アルプスの画家セガンティーニ

久保州子(著者)

• 販売会社／発売会社: 論創社
• 発売年月日: 2019/05/01
• JAN: 9784846018153

商品レビュー

2019/07/08

　セガンティーニについての伝記である。いままで日本語で読めるセガンティーニについて書かれた本は三冊あった。列挙すると『セガンチーニ展』（1978年）の図録、『セガンティーニ展　光と山』（2011）の図録、西村書店から2011年に発行された『セガンティーニ』となる。三つとも展覧会の図録なのでセガンティーニに芸術についての考察は申し分ないのだが、人生についての事細かな事実は書かれていなかった。もちろん簡単に生涯について説明はあったのだが。それゆえに待ちわびた書籍の発行と言っていいと思う。

　著者はセガンティーニの人生についてわかりやすく説明している。過去に書かれた伝記を参考にしつつ最近分かったことをきちんと織り込み、なるべく伝説化しないように抑制のきいた調子の文章が続く。セガンティーニの人生について書かれた本は、本人、周囲、特に子供が芸術家として美化しようとしたことがあったらしいので、なるべく客観化しようとするところが現代的だなと感じる。
　また、著者はスイス在住でセガンティーニにゆかりのあるところを巡った経験を活かし、町や自然の描写をところどころに挟んでいる。セガンティーニの人生は平たんなものではなく、セガンティーニの芸術は自然と切り離せないものである。であるから本書を読めばセガンティーニの道のりをなんとなく想像しやすくなっている。
　セガンティーニ本人の書いた芸術論、詩、発言が折に触れて訳出されているため、どのような考えや背景のもと作品が生み出されたのかのヒントも多い。特に本文の最後に訳出されたことばはセガンティーニ作品を考えるうえでとても重要である。ここはぜひとも読んでほしい。

　カラー図版や白黒図版が多く、図録をわざわざ繙かなくても読めるのはありがたい。とはいえ、個々の作品分析は他の書籍を読むべきであろう。理解が深まるので、特に西村書店の本はおすすめである。