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名残の花
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 新潮社 |
発売年月日 | 2019/09/26 |
JAN | 9784103528319 |
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名残の花
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「妖怪」鳥居耀蔵が明治5年の東京に舞い戻った。当年77歳。かつて天保の改革の急先鋒として剛腕を振るい、歌舞伎役者や為永春水などを取り締まり、洋学を敵視して蛮社の獄を演出した男である。今や、鳥居胖庵として30年弱にわたる座敷牢を解かれ、新都の小役人となった孫の所へ居候している。そん...
「妖怪」鳥居耀蔵が明治5年の東京に舞い戻った。当年77歳。かつて天保の改革の急先鋒として剛腕を振るい、歌舞伎役者や為永春水などを取り締まり、洋学を敵視して蛮社の獄を演出した男である。今や、鳥居胖庵として30年弱にわたる座敷牢を解かれ、新都の小役人となった孫の所へ居候している。そんな彼が、かっては奢侈の象徴として取り締まった能役者の、若手見習い・豊太郎と知り合う。共に帝都を歩いて小さな人助けをしていく小説である。 胖庵はしかし、まるでタイムマシンで30年後に移動したかの如く天保時代と何も変わらない。変わり果てた江戸を嘆き、古きものを旧弊として壊してゆく社会を批判する。古きものの中には、かつては自分が攻撃した能の世界や、歌舞伎小屋がたち並ぶ浅草なども含まれている。胖庵は古きものの良さは、下手な町人よりはよく知っているのである。ただ、彼の中では「贅沢禁止」の政策は間違っていなかったと、なんら反省する所が無い。思想統制についても、元部下が出世して自分を真似て世論操作した事はチクリと批判するくせに、まるきり自分を反省する事はなかった。 確かに現代でも、元大会社会長とか政権幹部を務めた老人は、東京を歩いているだろう。新自由主義に舵を切った彼らを個人で責めても仕方ない。私は胖庵が小さな善行を積んだとしても、胖庵を良い爺さんなどというつもりは、この小説を読んでも1ミリも感じなかった。 私は大学2年とき、初めてゼミ形式で1冊の書物だけ読み込んだ。『崋山・長英論集(岩波文庫)』である(とは言え、現代語訳・ポイント抽出しか出来ず、恥ずかしい思い出しかない)。渡辺崋山・高野長英は、間違いなく当時の洋学に関してはTOPの頭脳だった。彼らの生命を絶つことで、江戸時代の西欧化は10数年は遅れた(と思う)。それよりももっと最悪の影響は、思想統制が当たり前という風潮が、明治になっても拡大再生産されて続いたことである。その元凶のひとつが鳥居耀蔵だった。 だからこの小説が面白くなかった、と言っているわけではない。鳥居耀蔵は鳥居耀蔵だった。彼が矍鑠(かくしゃく)として帝都を歩いている。それはとっても面白い。 私ならば、胖庵に出会わせたい人物が居る。勝海舟である。勝は、明治5年当時赤坂に住み海軍大輔に任じられていた。2人に面識は無いはずだが、どちらも幕府を残すことに意を尽くし、どちらも既に引退気分にいる。2人を語らせたい。そこで、鳥居耀蔵の罪と罰もハッキリするだろうし、実は勝海舟は明治政府の政策を根本的に批判していた。実は、誰も小説化していないが、フランスから帰ってきたばかりの中江兆民にクーデター案を作らせていた気配がある(明治9年「策論」)。その元の着想を、鳥居耀蔵との会話で得ていたとしたら、面白いかもしれない。鳥居耀蔵は明治6年10月に死去した。
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かつて『妖怪』と呼ばれその苛烈な政治で嫌われ失脚した鳥居耀蔵が明治の世に変わった江戸へ二十数年振りに帰ってきた。 今は胖庵(はんあん)と名を変えた彼が、若い能役者・豊太郎と出会う。奉行時代に奢侈紊乱の対象として徹底的に締め付けてきた能役者である豊太郎と次第に交流が深まっていくとい...
かつて『妖怪』と呼ばれその苛烈な政治で嫌われ失脚した鳥居耀蔵が明治の世に変わった江戸へ二十数年振りに帰ってきた。 今は胖庵(はんあん)と名を変えた彼が、若い能役者・豊太郎と出会う。奉行時代に奢侈紊乱の対象として徹底的に締め付けてきた能役者である豊太郎と次第に交流が深まっていくという設定が面白い。 胖庵がいわゆる頑固ジジイキャラなのが良い。かつての苛烈な性格を彷彿とさせ、すっかり変わってしまった明治の世を苦々しく思い毒づくところは外国嫌いだったという実際の彼を反映している。 この頃には江戸は東京と名を変えているだろうに、作中は東京という言葉が出てこない(読み落としが無ければ)のも作家さんの敢えての仕掛けだろうか。 二十数年の監禁生活から解放され江戸に戻ってきても家族は冷たい。しかし胖庵のキャラからそんなことでへこたれる姿は微塵も見せず、あちこちの親類を回った結果、一番冷たくあしらわれない孫の家に落ち着いているようだ。 生活は困窮はしていないものの決して楽ではない。その辺りは豊太郎と同じ。 この胖庵が豊太郎や彼を取り巻く人々、または役者たちに絡んだ様々な難題に取り組んでいくという連作短編集の形をとっている。 頑固ジジイスタイルを崩さず、かつての仇敵である役者たちの衰退と逞しさとを見つめ、時に手を貸し時に一緒に考えている。 作中、四肢を病気で失いつつも舞台に立ち続けた女形・澤村田之助が名前だけ出てくる。 以前読んだ彼を主人公にした小説でも描いてあったが、明治になって歌舞伎はガラッとそのスタイルを変えた。落語もまた同様に変えられたというのを別の小説で読んだ。 能や能役者たちを取り巻く環境もまた明治になってすっかり変わってしまう。かつては士分扱いで立派な家まで充てがわれていたのが明治になると一斉解雇、自分で稼がなくてはならなくなる。 当然能の世界から離れ新たな道に行くものが多数出る。それでも内職や副業をしながらほそぼそと芸をつないでいく豊太郎のような者もいる。一方で絶望して自ら命を絶つ者もいる。 劇的に変化する世の波を上手く捉えて先へ先へ漕ぎ出す者もいれば、溺れてしまう者もいる。だた必死にバタバタと藻掻き泳いでいる者もいる。 上手に世を渡っているもの渡れないものという二者だけではない、その合間にいる者たちの苦悩や逡巡や足掻きも描いてあった。 『鳥居さま、お教えください。私ども役者は、この明治の世に滅び去るしか出来ぬのですか。ただ、能を極めたいと思っているだけにもかかわらず、そんな些細な願いすら、私たちには許されぬのですか』 追い詰められた仲間の果てを見た豊太郎の叫びが切ない。それに対する胖庵の、上手く世を渡った側に対するちょっとした反抗が嬉しい。 『大樹公の御世とて、元は豊太閤の世の後に打ち立った新しき世であった。ならば今の明治の世とて、いずれは古び、綻びが生じて参る。国の栄えのみを目指していた志が行く先を失い、どのような隘路に踏み込むか、それは誰にも分からぬぞ』 『何が古く、何が新しいかなぞ、考えるな。ただ己の道だけを見つめ、そのために精進すればよい。それが新しき世を器用に渡れぬ者の定めじゃ』 最初は過去の遺物のような頑固ジジイでしかなかった胖庵の、そのブレない姿勢とブレないからこそかつて毛嫌いしていた役者たちと交流を深めていく姿がなんとも嬉しく、格好良く見えてくる。 似たような話が続くので途中中だるみしてしまうところもあったが、全体的には楽しく読めた。 様々な価値観や思想や考え方生き方が氾濫する今の世の中、自分というものを常にしっかり持っておくことが如何に大切で如何に難しいことかということも考えさせられた。
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天保の改革、贅沢を取り締まっていた鳥居。長年の幽閉の後戻ると江戸はなく東京に。 贅沢と取り締まっていた能の世界。明治の世で古き悪として統率され、職替えするものも多い世に、能役者の見習いの豊太郎との出会いを通じて、時代の波をさまよう人々の葛藤、情景が鮮やかにうかぶ。文化がはたす生き...
天保の改革、贅沢を取り締まっていた鳥居。長年の幽閉の後戻ると江戸はなく東京に。 贅沢と取り締まっていた能の世界。明治の世で古き悪として統率され、職替えするものも多い世に、能役者の見習いの豊太郎との出会いを通じて、時代の波をさまよう人々の葛藤、情景が鮮やかにうかぶ。文化がはたす生きる力みたいなものを、今コロナ感禍の中にあって感じる部分もありました。
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