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記憶は実在するか ナラティブの脳科学
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記憶は実在するか ナラティブの脳科学

ヴェロニカ・オキーン(著者), 渡会圭子(訳者)

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記憶は実在するか ナラティブの脳科学

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 筑摩書房
発売年月日 2023/08/12
JAN 9784480843296

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2024/05/03

人間は見聞きした体験をまるごとそのままおぼえていられるわけではない。脳が記憶を作りだすメカニズムと記憶が人のアイデンティティを作りだすメカニズムの両側から、記憶と精神の関係を考えるサイエンス・ノンフィクション。 著者のオキーンは臨床医として30年以上のキャリアを持つ精神科医。...

人間は見聞きした体験をまるごとそのままおぼえていられるわけではない。脳が記憶を作りだすメカニズムと記憶が人のアイデンティティを作りだすメカニズムの両側から、記憶と精神の関係を考えるサイエンス・ノンフィクション。 著者のオキーンは臨床医として30年以上のキャリアを持つ精神科医。産後精神病から回復した女性のある一言をきっかけに、精神的な病と記憶との関係について考え始めたという。 オキーンは記憶を「経験をつくりあげる神経メカニズム」と定義する。たとえば目の見える人間が立方体と球体を見ただけで区別できるのはその違いを記憶しているからで、後天的に視力を得た人は手で触るまで差異がわからないという。あるいは、時間の感覚も言うなれば記憶の配列順序でしかない。「過去と未来は記憶にしか存在せず、私たちが現在と呼ぶものは本当は意識である」という一文が特に印象深い。「すべての感覚とはすでに記憶である」というベルクソンの言葉どおり、脳に蓄積されたデータを使って私たちは外界を感知するのだ。 だからこそ記憶に関する機能がひとたび異常を起こすと、それは当人の人格に強い影響を及ぼす。たとえばうつになると自伝的記憶を司る海馬が縮小し、記憶が断片的になったり喪失してしまったりする。自伝的記憶を失うことは自分に固有のストーリーを喪失する=アイデンティティの崩壊を意味する。うつから回復すれば海馬は元の大きさに戻るが、失われた記憶は戻らない。うつを経験した人に"昔の姿"を求める残酷さを改めて知った。 そして、第14章「虚偽か事実か」はフロイトの誤認によって女性たちが語る父親からの性被害体験が妄想扱いされ、〈偽りの記憶〉と言われてきた歴史を扱っている。それどころか、フロイトは幼児が異性親に恋慕を抱くものとして性加害を肯定するような世論に加担した。今も続く性犯罪の被害者への二次加害のひどさを思うとやりきれないし、トラウマを理路整然と語るなんてことはできないとわかる。何より本人が「この記憶は偽りなのではないか」(あるいは「偽りであってほしい」)という不安を抱えているのがトラウマというものだろう。 オキーンが記憶に着目するきっかけになった女性のように、妄想が記憶として定着するケースもある。回復後は本人もそれが妄想だったとわかっているのだが、妄想によって引き起こされた恐怖は主観的事実として脳に刻まれてもいる。妄想が消えても恐怖した記憶は鮮明に残るのだ。 こうした人びとに寄り添うオキーンのまなざしはやわらかい。以前、男性の精神科医が書いた本の感想に、精神科へ通っているという女性が「自分も観察の当事者だと思うと読むに耐えない」と書いているのを見たことがある。じっさい私もその書きぶりに違和感を持って他の人の感想を調べたので然もありなんと思った。オキーンは医者と患者の権力勾配を常に意識していることが伝わるし、好奇心旺盛に患者を"観察"しようとする医者の態度にもNoを突きつけている。 シャーロット・パーキンス・ギルマン「黄色い壁紙」(これまだ読めてないんだよなぁ)、『ジェイン・エア』『鏡の国のアリス』『罪と罰』などたくさんの文学作品が例示され、山本貴光『文学のエコロジー』を補完してくれるような内容でもあった。 記憶とは海馬というメモリーメーカーと前頭葉前皮質というストーリーテラーの生みだす〈私のストーリー〉であり、それを使って人間は世界を感知する=擬似環境を作りだす。だが、記憶の歪みや崩壊によって人は〈私〉を見失い、自分の考えが他者の声のように聞こえ始め、擬似環境が現実とは似ても似つかない姿に変貌していく。今の私にはそうした世界の捉え方を想像してみることしかできないが、それを手助けしてくれるのは文学なのかもしれない。

Posted by ブクログ

2023/10/10

 豊富な臨床経験を持つ精神科医である著者の手による「記憶」論。  前半部は主として脳神経学の知見をもとに人間の記憶の性質、正体、意味などを科学的に論じている。研究史や臨床経験への言及がそこに厚みを加える。哲学や文学への目配りも幅広い。  後半部では集合的記憶のような文化記憶まで射...

 豊富な臨床経験を持つ精神科医である著者の手による「記憶」論。  前半部は主として脳神経学の知見をもとに人間の記憶の性質、正体、意味などを科学的に論じている。研究史や臨床経験への言及がそこに厚みを加える。哲学や文学への目配りも幅広い。  後半部では集合的記憶のような文化記憶まで射程が広がる。また前半部で整えられた記憶への理解をもとに、記憶に「本物」や「偽り」の区別が存在するか、物語(ナラティブ)としての記憶は個人にとってどんな意味合いを持つか、といった問いと向かい合う。 「記憶」にまつわるトピックを学際的に扱いつつも、一般向けの記述を最後まで逸脱していない。どちらかといえば、著者の経歴が直接に活かされている前半部のほうが読み応えがある。

Posted by ブクログ

2023/10/04

脳科学を豊富な事例や研究から説明されていて、分かりやすい一方で、スッキリした文章ではないため、自分の脳科学の知識不足もあって分かりにくい面もあり、星は2つ減らしました。でも、脳科学の専門書よりは読みやすかったです。

Posted by ブクログ

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