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ヒトラーのモデルはアメリカだった 法システムによる「純血の追求」
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | みすず書房 |
発売年月日 | 2018/09/04 |
JAN | 9784622087250 |
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ヒトラーのモデルはアメリカだった
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ナティスの反ユダヤ政策を進めるための法律、いわゆる「ニュルンベルク法」の検討にあたって、アメリカの人種差別的な法律が真剣に検討され、法案に大きな影響を与えたということを論証している。 たとえば、フレドリクソンの「人種主義の歴史」を読むと、アメリカや南アメリカの人種主義とナティス...
ナティスの反ユダヤ政策を進めるための法律、いわゆる「ニュルンベルク法」の検討にあたって、アメリカの人種差別的な法律が真剣に検討され、法案に大きな影響を与えたということを論証している。 たとえば、フレドリクソンの「人種主義の歴史」を読むと、アメリカや南アメリカの人種主義とナティスの人種主義が、比較対比されながら、論じられていて、「人種主義」がナティスだけのものでないことがわかる。そして、この本を読むと、それがより具体的なものとして、理解できる。 ナティス・ドイツがアメリカから学んだのは、黒人差別の根拠となる具体的な法律だけではない。 歴史的に、アメリカは先に住んでいたインディアンを殺戮し ながら、西部を開拓したわけだし、第2次世界大戦前は、白人以外の移民を制限したり、二流市民にしたりといったこともしていて、ナティスは、この分野における先進事例として、アメリカを評価していた。 また、ルーズベルトのニューディールの経済政策も、従来な自由主義から逸脱しており、さまざまな政策について法的な位置付けが最高裁で争われることになっている。このあたりもナティスの経済政策との類似性から、ナティスの賞賛の対象であった。 法律の分野においてもっとも驚くべき議論は、大陸法と英米法との違いにかかわることだ。大陸法は法の条文が細かく定義され、法律に具体的に書いてないこと、刑法における推定無罪の思想があるわけだが、ナティスにとっては、その法律の基本的な仕組み自体が気に食わない。 そうしたなかで、ナティスは米国のおおらかな慣例法的な性格に惹かれていく。法的にあまり細かい規定はなく、さまざまな裁判の判決などを通じて、解釈が積み上がっていくという仕組みをドイツの人種差別などの法のなかに取り入れていく。 これが、きわめて恣意的な司法制度、裁判を可能にしていくのだ。 反全体主義の経済学者で、アメリカに移住したハイエクの議論によると、人間が人工的に法を作っていく大陸法よりも、自然な法秩序が慣例の中から生み出されていく英米型の法律のほうが優れているということだったのだが、ここでおきているのは、その慣例法がこういう形で悪用されるということだ。 さらに、ナティス内部者は、ヒトラーの命令に単純に従うのではなく、「ヒトラーだったらどう考えるか」ということを自ら考え実行することを求められていたという説明は、これまでナティス関係の本で読んできたものとリンクづけられる指摘なのだが、あらためて法律体系との関係でその理解が深まった気がする。 実は、タイトルほど衝撃的な本ではなく、ある程度、この分野を読んだあとでは、「だろうな」という話しなのだが、これまでいろいろ学んできたものが、法律という観点から議論され、つながっていく感じがあった。
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結婚を犯罪にする法理 ヒトラー率いるナチスによるユダヤ人差別やホロコースト(大量虐殺)と聞くと、ドイツという国の特異な現象だと思いがちだ。しかし実際は他国の思想や制度から影響を受けている。 本書は、ナチスの反ユダヤ立法(ニュルンベルク法)が米国の法制度にヒントを得ていたという...
結婚を犯罪にする法理 ヒトラー率いるナチスによるユダヤ人差別やホロコースト(大量虐殺)と聞くと、ドイツという国の特異な現象だと思いがちだ。しかし実際は他国の思想や制度から影響を受けている。 本書は、ナチスの反ユダヤ立法(ニュルンベルク法)が米国の法制度にヒントを得ていたという、驚くべき事実を明らかにする。 米国といえば、自由と民主主義の国であり、第2次世界大戦ではナチスドイツと戦い、打ち負かした国だ。その米国の法律がナチスによる人種迫害・抑圧政策の手本になっていたという。 本書によれば、ナチスが反ユダヤ立法を設計する際、悩みの種が二つあった。一つは、欧州には互いの合意に基づく異人種間の結婚を犯罪とする法理が存在しなかったこと。もう一つは「ユダヤ人」の科学的な定義が存在しなかったことである。 ナチスはこの二つの難題に対する解決を米国に発見する。 米国では多くの州に人種法が存在した。たとえばメリーランド州では、白人と黒人との間、白人とマレー人との間、黒人とマレー人との間などの結婚を禁止し、無効とした。違反者は破廉恥罪を犯したものとされ、禁固刑に処された。 また、米国の州法では、日本からの移民を懸念するにもかかわらず、日本人ではなくモンゴル人という言葉を使うなど、科学的に正しい人種の定義がなくても、実効力ある法制度をやりくりしていた。 1934年、ナチスドイツのギュルトナー法相や官僚たちは、反ユダヤ立法の計画を練った会議で、こうした米国の法制度について入念に準備した報告書をもとに、詳細な議論を交わした。とりわけ熱心だったのは、最も過激なナチ党員たちだったという。 ヒトラーも著書『わが闘争』の中で、米国こそが健全な人種秩序の確立に向けて前進している「唯一の国家」だとほめそやしている。 ナチスがモデルとした米国の人種法。その背景に移民問題があったことを考えると、現代にも重い教訓となるだろう。
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少々思い切ったタイトル(原題はHitler's American Model)である。著者は米国人であり、読者の反発を予想してか、本書中でも慎重な説明がされている。 アメリカはユダヤ人を虐殺してはいないし、ナチズムに加担はしていない。しかし、ナチスが法整備にあたり、アメ...
少々思い切ったタイトル(原題はHitler's American Model)である。著者は米国人であり、読者の反発を予想してか、本書中でも慎重な説明がされている。 アメリカはユダヤ人を虐殺してはいないし、ナチズムに加担はしていない。しかし、ナチスが法整備にあたり、アメリカの人種隔離政策を参考にし、それを取り入れたことが史料からは読み取れる、というのが本書の主眼である。 ユダヤ人から公民権を奪い取るニュルンベルク法の制定にあたっては、ドイツ国内でもさまざまな議論があった。法律的にユダヤ人を排除するのにどれほどの論理的根拠を持たせることができるか。いかにナチスといえども、すべてを強圧的に押し切ったわけではなかったのである。 その際に最も参考にされたのは、アメリカの人種隔離政策であった。いわゆるジム・クロウ法、黒人(あるいは広く有色人種)の一般公共施設の利用を禁止制限した法律である。 ニュルンベルク法に向けての議論の中で、ナチス寄りの法律家たちの多くがアメリカの事例を引いている記録が残っている。 本書では大きく、2点について見ている。 1つは公民権をどのようにして奪っていくか。選挙権を持たせず、居住地を限定し、一段劣った「二級市民」とする方策である。 もう1つは「純血」の線引きをどこでするか。ユダヤ人の「混血」の扱いについては、親ナチの法律家であっても慎重な意見が多かった。ハーフのものも「ユダヤ人」の範疇に入れるのを躊躇うものもあった。アメリカの「血の一滴」(ワンドロップルール)(=少しでも有色人種の血が入っていれば有色人種と見なす)の厳しさにむしろひるんでいた節もある。このあたりは、「黒人」と「白人」の場合と比較して、「ユダヤ人」と「(ナチスが定める)ドイツ人」の間にさほどの外見の違いがなかったことも大きいだろう。結局のところ、ユダヤ人とは何かは難しい問題で、最終的には「独自の文化があること」に落ちつけていくことになる。 史料からは、ドイツ人法律家が法策定にあたって、かなり厳密に論拠を積もうとしていたことが読み取れる。一方で、アメリカの人種政策はコモンロー、つまり伝統や慣習、先例に依っていた部分も大きい。このコモンローの魅力にひかれた法律家もあったようである。「前からこういうものだったから」といえば論証はいらないわけで、ある意味、これほど強いものはないかもしれない。 全般、うすら寒さが漂う。もちろん、アメリカの法律には優れたものもあるわけだが、ジム・クロウ法が存在したことは事実であり、ある意味、ニュルンベルク法より過酷な点もあったわけである。 人をある属性にしたがって区別し、排除していった先に何があるのか、そして区別し、排除する(あるいは区別され、排除される)可能性は誰にもどこにでもあり、歴史の前例はどうであったかを、私たちはよくよく考えてみるべきなのかもしれない。
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