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アントンが飛ばした鳩 ホロコーストをめぐる30の物語
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アントンが飛ばした鳩 ホロコーストをめぐる30の物語

バーナード・ゴットフリード(著者), 柴田元幸(訳者), 広岡杏子(訳者)

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アントンが飛ばした鳩 ホロコーストをめぐる30の物語

定価 ¥3,850

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 白水社
発売年月日 2023/04/05
JAN 9784560093412

アントンが飛ばした鳩

¥1,430

商品レビュー

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2024/10/01

 第二次世界大戦前の1939年に、ポーランドの町ラドムでユダヤ人の家庭に生まれ、十代でナチス占領下のヨーロッパを生き抜いた著者の記憶を綴った三十篇からなる短編集。写真家であった著者の精緻な目で綴る記録文学である。 一日に三篇くらいずつ、ゆっくり読み進めた。 一字たりとも読み飛ば...

 第二次世界大戦前の1939年に、ポーランドの町ラドムでユダヤ人の家庭に生まれ、十代でナチス占領下のヨーロッパを生き抜いた著者の記憶を綴った三十篇からなる短編集。写真家であった著者の精緻な目で綴る記録文学である。 一日に三篇くらいずつ、ゆっくり読み進めた。 一字たりとも読み飛ばすことはしたくなかった。  それぞれの篇には題がついていて、万年筆、バイオリン、兄の友人など…一つの物や一人の人間に焦点を当てつつ描かれている。  『はじめに』で、著者はこう書いている。 ◯書くことにしたさまざまな話は、どれも人間についての話だ。欠陥を抱えた人間、善良な人間、邪悪な人間。けれどももっと大事なことに、これらは苦しみについての、人間の持つ耐える力についての話なのだ。  この本を読み終えて一番感じたことは、ナチス占領下を生き抜いた一人の人間の、占領前、占領中、そして占領後まで、人生がまるまると辿れるありがたさだった。ナチスがしたことが一人のユダヤ人の人生にどう影響したのか、それを俯瞰して見ることができた。  特に心に残った文章 ◯絶滅収容所とガス室の噂が広まり出した頃、父はそれらを信じようとしなかった。「ナチスどころか、チンギス・ハーンだってそんなことしないだろうよ。20世紀なんだぞ。文明社会が許すわけない。」 ◯連合軍の飛行機がじきにやってきて、近隣何か所かに爆弾を落としていった。私たちは標的だったわけだが、諸手を挙げて爆撃を歓迎した。自由のため、これほどの悪を終わらせるためなら、死ぬのも嫌ではなかった。 (略) 私たちの思想は生き残るがナチスの悪は滅びる。

Posted by ブクログ

2024/06/05
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※このレビューにはネタバレを含みます

昨年の5月に名古屋のON READINGさんで柴田元幸先生の朗読会に参加した。 この本の中から 『三つの卵』というとても象徴的なお話を朗読してくださり、不謹慎ながらもとても面白い!と思ってしまった。そこから実際に読むまで1年かけてしまったが、1年後まさかまさか、柴田先生がゲストの読書会に参加するという幸運に恵まれた。 バーナード・ゴットフリードはナチス占領下のポーランドで少年期から青年、つまりティーンエイジャーの時代を戦争とホロコーストに生きた人。 物語は少年時代の思い出、 敬虔なユダヤ教徒の素敵なお祖母様のお話しに始まり、バイオリニストを志した少年時代の思い出などを綴る。ひとつのお話の中で戦前からホロコースト、そして解放後のお話しへと進むものもあったりして時系列も時にばらばらなのだが、この繰返しがとてもうまく並べられ、30の物語として語られている。 ゲットーに移されてからは、彼が写真館の見習いをしていたおかげて仕事を続けることができ、強制収容所へ送られたのが戦争が終わる少し前だった事が生き延びた事に繋がったか。 それにしても、ホロコーストを生き延びるということの偶然と、同胞や家族が殺されるところを目の当たりにする壮絶さ、そういうことが淡々と何一つ大袈裟でなく語られる。だのに物語になっているのがすごい。 でもとても魅力的なのは、彼の人物や情景描写の細やかさ。写真家ならではのディテールへのこだわりが、つらいだけでなく、鮮やかに読ませてくれた。 とはいえ、これはナチスのやったこと、ホロコーストの時代に生き抜き、死んでいった人たちの物語。 母親が収容所へ送られる日、彼と兄に涙声で訴えた。 _お願いだからどこかへ隠れて 何が起きたかを世界に伝えるためにあなたたちは生き延びてほしい_ この言葉を胸に、彼はこの本を書き上げ、この一冊に全てをつぎ込み、アメリカ各地でホロコーストの証言者として講演をしていたそう。 ドイツ人やロシア人にも心ある人が時々登場します。そういう人たちに助けられるのは、彼の優しさや人間力なのかなとつくづく思う。素晴らしい家族の中で育ってきた人なんだなと。 ところで、柴田先生はどのお話しを訳したかったですかという質問をテーブルのどなたかがされ、「祝祭日の鶏」はやられたなと仰っていた。これは広岡氏が訳していたのだが、本当に面白く、信仰について考えさせられるおはなし。他に「万年筆」というお話がもあげられていて、私も大好きだったので嬉しくなる。これは万年筆と父との素敵な思い出のお話しで、読んでいる時から柴田先生は翻訳する時に万年筆を使われる、その筆致まで妄想していたのだ。 うむ。 後半、アメリカ軍によって強制収容所が開放される。その後の出来事もあまりにも物語がありすぎるて驚く。お世話になったドイツ人の家族、ドイツ語の発音へのトラウマ。ポーランド人によるユダヤ人への迫害。オペラハウスで出会ったドイツ人の素晴らしい女性インゲ。彼女とはどうしても一緒になれなかったことがつらい… そしてようやく心許せる昔の友人についての語りで終えるところも、小説的にうまいなぁと感じてしまった。しかしどれも事実なのだ 読書会の後、柴田先生がゴットフリードが後にアメリカの大学からポーランドの強制収容所に戻った時のルポルタージュを訳してくださった。観光地化された収容所の様子、ツアーガイドの語りの誤りにも、彼らしく対応していた様子を伺えた。 ホロコーストに関する本を書いた作家たちに敬意を表し、これからも無理せずに読んでいかなければと思う。

Posted by ブクログ

2023/08/28

本書は第二次世界大戦前のポーランドに生まれ、十代でナチス占領下のヨーロッパを生き抜いたユダヤ人の著者バーナード・ゴットフリードの記憶を綴った30篇から成る短篇集の邦訳版である。 第二次世界大戦前のポーランド、徐々にナチスの影響を受け遂に占領される。その時著者は14歳。 そして17...

本書は第二次世界大戦前のポーランドに生まれ、十代でナチス占領下のヨーロッパを生き抜いたユダヤ人の著者バーナード・ゴットフリードの記憶を綴った30篇から成る短篇集の邦訳版である。 第二次世界大戦前のポーランド、徐々にナチスの影響を受け遂に占領される。その時著者は14歳。 そして17歳の時に家族ごとゲットーに移される。彼はナチスが客として利用する写実館で働いており、それが理由で初期に強制収容所に送られずにすんだ。一方地下組織のメンバーの依頼もあり、残虐な写真を含めて、ナチスの写真を渡すと言う協力も行っていた。 19歳の時に少しでも自由を求めてゲットーからの脱出を試みるが失敗。そこから6つの強制収容所を生き延び、オーストリア北部の収容所で終戦を迎えた。その後は家族を探しながらヨーロッパ中を旅し、兄と姉に再会する。父と母、父方の祖母はホロコーストの犠牲となり亡くなった。特に父は目の前で殺されている。 終戦から2年後に親戚のいるアメリカへ移住、その後アメリカ軍の通信隊に加わったあと、30年以上にわたってニューズウィーク誌の写真家として活躍した。 本書は著者自身の体験を思い出しながら記載している。過酷な体験であることには間違いないが、全体的に感情は抑え気味で、時には冗談を交えた会話の場面もあり、強い精神の持ち主だったのだろうなと感じた。また書かれた内容によると、犠牲はユダヤ人のものだけではないということ、ナチスドイツの最大の標的になったユダヤ人と異教徒たちの人生がどれだけ密に絡まり合っていたかということがわかった。 彼が中心に据えた人物たちには、故郷のキリスト教系ポーランド人、ロシア人捕虜、ドイツ人被収容者、ひいてはナチス関係者までもが含まれる。その一人ひとりの物語を追っていくうちに、だんだんと善人と悪人、加害者と被害者、ユダヤ人と非ユダヤ人の境界さえ怪しくなっていく。たとえば、隣人だったポーランド人のアントンはろくでもない夫であり、ドイッ軍を挑発する反逆児であり、容赦なく人を殺すナチスの手下であり、ゴットフリード少年を助ける英雄である。また、親切なオーストリア人夫妻がユダヤ人家庭から金品を奪っているとわかったり、あるSS兵がなぜか彼に食料を持ってきてくれたり、収容所で一緒だった男がユダヤ人のふりをしていたと後で判明したりする。この本は、そのように一枚皮を剥けば別の顔が出てくる人たちが、それぞれの立ち位置にいることで避けがたい固有の運命をたどるという、皮肉と矛盾に満ちた話の連続である。 第二次世界大戦中、ナチスドイツとその協力者たちによって約600万人のユダヤ人の生命と、彼らがヨーロッパで何世紀にもわたって築いてきたコミュニティがごく短い期間で組織的に破壊された。 自分も1999年に仕事の関係で、ポーランドに暫く滞在する経験があり、強制収容所跡にも行き説明を聞くことができた。折りしも寒くどんよりとした日であったため、余計に当時の悲惨な状況を肌で感じることが出来た思いがしたことを覚えている。そして当時ですら、ポーランド人はドイツへの反感はあまりなく、むしろロシアへの反感が相当強いことが分かった。 人間はどうしても忘れてしまう存在だ。それが世代が変わると余計である。 後世に伝えていくためにも、このような著書は大切だろう。

Posted by ブクログ