喪服の若未亡人兄嫁【みだら酔い】 フランス書院文庫

青橋由高(著者)

• 販売会社／発売会社: フランス書院
• 発売年月日: 2019/12/25
• JAN: 9784829644133

商品レビュー

2020/02/04

しっかりした物語性と可愛げのあるキャラと淫らな官能

[ＤＳＫ]

造り酒屋の春夏秋冬を題材とするにあたり、きちんと下調べなり取材なりを行ったと思しき専門性を窺わせる物語がしっかり描かれているのはキャリアを積んだ作者ならではであろう。信頼と実績の青橋印といったところか。これに、これまた青橋印と称したくなる作者らしいキャラが乗り、溢れる恋心を乙女チックに隠しつつ女のしたたかさを見せ、半ば振り回される形の主人公もまた好青年（ムスコは長大）という、全体としてもやはり青橋印な作品である。

亡夫（主人公の兄）の遺志を受け継いで酒蔵を切り盛りする未亡人兄嫁【綾乃】３２歳を助けるべく帰郷した２５歳の主人公。この綾乃には以前から想いを馳せているのだが、高校時代に付き合っていた【萌】２３歳が後半から加わることもあり、蔵の再生は順調に進むも恋路は紆余曲折を辿る。亡夫への未練と元カノの横恋慕が絡み合うからである。

普段は清楚な綾乃に対する「若未亡人兄嫁」とのタイトルではあるが、さらに若い萌によって作中では古株といった扱いになっている。まぁ、それも主人公への自虐的嫉妬心を表すネタになっているのは青橋流ヒロインの真骨頂であり、それを狙った立ち位置と言えよう。ああ言えばこう言うタイプで口数の減らない萌を加えた２人のヒロインは、徐々に互いへの羨望と嫉妬と対抗心を燃やしていくのである。

亡夫への操からキスを拒む綾乃だが、兄嫁とはいえ今は未亡人であり、三回忌も済ませたとなれば背徳として少々弱いと言えなくもない。綾乃自身の不器用な生真面目さと言えばそれまでだが、そんな綾乃を慮って辛抱している主人公となる。「そろそろ次の恋を始めましょうよ」といった萌の、敵に塩を送るかの気遣いへの端緒とはなるのだが、その意味では作中で綾乃自身が独白しているように面倒臭い女との一面は正鵠を射ている。故に殻を破ってからの甘えっぷりはギャップのある魅力ともなり、これを今少し早い段階で見れたら、といった心持ちにもなった。

ダブルヒロインと見れば好対照な２人ヒロインの饒舌な駆け引きとなるが、一方に肩入れすれば、とりわけ綾乃に肩入れすれば、萌がややもすると邪魔な存在ともなり兼ねない。個人的な印象ではあるが、それだけ押しの強いキャラを生み出すのがこの作者の持ち味である。