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夜が来ると
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夜が来ると

フィオナ・マクファーレン(著者), 北田絵里子(訳者)

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 早川書房
発売年月日 2015/06/01
JAN 9784152095473

夜が来ると

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商品レビュー

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11件のお客様レビュー

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2024/06/08

オーストラリア、シドニー近郊のリゾート地。夫に先立たれ、海辺の家で一人暮らす75歳のルースは、ある夜、家のなかに虎がいる気配を感じる。それからほどなくして彼女の元に現れたのは、行政から派遣されたヘルパーだという大柄な女性、フリーダだった。精力的に働くフリーダに感化され、活力を取り...

オーストラリア、シドニー近郊のリゾート地。夫に先立たれ、海辺の家で一人暮らす75歳のルースは、ある夜、家のなかに虎がいる気配を感じる。それからほどなくして彼女の元に現れたのは、行政から派遣されたヘルパーだという大柄な女性、フリーダだった。精力的に働くフリーダに感化され、活力を取り戻していくルース。だが、二人の関係は徐々に歪み始める。孤独を埋める依存と支配、混濁していく認識能力を巧みな文章で描いたサイコサスペンス。 二人の関係がどのように崩壊していくかはフリーダ登場の場面からすでに予感されている。結末が見えた上でじわじわ心地良い依存関係が進行していく。内心はおかしいと気が付きながらも、脳のアラートを無視してフリーダを引き止めてしまう独居老人ルースの心理描写こそが肝だ。フリーダが支配力を強めるにつれルースの記憶力はぐずぐずに溶け始め、しまいにはフリーダまでもが演技を超えてルースの幻想に取り込まれて虎退治に躍起になる。 フリーダはおそらく、ルースが自分の嘘を暴くより狂うほうを選んだのだとわかっていただろう。ルースの息子たちはフリーダを怪しみながらも母親に会いにこない。リチャードも一回きりの逢瀬のあとは手紙を寄越すだけ(フリーダがルースのふりをして返事をしていたのだろうか)。ルースの虎を夜通し待ち続け、退治しようと言ってくれたのはフリーダだけだった。これは老女と詐欺師との歪んだシスターフッドの物語なのだ。 ルースはフリーダとの会話を通してフィジーで過ごした子ども時代を回想する。ルースの両親は診療所を開き、尊敬される宣教師だった。だが、そこから連想されるリチャードとの苦い恋の記憶は、白人富裕層として不自由なく生きてきた自らの人生に対する疑念と表裏一体だったのではなかったか。リチャードが帰ったあとからルースが加速度的におかしくなっていく様子は、クリスティーが『春にして君を離れ』で描きだした葛藤のさらに先を描こうとしているかのようだ。 フリーダが勝手に家に住み着いているとわかるシーンはポン・ジュノ監督の「パラサイト」を思いださずにいられないのだが、この小説はちょうどあの映画を金持ちからの視点に反転したような感じだ。だからどちらかと言えば私はルースよりフリーダに感情移入しながら読んだと思う。少なくともフリーダのことをサイコで理解不能な他者だとは感じない。ルースの孤独と同じくらい、フリーダ側の切実さにも共感をおぼえる。フリーダは「パラサイト」と同じく韓国映画の「別れる決心」のソレや、ピラール・キンタナ『雌犬』のダマリスと完全に重なり合う女性キャラクターだ。 闇のシスターフッド好きとしては結末に大満足だが、息子たちとエレンのパートで閉じるならフリーダには自供させなくてもよかったかな。最後までルースの支配者然として、弱みを見せるのは徘徊したルースの帰りを待っていたところと銀行の場面だけというほうが私好みではあった。いずれにせよ、自己欺瞞にまみれながら"寂しい"というメッセージを隠したルースの心理とその崩壊を表現しきった文体が見事。決して一つにはならない二つの孤独が寄り添い合う、哀しいぬくもりに満たされた二人のラストシーンはとても静かで美しかった。

Posted by ブクログ

2023/02/01

チェストの上で寛ぐトラの装画と、朝の四時にリビングに漂うトラの気配に、冒頭から期待値が上がる(トラが個人的に好きなのだ)。 トラの気配と共に生じた切迫感で胸が騒ぐ朝に自治体派遣のヘルパーと名乗る女性が現れる。主人公の視点があやふやになってくるのにつれて不穏さがどんどん増し、現実が...

チェストの上で寛ぐトラの装画と、朝の四時にリビングに漂うトラの気配に、冒頭から期待値が上がる(トラが個人的に好きなのだ)。 トラの気配と共に生じた切迫感で胸が騒ぐ朝に自治体派遣のヘルパーと名乗る女性が現れる。主人公の視点があやふやになってくるのにつれて不穏さがどんどん増し、現実が溶けていく様がスリリング。ついついページをめくる手が早まる。 でも、一人の読み手としては、主人公であるルースの視点から見た混沌のクライマックスで物語をぷつんと終わらせて欲しかった。何が事実か分からない不安感の高まりと心理描写が最大の読み応えなので、現実の視点から語られると少しだけ熱が醒めてしまう。 もちろんエピローグには静かな余韻を感じられるので我儘な感想だとは思う(猫のその後が描かれるのはOK。どんな本でも猫だけは幸せでいて欲しいのだ)。 フィジーとオーストラリアを舞台とした情景描写も美しい。 1953年に即位したエリザベス女王が連邦ツアーでフィジーを訪れた当時、フィジーはイギリス植民地であり、プランテーションの労働力として同じ植民地であったインドからヒンドゥー教徒である多数の移民が入植していたこと。 1945年に「死の行進」として語られる、日本兵によるオーストラリアとイギリス軍兵士捕虜の収容所移動があり、多くの犠牲者が出たこと。 これらは本書を読む上で必要ではないが、ルースの回想における背景として記しておこう。

Posted by ブクログ

2021/05/05
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

オーストラリアのサウスコーストに住む老婦人ルースが、夜中にあらわれるトラを感じるようになるところから話が始まります。 ルースのところに自治体から派遣されてきたというヘルパーのフリーダが来ます。家の床をユーカリのつや出し剤でピカピカに磨き上げ、ルース自身が気付けなかったルースの痒い頭を洗い、ルースの成就しなかった過去の恋を応援するフリーダ。 物忘れが多くなり、フリーダなしでは生活が難しいことをわかりはじめるルース。一方で、フリーダのあやしい行動、遠くに住む息子たち。 そんな状況でも、過去の美しく、時に悲しい思い出を味わいながら生きるルースの純粋さに惹かれます。 フリーダはどうしてトラの罠を作ったのか、その後なぜトラと格闘する必要があったのか、結局は自分に関係ないフィジーの首都の名前になぜこだわりを見せたのか、そのあたりを考えると、フリーダも純粋な心を持っていたのではないかと想像します。 この本には、読了後に誰かと感想を交換したい気持ちにさせられます。 春に咲き誇るジャカランタや、外洋からシドニー湾に入る情景、ルースの家から眺めることのできるクジラの泳ぐ海、シドニー近郊が好きな方にはより美しい本だと思います。

Posted by ブクログ

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