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桜 文豪怪談ライバルズ! ちくま文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 筑摩書房 |
発売年月日 | 2022/01/08 |
JAN | 9784480437914 |
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商品レビュー
3.6
5件のお客様レビュー
桜をテーマにした怪談アンソロジー。どれにも美しく、そして恐ろしい桜の光景があります。桜の時期にしっとり読みたい一冊です。 桜の怪といえば絶対外せないのが坂口安吾「桜の森の満開の下」。これはもう何度読んでも素敵です。桜は綺麗だけれど、桜の森の満開の下を想像すると、たしかに何やら恐ろ...
桜をテーマにした怪談アンソロジー。どれにも美しく、そして恐ろしい桜の光景があります。桜の時期にしっとり読みたい一冊です。 桜の怪といえば絶対外せないのが坂口安吾「桜の森の満開の下」。これはもう何度読んでも素敵です。桜は綺麗だけれど、桜の森の満開の下を想像すると、たしかに何やら恐ろしいような気がしますし。 日野啓三「消えてゆく風景」にはじわじわと、恐ろしい気分にさせられました。たわいない手紙のやり取りに思えるのだけれど、読むほどに怖くなっていきます。なるほどこれも桜が印象的。
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・ 東雅夫編「桜 文豪怪談ライバ ルズ!」(ちくま文庫)は先日の「鬼」に続くアンソロジーである。泉鏡花に始ま り、加門七海に終はる計17篇が収められてゐる。例の如く文豪とついてゐるから、いかなる作家が文豪なのかと思つてしまふ。漱石も鴎外も芥川も入つてゐな い。梶井基次郎、坂口安吾...
・ 東雅夫編「桜 文豪怪談ライバ ルズ!」(ちくま文庫)は先日の「鬼」に続くアンソロジーである。泉鏡花に始ま り、加門七海に終はる計17篇が収められてゐる。例の如く文豪とついてゐるから、いかなる作家が文豪なのかと思つてしまふ。漱石も鴎外も芥川も入つてゐな い。梶井基次郎、坂口安吾、高田衛、萩原朔太郎、岡本かの子等々、文豪らしき人もゐればさうは思はれない人もゐるといふ感じであるから、前回とさう違ひは ない。新しいところでは石川淳、中上健次、日野啓三、倉橋由美子と続くから、 それなりに知名度と力量のある作家を揃へてゐるとは言へる。しかし、所謂文豪に当たるかどうか。今少し時間が経たないと決められないことであらう。それでもそこは売らんかなの出版界、かうして文豪とつけて売らうとしてゐるのであらう。私はそれに乗つてしまつたのだが、本書は面白いアンソロジーであつたとは思ふ。 ・岡本かの子の「桜(抄)」は短歌連作である。80首余ある。たぶん全首に桜といふ語が入つてゐる。徹底的に桜である。個人的には、作の出来は別にして、 これだけの桜の短歌を詠むことができるといふことが驚異である。これは抄出であるから、実際には更に多くの短歌が詠まれた。これだけ桜にこだはれる、いや集中できる精神を私は持たない。他の歌人でもさうだが、多くの連作をものしてゐる。一つの物事を徹底的に詠む。この緊張感は、たぶん、他の何物にも代へ難いものがあらう。東は「編者解説」で中西進「花のかたち」を引用してゐる。その一節に、「この、いわばアンニュイといったものも、憂鬱な桜の一態にすぎない。かの子が花を見て嘔吐したことはすでにふれたが、繊細なかの子の神経が花の豪宕な力に堪えられなかったのであろう。」(332頁)とあるのを読むと、 かの子は繊細かつ強靱な精神を持つてゐたのだらうと感心するばかりである。同時に中西が、「むしろ桜はかの子を圧倒し、かの子を憂鬱においやり、心をわれとわが身に向かわせることとなった。」(同前)と書くと、その繊細かつ強靱な精神は、それゆゑに極めて壊れ易いものであつたのかと思つてみたりする。それでもこれだけの短歌を詠んだのである。精神を病む前の作品であらうか。もしかしたら桜に一平等の姿が投影されてゐるのかと思ふ。これは、それこそ私の〈幻想〉であらうが、このやうな連作を詠めるだけの精神を持ちたいとは思ふ。それ にしても桜といふのは、これが怪談話のアンソロジーであるからか、死と密接に結びついてゐる。かの子はアンニュイですんだ。基次郎は「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」(63頁)と書いた。「俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。」(同前)ともある。これらが人口に膾炙したのは、やはり桜の本質を言ひ当ててゐるからではないか。あれは美しい。ぱつと一 斉に咲き程なく散る。それを本居宣長は大和心と言つた。しかし裏から見るとといふのが、近代の文人の感じ方であつたのではないか。あれだけ美しいのにはわけがある。さうだ屍体だ、屍体の源が桜の花なのだといふのである。このアンソロジーを読んで、私はやつと分かつたやうな気がしてきた。桜は死と分かち難く存在してゐるのである。最後の女流2編、森真沙子「人形忌」、加門七海「さくら桜」は全く傾向の異なる作品だが面白い。やはり死に結びついてゐる。敢へて言へば、彼岸と此岸の人間にである。軽く、あるいは重く、これも基次郎や安吾の作品の影響下にある作品なのであらうか。人間、いや日本人は桜の美しさだけでなく、その裏も見てゐるらしい。鏡花の「桜心中」もまたそんな作品に相違あるまい。
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文豪たちによる「桜」テーマの傑作アンソロジー。 梶井基次郎「桜の樹の下には」、坂口安吾「桜の森の満開の下」、そして萩原朔太郎「憂鬱なる花見」は、今さら説明など蛇足だろう。 ・泉鏡花「桜心中」……この文体、好きな向きにはたまらないのだろう。いや、美しいとは思う。 ・高田衛「白痴と焼鳥と桜」……近世文学研究者による安吾論。作品の向こう側に安吾が見ていた風景。 ・岡本かの子「桜(抄)」……短歌集 ・石川淳「山桜」……白昼夢を見ているような酩酊感が悪夢に。 ・中上健次「桜川」……一読では何か作中に入り込めず今一つ内容が頭に入らない、が再読する気も起きず。 ・日野啓三「消えてゆく風景」……老人同士の往復書簡は次第に不穏な雰囲気に―と思うや意外な方向へ。桜の樹と対照的な、自己増殖する廃品の山が印象に残る。 ・赤江瀑「平家の桜」……落人伝説の残る山村の〈桜の森〉の伝説。桜はやはり”憑く”。 ・小泉八雲「ウバザクラ」「十六桜」「因果ばなし」(訳】円城塔/山宮允/平井呈一)……八雲による桜奇譚を三者三様の訳で愉しむという。 ・倉橋由美子「花の下」「花の部屋」……異界の存在から史実の人物まで、見えざるものと交わることのできる女性《桂子さん》が登場する連作の内二編。洋装の西行法師は粋だが、御深草院ってNTR(検閲済 ・森真沙子「人形忌」……人形浄瑠璃による、不慮の死を遂げた人気舞台女優の追悼公演。四世鶴屋南北の江戸怪談と平成初期のJホラーの雰囲気、さらに当時の空気感が溶けあい、収録の他作品とは明らかに異なる味わい。 ・加門七海「さくら桜」……地神盲僧の清玄、少年に化けた狛犬、青年を傀儡にした鴉が織りなす、人の世の栄枯盛衰、妖怪との交わり、輪廻転生。最後の最後に涙腺を刺激されるとは、不覚。 ちなみに倉橋由美子「花の下」、石川淳「山桜」は、同じ「桜」テーマアンソロジーの銘品『櫻憑き《異形コレクション綺賓館Ⅲ》』で既読だったのをすっかり忘れていた。 きっと来年の桜の季節も、その翌年も書架から取り出して開きたくなるだろう1冊……のような気がする。
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