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フラッシュ 或る伝記 白水Uブックス229海外小説 永遠の本棚
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 白水社 |
発売年月日 | 2020/06/06 |
JAN | 9784560072295 |
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フラッシュ 或る伝記
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商品レビュー
4.2
5件のお客様レビュー
飼ったことがあれば分かってもらえるだろうか。 犬は、求めている分量を遥かに超えて愛してくれる。 相手が人であれば、適量をタイミングを選んでやり取りできるのになって、つい思ってしまう。 僕は、十分な愛を返すことができなかった。 飼い主は成長し環境も変化してゆくが、それを犬が愛情を...
飼ったことがあれば分かってもらえるだろうか。 犬は、求めている分量を遥かに超えて愛してくれる。 相手が人であれば、適量をタイミングを選んでやり取りできるのになって、つい思ってしまう。 僕は、十分な愛を返すことができなかった。 飼い主は成長し環境も変化してゆくが、それを犬が愛情をもって受け入れてくれることと、犬にとって幸せなことは一致していない。 どうにもフラッシュに感情移入してしまい、うまく読めてない気がする。フラッシュを通じてエリザベス・パレットを描いたはずなのに印象が薄い。 ロンドンに移り住む前の、まだフラッシュが幼いときの描写が素敵だ。 “緑の草のカーテンを押し分けながら、あちこち跳びはねていく。 露か雨かの冷たい玉が、彼の鼻づらのまわりで虹色のしぶきなって砕け降り注ぐ。 大地はここでは固く、こちらでは柔らかで、ここでは熱く、こちらでは冷たく、足の裏の柔らかい膨らみをひりひりさせ、なぶり、くすぐる。 すると、なんと微妙な組み合わせで混じり合った様々な匂いが鼻孔をくすぐることだろう。 しかし、突然風が吹いて、もっと鋭い。もっと強烈な、もっと悩ましい匂いを運んでくる。 ー 彼の頭脳を引き裂いて、何百もの本能を呼び覚まし、何十万もの記憶を解き放っていく匂いー 野兎の匂い、狐の匂いだ。 急流に乗って先へ先へと引き寄せられていく一匹の魚のように、フラッシュはさっと走り出す。 ご主人のことを忘れる。人間たち、すべてを忘れる。黒い肌の男たちが、「スパン!スパン!(ウサギ)」と叫ぶ声が聞こえる” 全身から迸る悦びが、文章から伝わってくる。
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19世紀、イングランド。元気盛りの子犬のフラッシュは、病気で部屋に篭りきりのエリザベス・バレット嬢に貰われる。フラッシュは太陽の下で駆け回ることを諦め、一人と一匹の小さくも満ち足りた世界を築き上げてきたが、一通の手紙を皮切りに、バレット嬢の様子が変わり始める。飼い犬の視点で詩人エ...
19世紀、イングランド。元気盛りの子犬のフラッシュは、病気で部屋に篭りきりのエリザベス・バレット嬢に貰われる。フラッシュは太陽の下で駆け回ることを諦め、一人と一匹の小さくも満ち足りた世界を築き上げてきたが、一通の手紙を皮切りに、バレット嬢の様子が変わり始める。飼い犬の視点で詩人エリザベス・ブラウニングの肖像を描きだした、一風変わった伝記小説。 イギリスの小説を読むのが久しぶりだったので、冒頭から「これぞイギリス人の文章!!!」と嬉しくなってしまった。スパニエル犬の由緒をくだくだしく語ったあと、血統書付きの犬たちと人間の貴族階級を比べてヒトを落とす、この数ページの与太的な面白さ。しかも、ここで語られるロンドン犬社会の厳格な階級分けが、のちにフラッシュがイタリアで感じる自由の前振りになっている周到さ。掴みが上手い。 フラッシュの世界は触覚と嗅覚と聴覚の世界、そしていろんなものがとにかくスピーディに通り過ぎていく。それがウルフの畳み掛けるような文体とめちゃくちゃに相性がいい。〈意識の流れ〉と言うと難しく思えるものが、フラッシュの感覚を通すとこちらも体感で掴める。それだけにものすごく感情移入してしまって、ブラウニングの登場でフラッシュが一気に心かき乱されていく三章では一緒に傷心気分になり、「彼は自分が永久に彼女を愛さなければならないのを悟った」の一文でじんわり泣いてしまった。こんなふうに絡んでしまった負の感情をほどいていくのは、人間にもなかなかできることじゃないんだから、フラッシュは偉いねえ。 バレット嬢が実はロバート・ブラウニングの妻になった詩人のエリザベス・ブラウニングである、というのがこの小説のキモなのだが、私はエリザベスの詩を知らない。でも、この二人のロマンスが大流行していたらしい刊行当時より、今読むほうがずっと面白いんじゃないかと思う。人間の話に引きずられすぎず、あくまでフラッシュの視点から成り行きを楽しむことができるからだ。 病弱なエリザベスは、健康体を持った魂のふたごとしてフラッシュを見つめる。だからこそ、駆け落ちしてイタリアに居着き、みるみる体調が良くなると、エリザベスとフラッシュはそれぞれに自立していくことになる。けれど最後までやはり一人と一匹は双生児であり、「別々に分かれてはいるが、もとは同じ鋳型で作られて、おそらくお互いがお互いの中に隠れているものを補い合って完全なものにする」のだ。ウルフの弟は「犬好きが書いたのではなく、犬になりたい人間が書いた小説」と評したという。全くその通りだと思う。 史実上の人物に材をとった伝記的な作品なので、原注でそこを補足しているのだが、ここもウルフのユーモアが炸裂していてとても面白い。特に、エリザベスの駆け落ちについていったバレット家の女中リリー・ウィルソンのことはこれだけで一章分になるくらい語られていて、主人の行動によって経済的に大きく左右される身分にいた女性の小さな一代記になっている。「歴史の中の探索ができない、ほとんど黙っている、ほとんど目に見えない召使いの女たちの偉大なる大群の代表」という締めが印象的だ。 私は前から、ウルフは少女漫画の読み方を知ってたら親しみをもって読める作家じゃないかと思っているのだけれど、犬のようにけなげな生き物に注ぐシンパシーもやはり少女漫画的だなぁと感じた。自分がエリザベスの膝に横たわるフラッシュであると同時に、フラッシュを撫でているエリザベスでもあるような気持ちにさせてくれる、犬と人の魂の結びつきを描いた人生讃歌の物語だった。フラッシュ!
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枕元にいる愛犬の温もりを感じながらこの本を読んだ今日はなんて幸せな一日だったのだろう。彼の死後、ふと思い出す一日に違いない。 人間の足下のフラッシュの視界、鼻先に感じる露の冷たさ、人間にはわからない匂いのグラデーション。 他者と一体化する、他人の立場になる、そもそも人間ですらな...
枕元にいる愛犬の温もりを感じながらこの本を読んだ今日はなんて幸せな一日だったのだろう。彼の死後、ふと思い出す一日に違いない。 人間の足下のフラッシュの視界、鼻先に感じる露の冷たさ、人間にはわからない匂いのグラデーション。 他者と一体化する、他人の立場になる、そもそも人間ですらないフラッシュの感受性を捉えること。口で言うほど簡単ではないこうした行為をやってのけてしまうのはさすがウルフ。フラッシュの荒い呼吸が聞こえてくるようなみずみずしい描写の数々。 個人的には、イタリアでノミにやられて毛を刈られてしまったフラッシュが「何者でもなくなる」こと、そしてその状態こそ「この世でいちばん満足」と描かれていたのが面白かった。
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