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葉書でドナルド・エヴァンズに 講談社文芸文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 講談社 |
発売年月日 | 2021/04/12 |
JAN | 9784065220016 |
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葉書でドナルド・エヴァンズに
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商品レビュー
4.8
5件のお客様レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
子どもの頃の切手収集をきっかけに、自ら切手を描き続けた画家がいた。 ドナルド・エヴァンズ。 ”十万枚もの本物の切手のコレクションと、『全世界切手アルバム』全三巻にまとめられた千枚の架空の切手とが、物入の奥に残されました。” 切手の図柄とするために、架空の国を創った。 国を創るにあたって、言語や歴史、風物も創造した。 ”一人の友人の名前が変形されて、一つの架空の国語の代表としての架空の国名となり、この名の響きが、他の虚実の国々の名のあいだで、自分の国語の無彩限の響きを背負うことになる。そして、はじめの名は、一人の人を離れて、見えない土地をありありと見えるようにさせていく。” 彼は不慮の事故により、既にこの世にはいないのだが、作者はドナルド・エヴァンズに日記のように葉書を書き続ける。 1ページを葉書1枚分として、ドナルド・エヴァンズの生涯を追いながら、彼の周囲にいた人たちとの交流を報告し、旅を続ける。 で、どうしてこんなに行間から詩情が立ち上ってくるのだろう。 葉書に描かれているのは詩ではない。 なのに、なぜ。 ドナルド・エヴァンズの母についての一文が、忘れられない。 ”ドロシー・エヴァンズは蟹座の生まれで、水のそばが大好き。そして八十四歳のいまも、マートルビーチの水にカヌーを浮かべている。” 私も蟹座の生まれで水のそばが大好きだから、カヌーを浮かべることはしないとしても、海が近いところで暮らせたら、と思っている。 ま、札幌には海はないけど、その気になれば電車ですぐに海には行けるから、よしとするか。
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ぼくはいま、旅立ったばかりです。世界はまるで違っていて、ぼくにはなにも分からないのです。 かっこいい…
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1885年、アイオワに滞在中の詩人はとあるアーティストの生家に宛てて葉書を書いた。そのアーティストの名はドナルド・エヴァンズ。存在しない国の切手を発行し蒐集したエヴァンズに倣い、詩人は〈出せない葉書〉を書き溜めた。エヴァンズの足跡を辿る旅は彼が生まれたニュージャージーのモリスタウ...
1885年、アイオワに滞在中の詩人はとあるアーティストの生家に宛てて葉書を書いた。そのアーティストの名はドナルド・エヴァンズ。存在しない国の切手を発行し蒐集したエヴァンズに倣い、詩人は〈出せない葉書〉を書き溜めた。エヴァンズの足跡を辿る旅は彼が生まれたニュージャージーのモリスタウンから彼が亡くなったアムステルダム、そして彼がたどり着けなかったランディ島へ。〈どこにもない国〉の住人に宛てた、散文詩のようなラブレター。 住所がはっきり特定できないから届かない、という理由で葉書を突き返される冒頭から、既に31歳という若さにして火事で亡くなっているドナルド・エヴァンズというアーティストの〈不在〉が読者を現実と幻想のあいだで宙ぶらりんにする。だがその地に足がつかない浮遊感こそが彼の描いた〈どこにもない国〉の実在に繋がっていくような、不思議な旅。読みごこちはどこかカルヴィーノの『見えない都市』にも近い(カルヴィーノはエヴァンズの伝記に書評を書いたとか)。葉書に書いたという体裁で1ページ毎の断章になっているスタイルと内容の響きあいがすばらしい。 一方で、エヴァンズを追いかけた三年のあいだに著者の祖母、詩人仲間でもあった友人、そして編集者時代の担当作家だった澁澤龍彦が相次いで亡くなる。身近な人の死について語る言葉は痛切で、切手のなかの幻想の国から一気に現実の世界に引き戻されたかのようだが、むしろその死の影は詩人にエヴァンズの国をよりいっそう近く感じさせた。〈どこにもない国〉を信じるささやかだが切実な祈りを抱いて、エヴァンズが亡くなったアムステルダムからランディ島への旅程が海風と共に幕を閉じると、静かな感動がさざ波のようにこみ上げた。 エヴァンズについてはWikipediaのページもなく(英語版もない!)、本書にも登場するウィリー・アイゼンハートが書いた伝記も未邦訳のため、画像検索するしか作品を見るすべがなかった。緻密なタッチでカラフルな果物や鳥、パスタ、存在しない島が描かれた切手。友人との切手蒐集競争の延長で10歳のときに架空の切手を描きだしたというから、当時はきっと本物の珍しい切手が手に入ったかのように自慢してみせたこともあったのだろう。 著者は彼の作品の〈だまし絵〉的側面を「無垢な悪意」と評しているが、切手のコレクションを盗まれてしまった友人に〈窃盗記念切手〉を発行したというエピソードなど、少年らしいいたずらっ気が溢れている。この本を通じてエヴァンズの切手たちに抱く印象は、著者がランディ島へ向かう前日に泊まった宿屋について書いた「壊れた童話の雰囲気」という言葉がぴったりだ。 祖母の死をきっかけに、かつて祖父から譲り受けたマッチラベルのコレクションを再び祖父に見せることになったり、本当に〈どこにもない国〉になる直前の東西ベルリンを往復したり、さりげない偶然のように語られるエピソードがどれもエヴァンズの国とたしかに響きあっていて、読者もまたいざなわれていく。しなやかにしてしたたかな語りの力を感じた。
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