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平沼騏一郎 検事総長、首相からA級戦犯へ 中公新書2657
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 中央公論新社 |
発売年月日 | 2021/08/18 |
JAN | 9784121026576 |
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平沼騏一郎
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1939年、独ソ不可侵条約が締結されたことで ドイツ共産党は大混乱に陥った それまで抗ナチスで結束していた人々は ソ連の方針に追随する派と、抗ナチ継続派に割れて 大モメにモメたという 一方、日本では 時の政権・平沼騏一郎内閣に激震が走っていた ソ連封じ込めのために推し進めていたド...
1939年、独ソ不可侵条約が締結されたことで ドイツ共産党は大混乱に陥った それまで抗ナチスで結束していた人々は ソ連の方針に追随する派と、抗ナチ継続派に割れて 大モメにモメたという 一方、日本では 時の政権・平沼騏一郎内閣に激震が走っていた ソ連封じ込めのために推し進めていたドイツとの協調路線を ヒトラーにひっくり返された格好であったのだ 「欧州の天地は複雑怪奇」 そんな迷言を残して平沼内閣は総辞職を選ぶ 日中戦争の落とし所を見失っていた当時 ソ連が東側に力を注ぐ可能性は、考えるまでもなく脅威だった しかし…それで政権をほっぽり出すものだろうか 平沼は司法省出身の、元は検事だった 不起訴を餌に政財界とのコネを作った(日糖事件)とか デッチ上げの贈収賄事件で政敵を蹴落とした(帝人事件)とか 悪い噂に事欠かない人である 観念右翼と呼ばれるクチの国粋主義者であり 大逆事件の捜査を指揮したという事実もあって 暗黒の戦前イメージを担うひとりであることは間違いない 司法改革に尽力したのは確かであるが 裁判官の大量リストラを主導して 自身の勢力を伸ばした部分も、おそらくある 昭和維新を説いた身でありながら 226事件直後に自前の右翼組織を切り捨て 後世には無定見の陰謀家、マキャベリストの印象を与えた そう、確かに権力奪取が目的化している部分は あったかもしれない しかしそもそも平沼が国粋主義に走ったきっかけは 犯罪増加に抑制をかけたい一心であった 利益追求のために法を侵す人々の個人主義 あるいはテロを引き起こす共産主義や無政府主義 そういった外来思想へのカウンターが国粋主義であり それを布衍するために権力は必要だった ところが1931(昭和6)年あたりから 右翼のテロがやたら目立つようになってきた 司法省時代、冤罪の抑制を期待して唱えた徳治主義が 軍では身内を甘やかす風潮として蔓延しており それが226事件を引き起こす土壌となった どんな「主義」も原理であって 人間社会に対してはいずれ逆説を突きつける だから国粋主義の行き着く先は共産主義と同じだと いくら言ったところで 官僚・平沼はそのことを納得しなかっただろうし そんなだから政党政治には批判的だった 談合や賄賂といった闇の側面ばかり見すぎたせいもある その中で、個人主義とは別にある人間の人間らしさに対し 絶望を深めていったのだろう 宮中入りを目指しながらファッショ傾向を危ぶまれてかなわず 枢密院議長を経たのち 中国相手に大失言をかました近衛文麿の後継として ようやく総理大臣になったころ 平沼は良くも悪くも老いてイビツになっていた つまり本人が複雑怪奇だった 実際のところ、日本的道徳観を盾にファシズムは否定していた 陸軍の推し進める総動員体制にも抵抗した しかしパーフェクトワールドを夢見たことに変わりはない ドイツには虫のいい要求を押しつけ 相手にされなかったと見たほうがいいのかもしれない 要は性善説に基づく空想的政治家であって グローバルの野蛮な現実、時局に対してはどこかズレていた それに対しほとんど何もなしえず ひとつのつまづきでぜんぶ御破算にしてしまうことを いさぎよさと言うことはできない 完璧主義の弊ではないか とはいえそれは あくまで英米を敵としない方針を貫いた結果でもある のちに締結される日独伊三国同盟は 英米との敵対関係を見据えて結ばれたものだ …理想論が先に立つあまり 実行に際してはどっちつかずに見えてしまうところがあった 太平洋戦争においては終戦工作に携わったものの 国体護持にこだわる態度を問題視され 結局、A級戦犯として終身刑を言い渡された 一方、中国の蔣介石は共産党に追われ 大陸を脱出していた 平沼がもう少し粘って和平工作に手をつけ 防共についてコミュニケーションする機会を持ってたら どうなっていただろうか
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平沼騏一郎の複雑な経歴、人間像を詳細に描写した一冊。司法官僚時代に検察の権限拡大と精密司法への道を確立した一方で自身の司法人脈を作り社会主義弾圧等へ利用した。司法制度を政治と調整しつつ作り上げた力量は卓越している。枢密院時代、そして国本社を基盤とした政治活動期は政党との距離をとりつつ自身の政治的影響力を増大させたが西園寺公に忌避され政権獲得まで15年を要した。政権獲得後は外交面では日本を米英とも独伊とも違う、防共を題目に各国と強調しつつ中国と和平を達成し東亜に新秩序を作る道義外交を志向した。しかしアメリカを仲介した日中の和解、天津租界封鎖問題を端緒にした米英との関係悪化、米英への参戦義務を伴う同盟を強制する軍部、独伊との調整の失敗、その結果としての独ソ不可侵条約の締結によって外交政策は破綻。軍部への抗議も込めて辞任する。太平洋戦争開戦後は和平を施行しつつ国体問題に過度に固執する曖昧な和平派として行動した。 平沼騏一郎の生涯が体系的にわかる。これを読むまで平沼が司法制度に果たした役割や天皇の政治干渉自体を、即ち親政を必ずしも好まなかったことを知らなかった。また、平沼が権力がそれぞれ分立し天皇の輔弼によってまとまりを持って機能する国家を想定し、近衛の新体制に反対したこと、儒教、国学を重視する愛国教育に力を入れたことがわかった。全体として実務的な官僚の色が強く、政治体制は観念的で実現の見込みが少ないものであったと感じる。
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「複雑怪奇」声明で知られる平沼騏一郎の司法官僚から首相・重臣に至る生涯を描く。平沼の本格的な伝記としては、現時点でほぼ唯一のものである(著者の前著も平沼の伝記的な著作であるが、博士論文を基にしたガチガチの研究書である)。倉富勇三郎日記などの史料を駆使して、実証的に平沼の実像を明ら...
「複雑怪奇」声明で知られる平沼騏一郎の司法官僚から首相・重臣に至る生涯を描く。平沼の本格的な伝記としては、現時点でほぼ唯一のものである(著者の前著も平沼の伝記的な著作であるが、博士論文を基にしたガチガチの研究書である)。倉富勇三郎日記などの史料を駆使して、実証的に平沼の実像を明らかにしている。 平沼は、決して「ファッショに近き者」というわけではなく、司法官僚としては近代司法制度の基盤を築いた一流の存在であったが、観念的な主張ばかりで具体的なビジョンを示すことができず政治家としては二流と言わざるを得ないと感じた。
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