デ・ハヴィランド シーヴィクセン 世界の傑作機No.177

文林堂(その他)

• 販売会社／発売会社: 文林堂
• 発売年月日: 2017/01/01
• JAN: 9784893192523

商品レビュー

2018/07/26

鳥養氏の記事がいつにも増して濃い。ただ誤字脱字の多さから☆ひとつ減点。

シーヴィクセンは試作機がファーンボロー航空ショーで墜落して観客から29人の死者を出す。それでもショーは中止にならず、次の機体がデモ飛行に上がったという。

1952年。ドイツの「BLIZ」を退け大戦に勝利した記憶も新しかったのだろう、航空先進国英国の狂気に近い航空への熱気を感じるエピソード。

しかし民間ではコメット旅客機が金属疲労で相次いで墜落し、軍事では巨大プロジェクトTSR.2が中止となる。

枯れゆく英国航空を姿で現すかのような飛行機がこのシーヴィクセン。

ヴァンパイアから継承した双胴式の機体に名エンジンエイヴォンを搭載し、下降中には音速を超えることもできる。しかし、配備が進むごとに空母が次々と退役し、本機も現役時代は12年ほどしかない。

鳥養氏の記事は事故を引き起こした原因である本機の主翼の構造的欠陥について説明している。試作機は主翼の桁が翼端まで伸びていなかったと考察されている。

デ・ハヴィランドは英国を代表する航空機メーカーの一つだったが、コメットの疲労試験の誤りといい、本機といい、空力は一流だったが、構造設計の技術はそれに比べてかなり劣っていたらしい。

双胴式は重量に比べて剛性が低く、いくつかの利点があるが追従者はいない。しかし、デ・ハヴィランドはこの形式にこだわったまま本機を開発している。しかも、後退翼で主翼の強度確保が重要なのに内翼に脚を引き込むようにしてねじり剛性の確保を難しくしている。主翼のねじりは前桁とその前の外板でD型の閉断面を形成して受け持つというスピットファイア方式。しかし、主翼の一番外側には前桁が伸びていなかったとは。

双胴の胴体をエンジンの脇にくっつけて、尾翼を２分割して内側でなく外側につければF-15と同じ配置となる。そこまで着想ができなかったところがなんとも惜しい。

一方で、艦上戦闘機として採用された後はこれといって悪い評判はなく、英国人としては左に寄った非対称のキャノピーもOKだったらしい。

構造設計の弱さが英国の航空界の限界を象徴する一方、現在でも（おそらく）飛行可能な機体が１機残っていることには英国人の航空に対する情熱が今も燃えていることが分かる。

山ほどある英国の飛行機をつぶさに調べていけば、将来の航空のためのいいヒントがえられると確信している。