仮説実験授業とたのしい授業の発明 板倉聖宣と仲間たちの物語

中一夫(編著)

• 販売会社／発売会社: 仮説社
• 発売年月日: 2022/11/25
• JAN: 9784773503289

商品レビュー

2023/02/14

　仮説実験授業と仮説実験授業研究会の黎明期を活き活きと描き出した，渾身の一冊！　と，どっかの書評にあるような（ないか）。
　ステキな本が出た。読んでいて何度も何度も涙が出た。わたし自身，著者と同じような年頃であり，仮説実験授業と知り合ったのは，仮説実験授業が産声を上げた1963年からすでに20年近く経った頃だった。そのころには，仮説実験授業研究会にも300名以上の会員がいて，夏の全国合宿研究会や各地の研修会ではそれこそ何人もの名物先生にお会いし，お話を聞きながら，退職までたのしい教師生活を送ってくることができたのだ。しかし，その名物先生たちがどんな思いを持ちながらこの研究会を立ち上げ仮説実験授業を拡げてきたのかは，あまり知らなかった（いや，知っているつもりでいたが，今振り返るとそれは断片的な知識でしかなかった）。
　今回，先に編集された『板倉聖宣1960年代書簡集』（2010年）を元にして，研究会の黎明期のドラマを見せてくれた中さんのお仕事には，本当に頭が下がる。わたしは『書簡集』も一読していたつもりだが，こうしてあるテーマのもとで編集された『書簡集』の文章にあたっていくと，そこには研究を始めたころのメンバーの熱い思いがもっと強い調子で表れてきていた。特に，板倉先生の研究同人への数々の手紙に現れている仮説実験授業の研究への思いはひとしおであり，その板倉先生の思いを確認する度に目頭が熱くなるのであった。
　板倉先生の研究者としての徹底的な責任感にわたしは圧倒された。こんな研究者が，いまの教育界にいるだろうか。ああすればいい，こうすればいいと指導案ばかり書き直させて，現場教員の体力を奪うだけの「研究」（かっこつき）がいかに多いことか。それは決して研究ではなく，パワハラ，いじめである。
　わたしは研究会に所属してから，教師や子どもに寄り添い，真のヒューマニズムに則った本物の研究の姿を，先人たちにしっかり見せてもらった。そして，その研究成果を利用させてもらってきたわたしは，次の世代にも，その研究の一部を受け渡していきたいと願うのだ。いや，その研究姿勢をこそ学んでほしいと思うのである。
　中さん，本当にありがとうございました。「編集後記」を読んで，本書を作ることになった板倉先生との会話が2010年の能登大会だったことをお聞きして，なんかうれしかったです。へ～，和倉でそんなことがあったんだって。あれから13年。板倉先生には読んでもらえなかったけれども，ぜひぜひ，サークルの若い人たちには読んでもらいたいです。
　常体敬体入り乱れての文章は，今の自分の本音の世界です。