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真夜中へもう一歩

矢作俊彦(著者)

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 光文社
発売年月日 1985/11/25
JAN 9784334921217

真夜中へもう一歩

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2013/03/10

『リンゴォ・キッドの休日』(78年)に続く二村永爾ものの第二作である。とはいえ、初版は1985年、今から二十年前になる。当然、絶版。これも図書館の閉架書棚で眠っているところを引きずり起こしてきたよれよれの一冊。昨年、三島由紀夫賞を取った『ロング・グッドバイ』が第三作だから、二村は...

『リンゴォ・キッドの休日』(78年)に続く二村永爾ものの第二作である。とはいえ、初版は1985年、今から二十年前になる。当然、絶版。これも図書館の閉架書棚で眠っているところを引きずり起こしてきたよれよれの一冊。昨年、三島由紀夫賞を取った『ロング・グッドバイ』が第三作だから、二村は、相変わらず、あまり休暇が取れないらしい。 私立探偵という、この国ではあまり現実的でない設定を採らず、主人公を現役の刑事にしたのはいいが、警察という機構に頼ったり、権力を行使して事件を探ったりしたのでは、ハードボイルド小説としては興醒めだ。ハードボイルド小説の主人公というのは、孤独でなければならない。頼りになるのは自分の拳と頭、それといくら使っても減らない口くらいのものだ。 だから、ふだんは警察で働く二村が自分の仕事に割けるのは、滅多にとれない休暇の間。なかなか巧い設定である。手帖も銃も持たない休暇中の男なら私立探偵と変わらない。ただ、探偵とちがって、基本料金や調査にかかる実費は請求できない。この作品では愛車はベンツ。着る物にも相当気を配っているようだし、食事と酒にはうるさそうだ。公務員の給料でやっていけるのか心配になるが、野暮なことは言うまい。青年と言ってもらえる年頃だ。パリッとした格好で登場する二村は颯爽としている。 医大から病理解剖用の死体が消えた。学生の悪戯を心配する友人から調査を頼まれた二村は久々にとれた夏休みがつぶれるのを気にしながらも調査を開始する。山中湖にある関係者の別荘を訪ねた二村は冴子という美貌の令嬢に出会い、惹かれるものを感じる。例の如く米軍関係者、銀行家、病院経営者、それに密輸グループと、怪しい人間達が巣くう横浜の街と山中湖を舞台に、少したがの外れたような、美しいが危うい女をめぐる殺人劇が繰り広げられる。 どんな社会にも、利権を握る者同士が作り上げたネットワークが存在している。有機体のように絡み合いながら、その中に侵入してきた異物を排除するため協力しあっている。その中では、犯罪すらネットワークの存続を脅かすことのないよう、何らかの機構によって未然に回収されてしまう。何の権力も持たない探偵は自分を囮に使うことでしか、犯罪を捜査することができない。そんな探偵は、社会にとってはウィルスのようなものだ。異物として至る所で攻撃を受ける。 手製のブラックジャックで後頭部を殴られたり、薬物を飲まされたり、果ては車のブレーキオイルを抜かれて殺されかけたりと、仕事とも言えない仕事にしては、命懸けの毎日。やるかやられるか、始末される前に真相にたどり着けば、ウィルスの勝ち。綻びを生じたネットワークは、病んだ身体と同じだ。死に至らないまでも大打撃を受ける。ハードボイルド小説とは生きのびたウィルスの後日譚である。ウィルスの生還を喜ぶ者はいない。事件が解決されても残る一抹の寂しさの原因はそのあたりにある。 知悉した横浜界隈。入念なロケハンの成果か、観光地ではない横浜の、細部までしっかり描き込まれた風景が物語の背景に濃密な実在感をあたえている。近辺に住んでいたら、本を片手に歩いてみたくなる。工夫の跡が見えるのは、車や室内にクーラーを効かせることで、空気から湿り気を取っているところ。気分はマーロウの歩くロスアンジェルスだ。 もう一つの楽しみは相手役。美貌のヒロインをめぐる競争相手に織原という仏文出でシェイクスピアやポール・ニザンを引用するインテリヤクザが登場する。学生時代、女子学生を警棒で殴った警官を刺して投獄された過去を持つ。主人公と比べてもひけをとらない腕っ節と侠気を持った人物の登場で、二村の意気も揚がる。洒落た科白が売り物のハードボイルド小説では、いい会話のできる相手を見つけることができれば半分以上成功したも同然だ。 比喩を多用した凝りに凝った文体。車や酒、拳銃、服装へのこだわり、派手なアクションと、謎を秘めた美しい女。ハードボイルドの魅力が横溢する力の入った長編である。

Posted by ブクログ

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