のいる大きな病院へ転院させることができたのではないかと思う。 この病院は孤島だ。 連携病院はないのか、大学病院からの短期出張で増員はできないのか、院長のコネは。いろいろ考えた。 職場が魅力的でなければ医者のリクルートはできないということだろうか。 激務という言葉が生ぬるく思えるほどの凄惨な現場で、命の重みが軽薄になっていく。 患者の命と引き換えになるもの、代償や等価交換が全く見合わない。 死んだヤギサキの命の対価が見合わない。 祈れ、と乱暴に念じる時もある。 どこに向かうこともない祈り、答えは導かれない。 絶望的な最後に、どうか彼らが生きてここを出られますように、と祈らずにはいられなかった。 この医療の上に生かされている私たちとはなんなのだろう。 最高の文学作品だった。

Posted by ブクログ

2026/05/06

[こんな人におすすめ] *日本の医療体制の危うさを忘れがちな人  ホラー小説より怖いかもしれません。  何より恐ろしいのは、医療を受ける側には医療現場の危うさが見えにくいこと。ある日突然、自分の住む街の医療が立ち行かなくなり、救急車で運ばれても受け入れ先が見つからない。そんな事態...

[こんな人におすすめ] *日本の医療体制の危うさを忘れがちな人  ホラー小説より怖いかもしれません。  何より恐ろしいのは、医療を受ける側には医療現場の危うさが見えにくいこと。ある日突然、自分の住む街の医療が立ち行かなくなり、救急車で運ばれても受け入れ先が見つからない。そんな事態が起こり得るのに解決策がなかなか浮かばないことに怖さを感じます。医療関連のニュースや選挙の公約への注目度が上がります。 [こんな人は次の機会に] *ハードワーク気味な人  かなりしんどい勤務実態が描かれるため、「自分の職場はここまでブラックじゃない、まだマシか」と危険な勘違いを起こす可能性があります。ご注意ください。

Posted by ブクログ

2026/04/29
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

医師でもある著者が凄まじく多忙な緊急医療の医師達を描いた作品 ただし、単なる医療現場の悲惨さだけでなく、医師の命に対する想い、葛藤や、友情、恋愛まで踏み込んだ異色な作品だ 現実と妄想が入り乱れて、一見読みにくい作品だが、つい引き込まれて一気読みした それにしてもやはり、医者の多忙さは異常だ 月に100時間を超える残業、72時間の連続勤務、今どきは一般企業ではありえない過酷さだ 我々は当たり前のように医療を受け入れられると信じ込んでいるが、それは綱渡りなのだろう

Posted by ブクログ

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