地獄谷温泉無明ノ宿

タニノクロウ(著者)

• 販売会社／発売会社: 白水社
• 発売年月日: 2016/05/01
• JAN: 9784560094068

商品レビュー

2018/04/23

多分、人生をかけての愛読書に一つに数えられると思う。言葉の律、語彙の響、細部に至る描写と敢えて語らぬ設定の塩梅、その全てが刺さる。戯曲としてお手本にしたい作品で、絶え間ない緊張状態を強いられながらも、読書中のそこは日常空間で最も弛緩する事の出来るテクスト機微。
人々の「伝統的」な価値観を露悪的なまでに描く故か、我々とは遠い距離にありながらもその詩情が強く心に語りかけてくる。これは虚構ではあるが、単純なる虚構ではない。岡田利規が指摘していた、内なる外部を描き出した物だ。
上演の風景がありありと雄弁に語る、なんども繰り返し観た映画以上に、ありありとその情景が描写される。言葉とは時として資格映像以上にその本質を抉り取ろうとするのであろう。
そのような意味で、盲人を描いたのは白眉である。心眼などあり得ない、そう嘯きながらも、眼に映るものだけが価値のあるものではないと常に語りかけてくるようであった。