空海入門 新装版 本源への回帰

高木伸元(著者)

• 販売会社／発売会社: 法蔵館
• 発売年月日: 2015/08/01
• JAN: 9784831865434

商品レビュー

2023/04/28

本書は高野山大学名誉教授の高木氏による空海入門書になります。私は2015年出版の新装版を購入しました。入門書ということもあって初心者にもわかりやすい言葉で、しかし重要なキーワードや概念は外さずに解説されているという印象を受けました。本書からにじみ出る最大のキーワードは、まさに副題にもなっている「本源への回帰」ではないでしょうか。

　空海晩年の著作である『秘密曼荼羅十住心論』は、仏教以外の思想も含めて、われわれの心の展開の過程を十の段階にわけて述べたものですが、高木氏は、この十段階は直線的なものでもなければ、円環的に外に広がっていくのでもなく、むしろ自身の本源に回帰していく、中心に向かっていくプロセスだと述べられています。私もこの箇所に大変共感いたしました。胎蔵曼荼羅を見ても、中心には大日如来が座していますが、われわれは修行を通じて中心に向かわなければならぬ、本源に回帰しなければならぬ、というのが空海および密教を含めた大乗仏教の強いメッセージではないでしょうか。

　２１世紀になってデジタル化の勢いが増しています。情報通信や金融分野では機械が人間の代わりをするようになり、「機械による失業」があちこちで現実味を帯びています。このような不安定な激動期にあって、「人間とは何か」「われわれはなぜ存在しているのか」という問いが重要になってくる、そしてその時に空海や密教の思想が強い拠り所になるのではないかと感じています。