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身内のよんどころない事情により 新潮クレスト・ブックス
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 新潮社 |
発売年月日 | 2021/07/29 |
JAN | 9784105901721 |
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身内のよんどころない事情により
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ベルギーの中堅作家、エミール・ステーフマンは「身内のよんどころない事情により」と嘘の言い訳をして作家同士の会食を断る。将来自分の伝記を書く人間がこの嘘のメールを読んだら何を考えるだろうか、という思いつきを発端に、ステーフマンの頭のなかで〈伝記を嫌悪するベストセラー作家・T〉を主人...
ベルギーの中堅作家、エミール・ステーフマンは「身内のよんどころない事情により」と嘘の言い訳をして作家同士の会食を断る。将来自分の伝記を書く人間がこの嘘のメールを読んだら何を考えるだろうか、という思いつきを発端に、ステーフマンの頭のなかで〈伝記を嫌悪するベストセラー作家・T〉を主人公にした新しい小説が動きはじめる。が、突然の出来事が4歳の娘・レネイを襲い——。三部構成で複雑に展開するメタフィクション。 合わせ鏡の像を奥の奥の奥まで覗き込んでいるような小説だった。杉江松恋の紹介文(http://honyakumystery.jp/18153)に惹かれて手に取ったのだけど、たしかに独特の後味が残る「ヘンテコな小説」だ。 第Ⅰ部は三人称視点でうだつの上がらない中堅作家の日常が描かれる。田舎の庭付き一軒家に住み、娘の面倒を見つつ執筆するという傍目にはいい感じの暮らし。だが、作家として決して売れてはいないこと、バリキャリの妻を見送る主夫の立場に甘んじていることで、近所の老人たちにナメられているのではないかと疑心暗鬼になっている。コンプレックスを使った心理的伏線がうまく、男女の役割のミラーリングも自然で、ここだけでも主夫の心理小説として読めるなと思った。 ただ、第Ⅰ部はいわゆる〈意識の流れ〉的な語りで、少し文章が入り組んでいる。途中からステーフマンが生みだしたTの人格が侵食してくるからなおさらだ。これがこの著者の文体なのだなと思っていると、第Ⅱ部に入って裏切られる。 第Ⅱ部は「ぼく」の一人称視点で書かれた断章からなり、レネイの入院先にタイプライターを持ち込んだステーフマンが待合室や病室で打った手記という設定。ここでは妻や医師たちと会話する場面と、頭のなかだけで展開する妄想や悪態は一行空きではっきりと区別され読みやすい。それだけに、自販機の傷に触れればもう一つの世界にいける、と妄想に取り憑かれる最後の断章は痛ましくもあり、同時に読まれることを想定した文章の抑制も感じさせる。 第Ⅲ部は同じく「ぼく」の一人称だが、視点人物はステーフマンの伝記を書こうとしているジャーナリストで、第Ⅱ部からは10年近く経ったらしい。このパートは俗っぽい文体になり、ステーフマンのゴシップを聞き回る「ぼく」と、ステーフマンが送ってきたビデオに映るレネイの様子が対比されている。日常を小説に昇華したステーフマンの逆を辿り、「ぼく」は小説から作家のスキャンダルを読み解こうとする。しかしそんな「ぼく」も原稿から顔を上げれば妻と幼い子どものいる生活者だという、これもステーフマンとの合わせ鏡。 作中で話を完結させようと思うと、第Ⅰ部を書いたのは第Ⅲ部のジャーナリストということになる。けれど、どう考えても彼は第Ⅰ部のような文体を操る書き手ではない。ではやはりTなのか、と考えたところで著者・テリンのイニシャルがTだと気づく。これは作者が創造物に自分を創造させ、しかも伝記作家を共犯に引きずり込んでしまった小説なのだ。 テリンは〈「『書く人間』を書く人間」を書く〉という括弧の牢獄に自らを追い込みつつ遊んでいる。オランダ語で「生まれ変わる」を意味する名前を持つ娘の再生の物語を語りたい、という気持ちを伝記作家のエゴイズムに重ねてもいるのだろうか。構造は複雑で重病ものだったりもするのだけど、文体の使い分けは見事だし(訳のおかげかも)、不思議と読後感は重たくない。書くという行為自体が鏡の迷宮なのだというヒヤッとした感覚を教えてくれる一冊だった。
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構造が複雑で理解しにくい小説。 それでも数日で読み終えられたのは、第二章、夫妻が脳梗塞で患う娘を看病する様のリアリティだった。 ストーリーは新潮社のページなどで確認頂きたいが、作家である主人公が次作の構想を思いつくタイミングとほぼ同時に娘が病に倒れる。小説は娘が倒れる前は主人...
構造が複雑で理解しにくい小説。 それでも数日で読み終えられたのは、第二章、夫妻が脳梗塞で患う娘を看病する様のリアリティだった。 ストーリーは新潮社のページなどで確認頂きたいが、作家である主人公が次作の構想を思いつくタイミングとほぼ同時に娘が病に倒れる。小説は娘が倒れる前は主人公の思いや行動が描かれる章、新作の主人公が主格の章、主人公の子供の頃の経験(?)など、目まぐるしくてついていくのが大変である。 訳者のあとがきで、そうなのかと思える部分もあるのだが、腰を据えてもう一回読まないと分からないなあと思った。もう一回読もうと思えるだけの小説ではある。
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