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反転する福祉国家 オランダモデルの光と影 岩波現代文庫 学術398
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 岩波書店 |
発売年月日 | 2019/01/17 |
JAN | 9784006003982 |
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反転する福祉国家
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歴史的に寛容な国と知られるオランダに対しては、現在でも包摂的な福祉国家の経済モデルとしての印象が強い。そして、それはまちがっていないのだが、2000年代以降に「寛容」で「包摂的」な「福祉国家」で起こったことは、「不寛容」で「排他的」な「極右国家」への変貌である。その経緯を説明して...
歴史的に寛容な国と知られるオランダに対しては、現在でも包摂的な福祉国家の経済モデルとしての印象が強い。そして、それはまちがっていないのだが、2000年代以降に「寛容」で「包摂的」な「福祉国家」で起こったことは、「不寛容」で「排他的」な「極右国家」への変貌である。その経緯を説明してくれるのが本書である。 結論を書くと、それは全員参加型の社会、就労優先型の福祉におおきな要因がある。そもそも福祉を受ける権利というのは、義務や責任が発生せず、万人に等しく与えられるものという理想がある。わかりやすい例では障がい者福祉である。 しかし、社会への参加を求める就労優先の福祉政策はどうか。それは、おのずとシティズンシップの問題につながる。福祉へのアクセス権を持つには、義務と責任が要求される。 オランダではフルタイムとパートタイムの雇用切り替えは、ハードルが低い。正規雇用されフルタイムで働き、子どもが産まれたらパートタイムに切り替え、子どもの成長とともに再びフルタイムに切り替える、ということも簡単だそうだ。 しかしこれは、そもそも雇用されなければ享受できない福利である。つまり福祉へのアクセス権にはなんらかの能力を有していることが前提となる。 本書で大きく取り上げられているのは移民だが(ちなみに移民排除に傾いたオランダでも、高度な能力を有するエリート移民には甘い)、それ以外にもアクセスできなくなる属性はたくさんあるだろう。包摂を進めていくと排除を呼ぶのである。(そして、オランダにおいてはこれらが極右的思想からではなく、リベラルな論理によって進められたことも本書で明かされている。) このような事態は、日本においても容易に想像できる。社会に益をもたらさない(と思われる)人間は排除してよい、という優生思想である。 しかし、本書の結論はなかなか衝撃的だ。包摂が排除をもたらすのは、脱工業社会となったポスト近代において半ば必然だというのである。 それは物質的な価値ではなく、非物質的な価値に重きを置くようになるため、必然的に求められる能力も変わる。技能的なスキルではなく、言語や共通する文化的背景が重要となってくるわけである。俗っぽくいえば、CDが売れなくなったかわりにライブの動員が増えるような事態である。CDを工場で作るには技能があればよいが、ライブの運用はコミュニケーションスキルや協力関係、折衝能力が求められる。そこで排除されるのは、いうまでもなく移民である。 20世紀の工業社会において排除されていたのは女性や高齢者だ。教育資本的に能力が足りなかったり、加齢による能力低下が見られる属性である。しかし、いまの日本を見てみてもわかるとおり、女性や高齢者の就労は支援が進む。これらは女性にも教育資本が投入されたり、高齢者の身体が元気であるなどの理由もあるのだろうが、社会において求められる能力の基準が変わったのである。コミュニケーション能力が最重要になれば、重視される属性も変わる。言語能力や文化的背景で区別される。排除される区分が変わるのである。 本書の構成的には、タイトルに光と影とあるように、前半でオランダの光、後半で影の部分を書くというものでわかりやすい。
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オランダは小国で政治的にも、経済的にも目が向かないことが多いが、戦後の政策方針を1つ1つみていくと非常に興味深い。 当初は大陸型として福祉政策を展開していたが、労働改革や人権重政策を経て、「寛容な国」へと変容を遂げる。しかしグローバル化、ダイバーシティ政策に反発する層も次第に増...
オランダは小国で政治的にも、経済的にも目が向かないことが多いが、戦後の政策方針を1つ1つみていくと非常に興味深い。 当初は大陸型として福祉政策を展開していたが、労働改革や人権重政策を経て、「寛容な国」へと変容を遂げる。しかしグローバル化、ダイバーシティ政策に反発する層も次第に増え、今や「寛容な国」としてのオランダは過去の姿へとなった。近年は移民政策への規制も厳しく、極右派の台頭も顕著になっている。
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帯に付された「ポピュリズム」の言葉は少々キャッチャーにすぎる。一方、特に結論部の第4章に収められた、リベラル国家の代表と目されたオランダが、新世紀を迎えたころから移民排斥をはじめ「右傾化した」と評された転向の解説は読むべき価値がある。 簡潔には 元来、オランダは大陸福祉国家...
帯に付された「ポピュリズム」の言葉は少々キャッチャーにすぎる。一方、特に結論部の第4章に収められた、リベラル国家の代表と目されたオランダが、新世紀を迎えたころから移民排斥をはじめ「右傾化した」と評された転向の解説は読むべき価値がある。 簡潔には 元来、オランダは大陸福祉国家ー>家族、組織を基盤とした社会を標ぼうし、その中で北海油田を財源としてコミュニティを通した国家からの手厚い補助を与えていた。 90年代の産業の高度化(製造業からサービス業へ)進展により、単純な労働力の輸入よりもコミュニティ内部におけるコミュニケーションを活用した経済成長力を重視し始めた。結果、女性や高齢者は労働市場で歓迎されたが、移民は排斥されるようになった。 また、同時期にこれ以上の過大な支出に耐えきれないほどの財政悪化が進行。ちょうどよいタイミングで、既存政党を批判することで、移民に非寛容な右翼改革派の新政党が勢力を伸ばした。 リベラル、リバタリアニズムからコミュニティへの転換論はマイケル・サンデル教授の議論を思い起こさせる。米国哲学の議論ではあるがもう一度著作を読んでみたい。 筆者も後書きに書いていることだが、ある国の政策が「寛容」「非寛容」、「ポピュリズム」「リベラル」と評されるときに、政策のほんの一面のみを捉えてレッテルを張っていないだろうか。 民主主義国家におけるの政策「セット」は、その国の国民自身が徐々に自分たちの文化や経済を念頭においた選好によって取得してきたものである。進化論の話ではないが、ある程度は必要とされて(最適ではないにしろ)適応されてきた選択だ。 そのため、ただ一つの政策のみを取り上げて「リベラルで好ましい(行き過ぎている)から取り入れる(取り入れない)べきだ」と議論をしたところで、それが他の国で想定したとおりには動くはずがないのである。
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