わたしの日付変更線

ジェフリー・アングルス(著者)

• 販売会社／発売会社: 思潮社
• 発売年月日: 2016/11/01
• JAN: 9784783735403

商品レビュー

2024/04/26

ジェフリー・アングルスさんの詩集ですね。
ジェフリー・アングルスさん（1971年アメリカ、オハイオ州うまれ）詩人、翻訳家、大学教授。
ジェフリーさんは幼い頃に日本の文字の魅力に取りつかれました。1987年高校在学中に日本に留学。依頼事ある度にアメリカと日本を行き来されています。
2016年には西ミシガン大学の教授に成られています。
この詩集は2016年十一月に発行。
　題名通りの日付変更線を行き来されていていますが、ジェフリーさんは境界線にも幼い頃から関心をもたれていて、作詩にもその面影が出ています。

　　　　　望遠鏡

　あなたのいる
　大陸から離れて
　記憶は裏切りを始める
　目に当てた万華鏡は
　いつのまにか望遠鏡になり
　鏡に映った夕立は彗星に変わる
　地上の親密な空間から　宇宙へ
　満月が過ぎて　鎌の形に欠けていく
　少しずつ　真空に消えるまで
　それでも　わたしは見続ける
　もともと存在しなかった
　望遠鏡のレンズを通して

　　　　　竜巻演習

　晩春になると
　校長先生はわたしたち
　小学生を　両端の戸を
　開けた廊下に呼び
　竜巻演習をさせた
　先ず廊下で並び
　壁に向かって坐る
　警報が鳴ったら
　頭を膝に下げるまで
　腰を曲げる　こうすると
　少年たちはくすくす笑うが
　わたしは　こっそりと
　持ってきた本を広げて
　膝の下の要塞で
　古代の戦争を耽る

　でも　気圧計が急に下がり
　真っ黒の雲が煮えこぼれた日に
　笑う人は　ひとりもいない
　腹を立てた風が
　廊下を疾走し
　見えない手で
　わたしたちの絵を
　壁から剥がした
　縮こまったまま
　わたしたちは自分を
　小さく感じた
　本がなくてよかったと
　ふるえながらの思った
　どんなお話を読んでも
　現実には敵わないのだ

ジェフリーさんは日本語でこの詩集を書かれています。日本語への興味は尽きること無く、現在も研究をされていて、日本への愛着も増されているとの事です。透明感のある、ジェフリーさんの趣の発露を詩に託され言葉は、新鮮さを感じますね。