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トーイン クアルンゲの牛捕り 創元ライブラリ
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 東京創元社 |
発売年月日 | 2020/12/21 |
JAN | 9784488070793 |
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トーイン
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さる夫婦のささやかな口争い――あるいはいちゃいちゃから物語は始まる。 「自分と結婚したことによって、あなたは豊かで幸せになった」 双方が断じて、互いに引かなかったので、それぞれの財産比べとなった。 まずは厨房の手桶や釜から始め、奴隷、指輪、細工物、衣装などの数と品質を競う。 さら...
さる夫婦のささやかな口争い――あるいはいちゃいちゃから物語は始まる。 「自分と結婚したことによって、あなたは豊かで幸せになった」 双方が断じて、互いに引かなかったので、それぞれの財産比べとなった。 まずは厨房の手桶や釜から始め、奴隷、指輪、細工物、衣装などの数と品質を競う。 さらには羊、馬、豚を並べたが、互いに互角で勝負がつかない。 しかし、牛を比べた時、大きく差が開いた。 夫の所有する見事な牛に匹敵する牛を、妻は持っていなかったのである。 夫の名はアリル、妻の名はメーヴ、 アイルランドはコナハト国の王と女王である。 勝負に負けたメーヴは全財産を失ったかに嘆き、怒り、あれ以上の牛を得るべく手を尽くす。 見事な牛はいた。 名をドン・クアルンゲ、クアルンゲの褐色の雄牛、夫の所有する牛よりよほど優れている。 しかし、当然、そういう牛は、所有者が手放そうとしない。 よって女王メーヴは、なぜかアリル王とともにアイルランド大軍勢を集め、力ずくで牛を奪いに向かう。 そこに立ちはだかるのが、クー・フリンひとりである。 ひとり? そう、ひとりなのだ。 アルスターの戦士たちはすべて呪いのために床に伏して、闘える状態になかったからである。 しかし、大丈夫。 なぜならクー・フリンなのだから。 5才の時から数々の武勲を―― 三かける五十は百五十本の投げ槍をおもちゃの盾で受け止め、 三かける五十は百五十人の若者達との球技で、一人で対して負けることなく、 盗賊団を相手に五十の傷を負ったものの、盗賊九人を殺し、 剣と盾と槍を試しにふりまわすうちに、いくつもの武器をめちゃめちゃに壊し、 戦車にのれば十二輛をぐしゃりとつぶし―― 数々の逸話を持つ17才の少年なのだから。 数々の戦士がクー・フリンに襲いかかるが、すべて一行で死んでいく。 一行で何人もが死んでいく。 そして、それぞれがその地に名前を遺していくのだ。 シーズ・フライヒ(フライヒの妖精の塚)、アース・キルネ(キリウスの浅瀬)、ロン、ウアル、ディーリウの浅瀬、アイネーンの塚、etc.etc.etc... 神話、伝説というものを久しぶりに読んだが、たいへんに面白い。 当時これを物語った人々が、考え出せるかぎり、だれよりも強く、かっこよく、なによりも面白く、とにかくワクワクする話を――つまりは、この世で最高にすごい人のすごい物語をつくろう! と意気込んで、幾世代もの時間をかけて練り上げたものにちがいないからだ。 そんな馬鹿な! なんでそうなる! どうしてこうなる! の連続に驚きっぱなしで、まったく飽きることがない。 例の牛でさえこうだ。 『彼は、毎日五十頭の雌牛に種付けができた。・・・・・・ 毎晩五十人の屈強な若者達が、彼の広い背中の上で試合をした。百人の戦士達が彼の陰で暑さ寒さをしのぐことができた。』(87頁) 『トーイン』を読みたいと思ったのは、その舞台アルスターの名が目に入ったからだ。 私の好きな『ショーン・ダフィー・シリーズ』(エイドリアン・マッキンティ著)の舞台が、'80年代のアイルランド、アルスターなのである。 『たぶん、あれはモリガン。 黒き瞳のモリガン。哀しみのモリガン、偉大なる女王、戦いと豊穣と不和の女神。 鴉は丘を、高地の沼を、雨に濡れそぼつ通りを越えていく。 あれがモリガンなら、彼女は傷ついた大地を見おろし、満足しているだろう。アルスターというパッチワークのキルトを見て、キンタイア岬の山腹の惨事を見て、満ち足りた気持ちでかあと鳴いているだろう。』 (『ガン・ストリート・ガール』565頁) シリーズ4巻末のこの詩のような一節が、強く印象に残ったのだ。 なるほど『トーイン』にモリーガン/モリガンは出てくる。 「モリーガンとクー・フリンの対話」なる挿話では、娘にも老婆にも姿を変えて、気味の悪い存在感を放つ。 鴉に姿を変えては、たびたび現れ、戦の悪夢を唄う。 戦女神、悪夢女王モリーガンは、アイルランドでかなり重きをおかれる存在らしい。 そして、そんな神話の時代から、ショーン・ダフィの80年代、2021年の現在にいたるまで、そこは女神のお気に入りの土地のようだ。 アニメや、ゲーム、ファンタジー世界を入口として『トーイン』を読むのはもちろん素晴しい。 現に、あとがきによれば、この文庫版の出版は 『 Fate/Grand Order 』という人気ゲームが大きな理由なのだ。 そして、私は『ショーン・ダフィー・シリーズ』の読者にも、この『トーイン』を強くお薦めする。 どちらもがよりいっそう面白くなるにちがいない。
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