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三年間の陥穽(下) ハヤカワ・ミステリ文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 早川書房 |
発売年月日 | 2023/05/23 |
JAN | 9784151821660 |
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三年間の陥穽(下)
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商品レビュー
4.5
8件のお客様レビュー
下巻はピート・ホフマンの息詰まる潜入捜査で幕を開ける。極論を言うなら、扱い難いグレーンス警部よりリアリストのピートの活躍に胸を踊らされていたので今回はとても辛かった。今回のテーマも暗澹たるやりきれない社会の一面を取り上げてあり、最後の一文に救いを見た気がした。
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グレーンス警部シリーズはついに終章を迎えつつあるのだろうか? そんな心配が胸を駆け巡る。それほど、しっかりと主人公の現在の日々、そして彼が過去に残した禍根から響いてくる痛みが、のっけから描かれてゆくからだ。亡き妻と、彼女が胎内に抱きかかえていた生まれなかった娘。グレーンス警部が...
グレーンス警部シリーズはついに終章を迎えつつあるのだろうか? そんな心配が胸を駆け巡る。それほど、しっかりと主人公の現在の日々、そして彼が過去に残した禍根から響いてくる痛みが、のっけから描かれてゆくからだ。亡き妻と、彼女が胎内に抱きかかえていた生まれなかった娘。グレーンス警部が毎夜、警察署の個室のコーデュロイのソファの上に身を横たえながら心に彷徨わせる孤独。帰って来ない家族への想い。 本書では、傷つけられる子供たちというテーマが描かれる。聞いたこともないほど残酷な性被害を受ける、少年少女たちの存在が浮き彫りにされる。子供たちを犠牲にして自らの歓びや商売に結びつける鬼畜の如き親たち。彼らを結びつける悪魔のネットワークの存在。グレーンスが亡き妻の墓参りの後で出会ったのは、行方不明のままの娘のための空っぽの墓に花を捧げる女性だった。 そしてその出会いにシンクロするかのように、行方不明の娘を三年間待ったという夫婦が、娘の捜索を諦め、その死を認め葬儀を行うことになったという報道を、グレーンス警部は耳にした。何故? 何故? 何故? グレーンスの頭の中で鳴り響く疑問が、その行方不明の娘の葬儀に、執拗に待ったをかける。行方不明の娘の双子の少年もまた、グレーンスに、彼女は生きていると思うと告げる。双子特有の直感のようなもの? この物語の導入部は、警察が認めてしまう捜査終了に抗い、個の力で子供たちを性の奴隷として商品化する悪のネットワークを暴こうと決意するグレーンスのある意味、心の物語だ。相変わらずテーマは重く、そして世界レベルでもある。 もう金輪際潜入捜査はやらないはずのピート・ホフマンは、またもグレーンスの訪問を受ける。否、ピート個人ではなく、ホフマン一家がである。敢えて家族をも巻き込んでのグレーンスの説得に、ピートは暴力の形で激しい怒りをぶつけるが、何と妻がピートを説き伏せる。許し難い犯罪ネットワークをぶっ潰すよう要請するグレーンスのためではなく、失踪した娘とその母たちのために。 前半は、この状況の構築だけで、ぐいぐい読まされる。後半は、お馴染みのダブル主人公のうち、ピートの潜入シーンが例によって核心部となるが、彼自体の命も脅かされるほどの敵方の慎重さと疑い深さに、我らが主人公は、シリーズ最大の危機を迎える。 いつも思うのは、この作者の現代的なテーマの確かさと重さ、そして構図のしたたかさである。本書も、スピード感のある描写と共に、心の揺らぎや、状況の不安定感が全編を包むことで、全編、絶え間ない緊張が走り続けるものである。読者側の感情に訴えかけてくる人間性という救いが作品の中に見え隠れしなければ、あまりに過酷な物語として生理的にも受け付けられないテーマですらある。 それでもグレーンス警部に関わる深い人間描写と、ピート・ホフマンという人間の運命性とを梃子のように使い分け、作品全体に強烈な力学を加えてゆくその小説作法は、いつもどの作品でも極めて素晴らしい上に、現代的な情報小説の側面も持ち、なおかつ時代と世界への警鐘を忘れない骨太の作品ともなっている。それがこのシリーズのいつもながらの特徴なのである。 構成はこの上なく素晴らしく、プロローグで偶然に出会う忘れ難き名無しの女性との出会いのシーンが、ラストシーンに置いてグレーンス警部の心の中の状況として奇妙な響きを持つようなエンディングとなってゆく。一種不思議な感覚で終わるこのラストシーンもまた、この手練の作家の持つ魅力なのだ、と言って良い気がする。 一気読み必須の語り口と、作者の健在ぶりを間近に見てしまうと、この先のグレーンス警部やピート・ホフマンとの再会がますます楽しみになる。そんな興奮冷めやらぬ読後を、ぼくはいま、多少の微熱とともに持て余しているのだと思う。
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このシリーズは、現実に起きている問題、社会の暗部を取材した成果を織り込んだ内容であると同時に、「意外な展開」を見せて、なかなかに面白い物語に仕上がっている。シリーズ作品を読んだのは、何時の間にか随分と以前になってしまったが、その間も作品は発表され続けていて、未読作品が少し多くなっ...
このシリーズは、現実に起きている問題、社会の暗部を取材した成果を織り込んだ内容であると同時に、「意外な展開」を見せて、なかなかに面白い物語に仕上がっている。シリーズ作品を読んだのは、何時の間にか随分と以前になってしまったが、その間も作品は発表され続けていて、未読作品が少し多くなった。それはそれとして、本作でシリーズに改めて出遭えて善かった。 グレーンス警部は、デンマークの女性捜査員やその他の人達の協力も得ながら活動を続ける。 暗号化したネット上のやりとりで、幼い子どもを弄んで虐待をしている写真等をやりとりしているグループのリーダーと目される人物と、他のメンバーが会うという相談になっているらしいと判明した。そこに、デンマーク人のメンバーになりすました潜入要員を送り込み、何とか取押え、同時進行で各国の警察によって各メンバーを逮捕するという計画が立てられた。 下巻ではグレーンス警部の依頼を受け、逡巡しながらも「心の傷の故に何とか問題の解決に力を尽くして欲しい」とする妻の願いも受け、問題のグループの会合が行われる米国のサンフランシスコに乗込むホフマンの闘いが大きな位置を占める。 ホフマンの闘いの行方と、デンマーク警察が各国警察の協力で進めた作戦の行方、そして「意外な展開」が観られる。“続き”が気になって、ドンドン読み進めて素早く読了に至ってしまった。 墓地での奇妙な出会いでグレーンス警部が知った事案は3年前の出来事だった。そしてその3年前から、多くの人達が陥穽(=落とし穴)に落ちてしまっていたということになる。それが明らかにされる。 卑劣な犯罪への憤りを静かに燃やしながら考えを巡らせるグレーンス警部の部分と、腕利きな工作員というように冷徹に任務に取組んで悪辣な者達を倒すホフマンの部分との、底流が通じていながらも、少し対照的な感じの部分が組み合わさって構成される物語が凄く面白かった。「静」と「動」とが組み合わさって、力強く物語を推し進めているというような様子だ。 上下巻を通して一気に読める。御薦め!!
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