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ドラキュラ・シンドローム 外国を恐怖する英国ヴィクトリア朝 講談社学術文庫2791
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 講談社 |
発売年月日 | 2023/11/09 |
JAN | 9784065338308 |
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ドラキュラ・シンドローム 外国を恐怖する英国ヴィクトリア朝
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商品レビュー
3.7
3件のお客様レビュー
ドラキュラとは日本人にあまり縁のない存在だとだけど、なんとなく知っている。 そのドラキュラがイギリスに及ぼした影響という切り口が面白かった。
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・ 私はドラキュラや吸血鬼が好きだが、このやうな書を読んだことはなかつた。丹治愛「ドラキュラ・シンドローム 外国を恐怖する英国ヴィクトリア朝」(講談社学術文庫)である。元版は東京大学出版会から出てゐる。 原題を「ドラキュラの世紀末ーヴィクトリア朝の外国恐怖症の文化研究」といふ。い...
・ 私はドラキュラや吸血鬼が好きだが、このやうな書を読んだことはなかつた。丹治愛「ドラキュラ・シンドローム 外国を恐怖する英国ヴィクトリア朝」(講談社学術文庫)である。元版は東京大学出版会から出てゐる。 原題を「ドラキュラの世紀末ーヴィクトリア朝の外国恐怖症の文化研究」といふ。いかにも学術書である。この副題の方が内容を想像し易いとは言へる。「本書のどこが文化研究なのでしょうか。(改行)それは端的にいって、この本の関心が最終的に『ドラキュラ』のテキストそれ自体にむかっているのでは なく、テキストに認められる外国恐怖症というヴィクトリア朝の文化的コンプレックスにむかっているからです。文化がこの本の最終的な関心だからなのです。」(317頁)これだけで明らかである。ストーカーの 「ドラキュラ」が分析対象ではあつても、引用書は当時の政治家や社会情勢に関するものがほとんどである。「ドラキュラ」=吸血鬼小説としか考へられない人間には無縁の世界であるかに思はれる。しかしそれがおもしろいのである。それが「文化研究」によるのはまちがひない。「テキストに認められる外国恐怖症というヴィクトリア朝の文化的コンプレックス」、これがいかなるものであるのかを順次書いていく。それは私には考へられないことどもであつた。 ・目次は「イントロダクション」に始まる。文字通りの導入 部であるが、この後半は「ドラ キュラの年は西暦何年か」 (23頁)といふ章である。私は、西暦何年にドラキュラが出没したのかなどと考へたことはなかつた。これ以後との関係で、この年は大いに問題になるらしい。そこで子細な検討が加へられてゐる。さうして1893年といふ西暦年が出て くる。ごく大雑把に言つて世紀末である。これは「文化的コンプレックス」にも関係してゐる。「コンプレックス」は「帝国主義の世紀末」、「反ユダヤ主義の世紀末」、「パストゥー ル革命の世紀末」と続き、更に文庫版の補遺として「もうひとつの外国恐怖症ーエミール・ゾラの〈猥褻〉小説と検閲」で終はる。これらがかつての英国にもあつたであらうことは容易に想像できる。それが「ドラキュラ」にも関係してゐたのである。「帝国主義」の最後は新興国家アメリカである。「他民族をたえず『同化/吸収』しつつその領土を拡大していくアング ロ・サクソン民族は、吸血しつつ彼の『同類』をふやしていくドラキュラとなんと似ていることでしょう。ドラキュラとはじつは抑圧された彼らの自己イメージだったのかもしれません。」(148頁)この時点で、アングロ・サクソン世界の「一方のセクションは多くの部分に分割分断されており、他方は分割されていない全体として大いにその力を増大させている」(146頁)といふ状況にあつたが、「分割分断」が英国、「力を増大させている」のが米国であつた。よりはつきり言へば、ドラキュラは「つぎつ ぎに植民地を失っていく二〇世紀末の大英帝国の運命を予徴するかのように、ついにその肉体を切り裂かれることによって、『支配者』たる地位を失っていく」存在でしかない。これが 「コンプレックス」である。このやうにドラキュラと英国が関係してゐるのであつた。「反ユダヤ」でも「パストゥール」でも、そして「ゾラ」でも同様のことが言へる。正に蒙を啓かれる思ひであつた。「『ドラキュラ』は、多種多様な主題のもと、それが生み出された一九世紀末の政治的・歴史的コンテク ストのなかでさまざまに解釈されてきた。」(325頁)といふ。その「さまざまに解釈された」一つが本書なのであつた。 かくして「ドラキュラ」は本当 に特権的な書である(同前)と思ふ。
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近い時期に古典新訳文庫版『ドラキュラ』を読んだばかりで、取り上げられている該当箇所についての記憶も鮮明だったので、本書の内容をより興味深く読むことができた。 はじめに、著者は次のような謎を提示する。①なぜドラキュラはトランシルヴァニアからはるばるロンドンへ侵略/侵入しなければ...
近い時期に古典新訳文庫版『ドラキュラ』を読んだばかりで、取り上げられている該当箇所についての記憶も鮮明だったので、本書の内容をより興味深く読むことができた。 はじめに、著者は次のような謎を提示する。①なぜドラキュラはトランシルヴァニアからはるばるロンドンへ侵略/侵入しなければならなかったのか。②なぜドラキュラの住居は貧しいイーストエンドと富裕なピカデリィでなければならなかったのか。③なぜヴァン・ヘルシングはオランダ人でなければならなかったのか。④ドラキュラに立ち向かう5人の男たちのうち、なぜ二人も医者でなければならなかったのか。⑤なぜクインシー・モリスはアメリカ、テキサス州の出身でなければならなかったのか。⑥なぜクインシー・モリスのみが命を落とさなければならなかったのか。 これらの謎の背景にあるのは、端的には英国の「外国恐怖症」であるとして、以下具体に解明がされていく。 興味深かった事項をいくつか取り上げる。 『ドラキュラ』刊行の時期、侵略小説という文学ジャンルが流行していたが、これには普仏戦争におけるフランスの惨敗が影響したこと。また1870年代から英仏海峡トンネル計画が持ち上がり、計画の具体化とともに英国において外国軍隊の侵略恐怖が世論となり、結局実現しなかったことなど初めて知った。そして、そうした時代背景の下での『ドラキュラ』に見られる侵略恐怖とは、イギリスの帝国主義実践の鏡像であったという説が紹介される。 そしてまた知らなかったことが一つ。産業革命のトップランナーだったイギリスが、1890年代にはドイツの追い上げを受けており、それが第一次大戦の遠因になったことは良く紹介されているが、アメリカも同じく産業革命後発国としてこの時期には発展を続けていた。そして、1895年、イギリスとアメリカは、ベネズエラとイギリス領ギアナとの国境問題で一触即発の危機にあった。これは、モンロー主義を盾に取り、アメリカ大陸のことにヨーロッパ諸国の介入を認めないとするアメリカの政策が原因の対立。アメリカに対するアンビヴァレンスがクインシー・モリスの描かれ方、そして彼の死という結末に現れているというのが著者の考え方である。 また、ドラキュラには、容姿の描写や東欧から来たとのことからユダヤ人性がイメージされていると著者は言う。これも本書で知ったことだが、1881年のロシア皇帝アレクサンドル二世の暗殺を契機に、ロシアではユダヤ人に対するポグロムが発生し、また権利を制限する法令が出されたことから、東欧から大量のユダヤ人が西方に移動を開始した。イギリスにもユダヤ人が流入し、人口過密や衛生問題、労働力過剰とイギリス人の失業など次第に社会問題として捉えられるようになった。ここでは、ドラキュラが居住した地域とユダヤ人居住地とが同じエリアであることなどが説明される。 『ドラキュラ』だけを読んでいたのでは、小説のことだからということで終わっていただろう事柄が、ヴィクトリア朝における文化全体の中で読むことによって、『ドラキュラ』の恐怖の源まで深く理解できたように思われる。知的関心を掻き立てられる興味深い一冊。
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