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幸福な星
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幸福な星

仲野芳恵(著者)

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 日本経済新聞出版社
発売年月日 2019/08/24
JAN 9784532171537

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商品レビュー

4

2件のお客様レビュー

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2021/01/19

幸福などではない。 キカが経験してきたものは、耐え難い。 メイがどんなに強かったか。 説明にあったようにカズオイシグロのわたしを離さないでを読んでいたので、こちらも読んでみた。 わたしは、村田沙耶香の消滅世界を読んだときの方が幸福な星とほど近い衝撃を受けた。

Posted by ブクログ

2020/09/08

かつて栄えたある国が、今まさに消滅しようとしている。経済的・文化的に世界有数の繁栄を誇り、民主的な政治が行われ、治安がよく、学問や芸術が尊重されてきた国が。 その国は、今後ますます悪くなる状況下で生きるのを余儀なくされるであろう子どもたちのために、記憶媒体となる小さなチップを脳...

かつて栄えたある国が、今まさに消滅しようとしている。経済的・文化的に世界有数の繁栄を誇り、民主的な政治が行われ、治安がよく、学問や芸術が尊重されてきた国が。 その国は、今後ますます悪くなる状況下で生きるのを余儀なくされるであろう子どもたちのために、記憶媒体となる小さなチップを脳に埋め込むことを国独自に決めた。これにより、他国の言語や情報や知識を苦労することなく記憶することが可能になり、そこに費やされていた時間は、それらの統合や作業の応用などに使われた。 子どもたちは皆、7歳になるとそのチップが適合するかしないかの検査を受ける。アレルギーなどの原因により、チップを埋め込む手術が受けられない子どももいた。その子たちは「ナチュラル」と呼ばれた。チップを埋め込んだ「非ナチュラル」の人間とは差別され、進み具合の違いから同じ教育は受けられず、職業も主にブルーカラーと言われる肉体労働に就くものが多い。 この国の状況を把握しようと、海外から文化人類学の研究者キャサリンが来日する。この国の国民が今、どう生活し、どう考え、一体何に希望を見出しているのか、それを調査するために何人かにインタビューする。この問題は彼女の国にとって、対岸の火事ではないからだ。 この物語は、そのうちのひとり、キカという若い女性の話である。 キカは7歳のときに検査を受け、ナチュラルであることが判明した。そのことに両親はショックを受けた。ナチュラルである以上、それなりの技術を身につけさせるため、彼女にピアノを習わせた。キカは7歳で一度両親を悲しませたことに罪悪感を抱いていたので、それを挽回するためにもピアノを死に物狂いで練習した。しかし、海外留学へのテストを受けたが落ちてしまった。再び親の期待に応えられなかったキカは家を出て、ひとりで暮らすようになった。お葬式のBGMとなるピアノを弾いて僅かなお金を稼ぎ、慎ましく暮らしていた。 あるお葬式で、キカはメイという女の子と出会う。彼女もまたナチュラルだった。学もなく貧しい家庭に育った彼女を、母親は8歳の頃から毎晩いろんな男に売り、そのお金で生活していた。家に帰りたくないというメイに「うちにおいで」とキカは言い、その日から二人は一緒に暮らすようになった。 この話は、キカ自身の話と、友だちメイと、かつての恋人ミトしか出てこない。 登場人物は少なく、狭い世界を描いたものだが、テーマの大きさとこの物語から漂う虚無感からなのか、読んでいる最中は心に荒涼とした広い砂漠のような風景が広がる。 難しい漢字にルビがないことに少し驚いた。それ以外は、丁寧に選び抜かれた流れるような美しいリズムを持つ文章で、とても読みやすい。 終わりがはっきりしないので、ちゃんとした結末を望む人には物足りないかもしれない。でも、読み終わった後、必ず尾を引く何かを感じる人は感じるはずだ。 この国は、名前こそ書かれていないけど日本だと思う。 いずれ滅ぶ頃が決まっている、かつて繁栄した国、宗教を持たない国、出生率が低い国、エネルギーがやがて枯渇する日が近い国。 人は生まれながらにして、幸福の種を持っていると思う。身の丈に合ったというとちょっと語弊があるけど、それを大切育てれば誰もが必ず幸せになれる、その人だけの種を絶対持っていると信じたい。 他人と比べることもなく、誰からも非難も称賛も干渉もされることのない、自分の中の聖域にきっとそれはある。 いつそれに気づくことができるか。 キカは、このインタビューでキャサリンに自分自身を語ることにより、それに気がつくことができた。夜の闇に溶け込む藍色の服を脱ぎ棄て、白く新しい本当の自分になり歩くことができたラストシーンがそれだとわたしは理解した。 わたしは、わたしは死ぬまでに、それに気づくことができるのだろうか。

Posted by ブクログ

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