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中尉 角川文庫

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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | KADOKAWA |
発売年月日 | 2017/07/25 |
JAN | 9784041058633 |
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中尉
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商品レビュー
3.5
3件のお客様レビュー
割と終盤までは掴みどころのない淡々とした戦争小説という感じだったが、最後のオチで中尉やビルマ人の心に触れ、これまでの灰色の物語がほんのりと色づいたように感じた。 戦争のリアルな表現もすごい。インパール作戦について少ししか触れられていないが、ちゃんと知りたいと思った。
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伊与田中尉は軍医である。メダメンサ部落における任務では衛生兵二名と寝食をともにしていた。結果、武装強盗団(ダコイ)にさらわれることになった。したがってわたしはことのあらましを衛生兵から聞くしかなかった。 ――街道から遠いところにある寒村、メダメンサ部落で発生したペストの囲い込み...
伊与田中尉は軍医である。メダメンサ部落における任務では衛生兵二名と寝食をともにしていた。結果、武装強盗団(ダコイ)にさらわれることになった。したがってわたしはことのあらましを衛生兵から聞くしかなかった。 ――街道から遠いところにある寒村、メダメンサ部落で発生したペストの囲い込みに派遣される軍医たちの護衛任務に就いた尾能軍曹。だが、肝心の護衛すべき軍医殿は風采のあがらぬ人だった。 伊与田中尉。 傾きがちな略帽、がちゃがちゃ鳴る軍刀、いい加減に剃られたひげ、益体もない長話、戦地の苦労が原因なのか、実年齢以上に老け込んだ顔貌。そしてビルマ人に対して気安く接するその態度。 現役召集と一度目の召集で支那に送られ、勝ち戦の中で士官となり歩兵の自尊心を完成させ、しかし二度目の召集で負け戦真っ只中のビルマに送られた尾能軍曹からみれば、覇気がないうえにビルマずれした伊与田中尉は、軽蔑すべき将校に見えた。 やがてメダメンサ部落にも、終戦――すなわち日本軍敗戦のうわさが届き、日本軍将兵やビルマ人たちのあいだに、波紋のように静かに動揺が広がってゆく。 英印軍が来る。日本軍は、そしてビルマはこれからどうなる――? そしてある夜、伊与田中尉は部落内に侵入した武装強盗団(ダコイ)にさらわれた。敗戦の混乱から中尉の捜索はまともに行われず、依然として行方は知れない。 英印軍の捕虜となったのち、尾能軍曹は同じく収容された人々から伊与田中尉の往時の姿を知らされる。それは尾能軍曹が知る伊与田中尉のものとはまったく違っていた。威厳ある将校としての姿。彼を蝕んだ熱病、そしてシニ温度。美しい婚約者の存在。次々と明らかになる事実の断片……。 伊与田中尉の人間像に迫ろうとする尾能軍曹は、自らの心、図らずもビルマ人たちの心の内をも覗きこみ、そして伺い知った真実のすべてをビルマの地に置いて去る。 ビルマやインドネシアに出征した日本軍の兵士たちの一部は、終戦後もかの地の独立のために戦い、散り、骨をうずめ、二度と日本の地を踏むことはなかった。 そういった人々は確かにいた。その事実を、『中尉』では、日本、イギリス、そしてビルマと三者三様の思惑入り乱れる終戦直後、当のビルマの地で行方不明となった将校の心情を、伊与田中尉という人を一時護衛した軍曹が探ってゆくというミステリ仕立ての物語にしている。 激しい戦闘や人の死を一切通さず、前線でありながら戦闘のない、ごく平凡な日常の描写のなかから、極限状態に置かれた兵士の、その前に人間である彼らの本性を、静かに、冷静に、客観的に明らかにしてゆく筆力がすごい。 尾能軍曹の視点で綴る物語はまるで自衛隊の日報を読むようだ。簡潔で、簡素で、感情に揺れることもなく、淡々と事実だけを連ねて、状況がわかり易い。けれどその行間にはビルマ人の、日本軍の兵士たちの、人間の持つ深い情動が溢れている。 これが兵士というもの、これが人間というもの、これが、ほんとうのあの人の姿、そして心! 物語の終幕。すべてを悟ったからこそ、尾能軍曹は伊与田中尉を捜すことなくビルマを去る。 “ビルマに来ることは二度とあるまい。” “涙にむせぶ将兵の中わたしは最後まで泣かなかった。” 薄情にも見えるラストシーンかもしれない。けれどすべてはビルマの恩讐の彼方に。戦争は終わった。生き残った兵士ができることは、ただ故国へ帰ることのみ。 日本とビルマ、これほどさりげなくふたつの国の関係性を、しかし深く描いた作品はきっと他にない。
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戦地という場、敗戦という状況、そのような寄る辺ない状況下にあって他人と縁を結び他人を想うことのままならなさ。人を見る目を養うというのは、いかに自らをフラットな状態に置けるかの努力であって、それは極限下とても容易くはないことと知らされる。 “中尉”の安否を示す真実はつまびらかになら...
戦地という場、敗戦という状況、そのような寄る辺ない状況下にあって他人と縁を結び他人を想うことのままならなさ。人を見る目を養うというのは、いかに自らをフラットな状態に置けるかの努力であって、それは極限下とても容易くはないことと知らされる。 “中尉”の安否を示す真実はつまびらかにならず、淡々と時間は進み、少しばかり増える推測を補強し得る事実も。しかし尾能軍曹にとっては自らの“希望”を揺するものでしかなかった。人間関係は立場と視点に制約される、それが個人間であれ国家間であれ。そんな諦観を思った。
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